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奇告蒐集  作者: 星苹
6/7

復讐の言い訳

「あんたのクラスの子、二人も居なくなったんだって?」

 夕食の時間、ヤイトの姉の何気ない一言に、ヤイトの母は眉をひそめた。

「何で知ってるの?」

 既に違う学校へも伝播していることに密かな焦りを覚えたヤイトは、不自然な所作にならないように気をつけながら、トマトジュースを手に取った。

「何か噂になってるよ。あんたの学校って悪い噂ある子居たりするし、そういう話と絡めて語られてるけど?」

 興味本位といった態の話し振りから自分への追及は無いだろうと安心したヤイトは、詳しく知らない、と言葉を濁した。すると、姉弟二人のやり取りを黙って聞いていた母親が、口を開いた。

「ヤイト、あんた最近ちょっと帰りが遅かったじゃない。その悪い噂のある子と付き合ってるんじゃないでしょうね?」

「違うよ。新しく出来たお友達の家で勉強してたら遅くなったの。」

 ヤイトは自信を持って自分の作った設定通りにと答えたが、他方では、やはり少し苦しいだろうかと思う自分が居た。

「その子は、変な子じゃないでしょうね?」

「とってもいい子だよ」

 女の子?という姉の問いに、そうだよ、とヤイトが答えると、姉はニヤニヤと笑った。

 夕食が終わると、姉はすぐに席を立つ。

「友達の家に行ってくるね」

 そうして家を出た姉について、母親は諦めたような口調で言う。

「あの子は言っても聞かないんだから」

 ヤイトは昔から姉を羨ましく思っていた。姉はこの家に縛られず、いつも自由だった。ヤイトはそのように振る舞えない自分を呪っては、同じ境遇でも常にマイペースな姉を尊敬し、姉のようになりたいと思っていた。しかし今のヤイトには、吸血鬼になった、ということのほうが、自由な自分への希望を抱かせる大きな要因になっていた。

 ヤイトも席を立つと、母はすかさず声を掛ける。

「どこへ行くの?」

「僕は疲れたから、部屋でちょっと勉強したらそのまま寝るよ」

 そう、と安心したように言う母は続けて言った。

「あんたは、お姉ちゃんみたいになっちゃダメだよ」

 ヤイトは適当に返事をして部屋に向かった。

 自室へ戻ったヤイトは、すぐに鍵をかける。そして窓を開け、森へと飛び出した。


 夜が深くなる中、街はより一層煌々たる明かりを灯している。そんな夜を忘れた街で、年齢に似付かわしくない派手な化粧と格好をした女の子が二人、大きな建物の壁に寄りかかりながらたむろしていた。

「教師が巡回してんでしょ?見付からない?」

「隣街まで回ってないっしょ。それに、堂々としてれば意外にバレないもんだって」

 手慣れた様子の少女は、事も無げといった調子であった。もう一方の少女は多少萎縮している様子であったが、他方では、自分の知らない世界に触れることに高揚しているようだった。

「誘ってくれてありがとうね」

「いいよいいよ。いつも遊んでる子らがさ、学校のアレのせいで親がうるさくなっちゃって、しばらく遊べなさそうって言うからさ。そうだ、今度おじさんにも紹介してあげるよ。好きなもの買ってくれるからさ」

 そう言った少女を尊敬するように見つめた少女が、遠くに見知った顔を確認して、強張った。

「あれ、ヤイトくんじゃない?」

 言われたほうの少女もそちらの方を見遣り、ヤイトが居るのを確認した。

「あれ、マジだ。あんなマジメ君がこんな時間に何してるんだろ?」

「後ろの子は確か、ヤイトくんのクラスに転校して来たっていう子、かな」

 二人が話していると、ヤイトとエリスの方も少女達に気が付き、ゆっくりと歩み寄っていく。

「こんばんは。小学校では同じクラスだったんだけど、覚えてますか?」

 少女達の前まで来たヤイトが言うと、その後ろについて来たエリスが続けざまに言った。

「私たちと遊ぼうよ」

 すると、少女達は虚ろな眼になり、エリスの言葉から逃れられなくなった。


「あ、あ、」

 人の居ない廃ビルの一室で、体を真っ赤に染めた二人の少女は、細くなった息で小さく喘ぐ。それは、必死に生き延びようとする体の無意識の叫びのようであったが、それでも生が徐々に遠のいているのは明らかであった。そんな二人を余所に、ヤイトとエリスは血を口に含んでは、お互い相手に飲ませ合っていた。やがて少女達が息絶えると、ヤイトは袋を取り出した。二人を小さくして詰めていると、余韻に浸っていたエリスがヤイトに声を掛ける。

「結局同じ学校の子なんでしょ?せっかく隣街に繰り出したのに」

「こっちの派手な子は遊び歩いてて悪い噂のある子だから、居なくなったらそっちの関係が疑われるでしょ?そしたら、前に消えた二人もそれに関連づけされるかなと思って」

 作業の手を止めずに答えたヤイトを見て、エリスは黒い笑みを浮かべた。

「なぁんだ。近しい人への加虐で他人に復讐してるのかと思ったよ」

 ヤイトは内心ドキッとしつつ、黙々と作業を続けた。エリスはその様子を見て、一人で納得しているようだった。

「血はどうしよう」

 袋詰めの作業を終えたヤイトがやっと口を開く。するとエリスはマッチを取り出して火を点け、その火を一気に燃え上がらせた。

「逃げよう」

 二人は窓から飛び出すと、大きく飛んでその場から離れた。

「自分を克服したら、密かな食事を心がけようね」

 森へと向かう途中、夜の空気を浴びながら、エリスは穏やかな声で言った。

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