プロローグ
今とは違うある時代のある街の片隅。そこにある特に変哲のない一軒の小さなライブハウス。名を「G.B.D」というその施設はかつて音に生きる者達が集い、自らの想いを詩として叫び、楽器という媒介を使って音という形で感情を表現する場所だった。
何故過去形になってしまったのかといえば理由はもちろんある。まずバンドという文化の衰退。楽器の演奏自体があまり必要のなくなってしまった世の中である。今や少し勉強すればパソコンや携帯端末で単独で音楽を作ることができる時代である。そんな時代で人も場所も技術も金銭も必要とするバンドというものはあまりに非効率だった。もちろんそこから得られるものも多々あるだろうが、それは音楽で生きて行きたい人々にはそれほど重要ではなかった。
次に流行の変化。時代が変われば人も変わり、人が変われば趣味も変わる。趣味が変われば流行にも影響を与え、結果それまでの流行りは少しずつ塗り替えられていく。
こうした理由が絡み、ライブハウスG.B.Dは人の寄り付かない寂しい場所となっていった。もともとこの施設はある人物が趣味で作ったものだったために客がいなくなっても潰れることはなかったが、もう客と呼べる人のいないこの建物はいつしかライブハウスという分類から中で何をやっているのかよくわからない怪しげな建物という評価へと落ちた。
現実は文字通り何も行われていないのだが。本当にそこにあるだけである。
そんな建物の中の様子。G.B.Dはいわゆるバーも兼ねているのだがそのスペースのカウンターに肘をつき日課の朝のニュースを眺めながら食パンをかじりコーヒーを啜る一つの小さな人影があった。
「平和だねぇ・・・」
そんなことを呟く彼の名前は一ノ瀬 祐希。この物語の主人公であり、このライブハウスG.B.Dを祖父から与えられた言ってしまえばこの店のオーナーである。といっても本人はこの店を本来の用途とはかけ離れた使い方しかしていないのだが。ちなみに彼の住居としての一面もある。
「さて、そろそろ行かないと遅刻しちゃうな」
食パンの残りをコーヒーで流し込みそのまま外へとかけ出す祐希。彼の長い一日が始まった。
書き出しって難しいです。読んでくださりありがとうございました。