表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

回春の女神(1)

 回春の女神(1)



 女神ヘラ。

 神々の女王にして人々に祝福を与える女神。

特に結婚は彼女が祝福を与えなければ誰も幸せにはなれない。

だが一体どういう運命の空回りか、彼女自身は夫の浮気に悩める哀れな女神でもあった。

 何故なら彼女の夫であるゼウスは、かつて世界をかけたあの神々の戦い(ティタノマキア)を勝ち抜いた英雄、全能全能の天空神。

それ故に神々の王として君臨してはいたのだが、何分女性に目がない男神おとこだった。

 それこそ見目良い乙女を見つければ、人妻だろうが、貞節の誓いを立てた聖女だろうがおかまい無しに、直ぐにあの手この手で口説いてベッドイン。

その為彼が浮き名を流した女神・人間の女の・ニンフさんetc……お相手したのは数知れず。


 その結果出来ちゃった子供も数知れず……。

 

 当然、こうもしょっちゅう乙女の貞操ハンティングを繰り返す夫に、ヘラでなくとも心も体も疲れてくるというものだ。

 そして今日もまた、案の定、目を離した隙にこそこそと出かけてしまった夫。


―――彼女に内緒で出かける時は、浮気指数極めて高し。


「はあ~、またあの亭主ヒトったら」 


 いつものごとくヘラは思い溜め息をつく。

 それを見て心配したのは、彼女の側近女神イーリスだった。


「ヘラ様」

「なあに、イーリス」


 思い溜め息をついてばかりの女神に、とっても麗しい虹の女神は、「あ、そうだ!」とばかりにこう勧めてみた。


「ヘラ様、そろそろ心身共にリフレッシュしてきたらどうでしょうか?」

「リフレッシュ?」

「はい、そうですよ!おそれながら今のヘラ様は、お美しさは変わらずとも、この頃のご心労のあまりやや女神としての輝きを失っているように思いますので」


 イーリスの言葉にヘラは思わず無言で目を伏せた。

 確かにそうだったのだ。   

 夫の浮気相手に嫉妬ばかり抱いていては。


「それに今はちょうど時季は春ですし」

「春……」


 ヘラは呟くと天空の窓から下界を見渡す。

よく目をこらしてみれば確かに木々は新緑の葉を茂らせ、そして花々の彩りは見渡す限りの下界を鮮やかに美しく照らしていた。


 そう、もうそんな季節だったのね。


 天上の世界に目に見える四季はない。

 いつも常春の様に花に囲まれて暮らす女神は、ついその時の流れを失念してしまうのだ。

 だが今、こうしてしっかりと春の訪れた下界の息吹を感じ取ったヘラは、曇天さながらの鬱心を次第に晴らしていくと、改めてイーリスの助言について考え始めた。


『ヘラ様、そろそろ心身共にリフレッシュしてきたらどうでしょうか?』

『今はちょうど時季は春ですし』


―――ならば、美と若さを取り戻そう。


 そう、ヘラは意志を固めると、表情を綻ばせて傍のイーリスに向けた。


「そうね、今がちょうど春ならば“あそこ”に赴くのも悪くないでしょう」

「では、ヘラ様」

 

 ヘラは頷き宣言した。


「ええ、これよりカナートスの泉で潔斎を致します」


 ヘラの尊意を承った虹の女神は、直ぐに彩色光を作り上げ天にかざし、カナートスの泉に向かい虹を架け、神々の女王のお出かけを知らせる先触れを出したのだった。



☆。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜☆



 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ