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マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
音楽祭と妹
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第3話-19 音楽祭と妹 最後の練習

さて、そんなこんなで練習すること本番前日。

練習のプロセスは通常のそれとなんら変わらず、

弾き間違えないように楽譜にその辺りをチェックして重点的に練習したり、

実際に演奏して各パートの音の大きさやら強さやらをチェックしたり、

時には楽譜を改良したりと、とくに変わったことはなかった。


まあ一つだけあるとすれば、

麗香が練習時、例のチートで秘密裏に時間をいじくって、

時間の流れを三分の一の速度にしていたぐらいのものだ。

ちなみにこれまで俺達は、約二十日に渡って練習してきたわけだが、

実際は六十日分練習していたことになる。

当然、ジョーやチカなど、他のメンバーは、この事実を知る由はない。




「お前ら、大分上手くなったな。

 特に牧田(ジョー)くんは、あれだけ下手くそだったのに、

 今じゃ完璧に演奏できるようになったし……

 彼だけじゃなくみんなに言えることだが、

 二十日でここまで伸びるとは正直思ってなかった」


最後の練習の合間、匠先輩は呟いた。

そりゃ、裏で練習時間が三倍に引き延ばされてるんだから、当たり前だ。


「ありがとうございます」


ジョーは匠先輩に軽く頭を下げる。


「ま、君の場合はスタートのクオリティーが低かった分、

 伸びしろが大きかったともいえなくもないけどな、よく頑張った」


ジョーはハハハ、とニコリと歯を見せて笑う。


「よしっ!お前らは音楽祭の最後の出演者(トリ)なんだから、もう一丁通してやるぞ!

 これが最後の仕上げの練習だ。次の練習はリハーサル、その次は本番だ」


匠先輩の発言に俺達は驚いた。

俺達の出演が音楽祭の最後なんて聞いてなかったからだ。

俺はあまりの衝撃的かつ絶望的な宣告を受け、

持っていたギターを思わずゴトンと落としてしまった。


「え、ええっ!匠、昨日の抽選会、オオトリ引いちゃったの!?」


チカはこの馬鹿兄貴!と罵倒しながら匠先輩の身体を激しく揺する。

昨日、学校で音楽祭のステージ出場順を決める抽選会があり、


「お前ら、少しでも多く練習しておきたいだろ?

 俺が代わりに行ってきてやるから、しっかりやっておけよ」


と監督面の匠先輩は、俺達の期待を胸にチカの家(練習場)から出て行った。

抽選会から帰ってきた匠先輩は俺達が結果を聞いても、

ただニヤニヤするだけで教えてくれなかったのだ。


「なあに気にすることはないさ。

 学校で練習してるグループもチラリと見てきたが、

 お前達のようなハイレベルなヤツはいなかったし、

 オオトリを担うには十二分の実力があるとこの俺が認めてるんだ。

 安心しな。何も心配することはない」


俺としてはあまり目立ちたくはなかったのだから、

そもそもオオトリだということ事態が由々しきことである。


「大丈夫、お前達の演奏なら恥をかくことはまずない」


……まあ、そりゃ、

俺が昨年音楽祭に行った時の出場者のクオリティーと比べれば、

こっちの方がまともに毎日練習やってたし、

俺も珍しく、というか仕方なくだが努力したし、

上手なのは当たり前といえばそうなのかも知れない。

下手な演奏で締めるより、そこそこのレベルの演奏でお開きにする方が後味いいしな。

…………別に自慢してるとかそういうわけじゃなくて、一般的にだ。




「それじゃあ最後の練習、曲を全部通してやってみよう」


匠先輩は演奏順のことで

頭がいっぱいになっている俺達を現実に引き戻す。



うしっ、そんじゃ最後の通し稽古、やるか。





俺達が演奏している間、匠先輩は目を閉じたままじっとしていた。

演奏が終わっても、彼は目を開けようとせず、

くるりと俺達に背を向けて言った。



「おつかれさん……お前ら……よく……頑張ったなっ!」



それから匠先輩は天井を見上げ、鼻を一回すすり、

「解散」とだけ短く、小さく言い残して、階段を上がって行ってしまった。

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