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マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
キカイノツバサ ―不可侵の怪物― PartB
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第5話-B14 キカイノツバサ 流星と第四の可能性

 窓からさんさんと降り注ぐ光。あちこちから聞こえる朗らかな談笑。甘い匂い。そんな中、リンと俺だけはシリアスな浮いた顔をしていた。



「コウさん、もし偽物だったらどうするんですか」


「んなこといきなり言われてもな……」



 俺は可能性が判明した直後に奥深い対応を示せるほど賢人ではない。



「まずは飛行機計画の凍結だろう。あれが元になって発足した計画だからな」



 無能にはこれぐらいのことしか言えないわけだ。それと、もし仮に王命がニセモノだとするなら、差出人の特定も鉄板で付いてくるか。


 仮にコイツが偽物だったとして、差出人の意図は何だ。大抵こういうのを送りつける奴は良からぬ謀を企てているものだ。何らかの利益もしくは欲求を満たすために、俺とリンを利用しようとしている可能性がある。

 意図はどうあれ差出人の特定は絶対だ。一般庶民が偽造できるとは到底思えない。王命の原本そのものが庶民の目に触れる事は殆ど無いはず。

 犯人の前提条件として「本物を見たことがあり」かつ「偽造できる技術を持っている」人物という想像がつく。ある一定以上の地位を持つ人物による犯行と予想するのが妥当だろう。


 想像はできても、誰が犯人かまでは予想できない。もしかしたらこの会議室の誰かが犯人かもしれない。一方、この間の説明会の様子からしても、俺がある程度有名人になってしまったことは確かで、見ず知らずの第3者が黒幕、というのもありうる。



「あくまでもしもニセモノだったら、という仮定だが」



 まあ日付問題から考えて、ほとんど偽物確実であろう。


 問題の王命を取りに行ったグレアはすぐに戻ってきた。だが会議室に入った彼女は何も持っていない、まさに手ぶらだった。


 なぜだ。俺は確かに執務室の机にしまっておいたはずだ。見つからないはずがない。まさかこんな大事な時にふざけている? それはないだろう。じゃあなぜ手ぶら? 


 よもや、俺達が気づいたことに気づいて、誰かが先回りして持ち去った?


 しかしグレアは何気ない顔をして俺たちの元へ戻ってくる。



「王命、持ってきた。これで良かったのよね?」



 小声で一言。直後グレアは急に頭を下げて謝った……のではなく、自分のメイド服のスカートをめくってそこから二本の筒を取り出した。ビックリさせんじゃねえ。誰かに盗まれたのかと思ったじゃねえか。

 差し出された筒。確かにこれは俺が注文したものである。だがしかし。スカートの内側から取り出される衝撃映像を目の前で見て、何くわぬ顔して受け取れる男がどこにいようか。



「なんでまたそんなところに……」



 俺のその例に漏れず、苦笑気味の歪な表情でそれを受け取る。グレアの表情は



「一応、仕事上私はあんたのメイドなわけ。そんな人間が両手に王命の入った筒を持って廊下を歩く。言い換えると、超重要な書類を持ったメイドが廊下を歩いてる。誰かがそれを見れば、あんたがそうさせるよう指示したんだって分かる。もしそれを分かる人(・・・・)が見てしまったら、気づくでしょ?」



 この建物内に犯人がいる可能性を考え、気づかれたと気付かれぬよう持ってきましたが何か? 顔にそう書いてあった。

 そこまで考えて行動してくれたのはエクセレント。俺なら何も考えず素手で持ち歩いていただろう。さすが、普段から頭の回転の速さを利用して悪口ばかり言っているだけはある。



「だからって、別の隠し方があったんじゃないのか」


「一番安全なのはここだと思うんだけど?」



 グレアは自分のスカートを小さくつまみ上げた。確かにそうだが……抵抗はなかったのだろうか。堂々とした言い方の割にはちょっと赤くなっている顔。やっぱり多少なりとも恥ずかしかったんだな。


 鍵を開けてひとり俺の部屋の中に入ったグレア。静かな部屋の中、執務机の引き出しを漁る。目的のブツを見つけると周囲の目を確認しつつ、さっとをスカートの内側へ隠し、再び何食わぬ顔をして出ていく。頼んだ分際でなんだが、その場面を想像するとグレアが泥棒(常習犯)に見えてならない。それに内側に物を入れらる構造になっているその服も気になる。



「何はともあれ、助かった」



 筒から王命を取り出し、紙が丸まってしまうのをティーカップで押さえつけ、俺とリンの2枚を横に並べた。そんな俺の両側からリンとグレアの顔が覗き込む。グレアも頼まれたこともあってかこの事柄に関して興味があるらしい。しかし、二人とも覗く顔が近い。

 グレアは偽物かもしれないという結果は知っているが、そう判断した経緯は知らない。余すところなく説明した。



「前にロイドが、リン宛ての王命が本物かどうか鑑定したと言っていた。結果はシロだったらしい」


「信用出来ないわね」



 グレアは眉をしかめ、リンへの王命を指さす。普段からそういう真面目な態度でいてくれると助かるのに、普段不真面目なのは反抗期だからか。



「リンの王命はこいつの後に届いたんでしょ?」


「ちょっと! 私は呼び捨てでも何でも構いませんけど、コウさんをこいつ呼ばわりするのは失礼です」



 リンはグレアの直後に割り込んだ。そういえば前にもこれで半分喧嘩というか言い合いになった記憶が。またここで同じ事を繰り返されてはたまらん。この二人、雰囲気的に水と油の関係のような気がする。そうなると必然的に俺は界面活性剤役か。いいだろう、さっさと中和させてやる。



「リン。グレアとはこいつ呼ばわりされるほどに親しくなった仲なんだ。気にするな」


「私、あんたと親しくなった覚えなんてこれっっぽっちもないから!」


「ほら、この通りだ」



 俺は笑顔で親指を突き立て、後方で全身全霊をかけて否定中のグレアに向ける。リンは息が抜けたように微笑んだ。ミッションコンプリート。



「なんだ、そうだったんですか。ごめんなさい、変な勘違いしちゃいました」


「だから違うって言ってんだろーが……」


「グレア、理由の続き」



 グレアが何かブツブツ言っていて、しかも男言葉で舌打ちまでしていたような気もするが、この際聞いてなかったことにして話を進めさせる。諦めろ、今の状況なら否定すればするほど肯定と解釈されるだけだ。



「……このダメ男の後に続いて来た王命。何で一括して送らず、二回に分けて届いたのか。それは偽造元が彼女の存在を知ったのは、一枚目を送った後だったからとしか考えられないでしょ? それにこっちの王命も、あんたたちの話が正しいとすると、神都までの往復日数が圧倒的に足りない」


「じゃあ、ロイドさんは嘘をついていたということですか?」



 すぐ近くの本人に聞かれないよう背を低めてリンが言った。



「可能性は3つ。政務院が偽造に関与している可能性。政務院が偽物と判断できないほど巧妙なものの可能性。そして、あんたたちの話が妄言である可能性」


「さすがに3つ目はありえん。俺はここで200日も過ごした覚えはないし、リンにもない」



 グレアが言った第一の可能性、行政機関の一種である政務院が王命を偽造する。その可能性は低いのではないか。

 考えたら分かる。

 偽造された王命(招待状)を手に、俺達は神都へ向かう。神都側の政務院はそれに見覚えはない。俺達がこれは本物だとナクルの政務院が言ったと言えば、遅かれ早かれバレてしまうだろう。しかも政務院のトップは国王である。そんなことをすればナクルの政務院はただじゃ済まない。自爆するようなものだ。

 二人にそれを説明すると、グレアは腕を組んだ。



「だとしても王命の伝達は政務院を経由して行われる。だから政務院全体が関わっていないとしても、その一部が個人的に動いている可能性は残る。だから絶対関与していないとは言い切れないけど、一応ここで政務院ぐるみの犯行という可能性は退けるわ」


「となると、残るは目の前の王命が巧妙な偽造品の可能性、ですね」



 俺は頷く。少なくとも、王命の伝達が政務院経由で行われている以上、組織ぐるみの犯行ではないにしろ、政務院内部に協力者がいてもおかしくない。



「アダチ様。もうそろそろ議論の再開を」



 教会側からそんな声が上がった。休みに時間をとりすぎたか。



「グレア。この問題を会議で話し合わせるべきだと思うか?」


「それは難しいところね」


「危険だと思うか?」


「ある程度は。この中に犯人がいる可能性は少なからずあるし、仮にいたら、予測のつかない展開になるかも。でも教会(外部)の人もいるし、切りだす価値はある。あんたの判断次第ね」



 政務院の人だらけの会議で切りだすより、他の人間も混じっている会議の方が、もしここに犯人がいたとしても迂闊に手を出せないだろう。グレアはわざとらしく俺の肩を叩き、教会側の座る席を指した。



「アダチ様、お呼びです」



 お前ホント演技上手いな。その演技力で俺もどこかで騙されているかもしれない。騙されていたとしても、自分からバラさない限り気付けないだろうな。俺も今言われて気づいたようにふるまい顔を上げた。



「あの、そろそろ会議の方を」


「ああ、そうだな、再開しようか」



 俺は、この話を切り出すことにした。

 話の中で、政務院が関与している可能性については伏せた。これは気付かないふりをしている方がいい。



「――というわけで、今俺が持っているこの二つの王命が偽物である可能性が出てきた。俺の隣に座っている新顔がそのリンだ」


「はじめまして」



 リンは席を立ち上がって一礼、着席。


 リアクションが大きかったのは、やはり教会の方だった。ざわつくというか、うろたえるというか。対する政務院は落ち着いた様子。メガネは静かに立ち上がった。



「お言葉ですが、王命の通達を受け取った場合は全てそれが本物であるかどうか、慎重な鑑定を行なっています。王命には偽造防止の特殊な認証印が押されていまして、その印は国王陛下ご本人がお持ちであられます。その印の鑑定や、筆跡の鑑定なども併せて行なっています。それらを突破できるほどの精巧な偽造品は今まで見つかっておりません」


「もしその鑑定が百発百中の精度だとすると、今俺の手元にある王命は本物になる。すると空白の150日問題をどう扱う? 数日ならまだしも、50日過ごしていたつもりが、実は200日以上経過していました、なんてのはさすがに暴論だ。この解決は困難なように思えるが」



 切り返すと、メガネは参った様子で着席した。それに連動して、まるでモグラ叩きかシーソーのように教会側のおっさんが立ち上がった。



「ところで、今まで疑問に思っっていたことがございます。よろしいですか」


「なんだ」


「アダチ様は異界の方ということでございますが、いかにしてこちらへ?」



 それは今する話か? いや、生活を始めて50日、なんて言葉を聞いたから、最初の一日目が気になったのかもしれない。だが話題からは逸れているだろう。俺も頻繁に脱線するけどな。



「色々あって気がついたら砂漠だ。最寄りのナクルから徒歩三日の」


「それはさぞ大変だったでしょう。具体的にどのようにしてこちらに?」



 そもそも、その話は世界の根幹に関わる部分であって、容易く言いふらすものではない。だからわざとはぐらかしたのに、そこを突っ込んでくるとはなかなかの冒険家である。聞かれても言うわけがない。


 この世界が、高度なコンピューターによってシミュレートされている仮想現実ヴァーチャルリアリティ、つまり存在しない現実だなんて言えるはずがない。俺達はこの世界で意識を持ち、身体を操って生きている。それらが元々存在しないものなんて考え方は、受け入れ難いだろう。コンピューターの概念もない世界では、なおさら理解できるものではない。



 実際のところ、PCゲームでもやろうと思ったらなんか雰囲気違うプログラムが立ち上がって、期せずしてあっちの現実(VR)にサヨナラを告げてきたわけだ。麗香の電話がもう少し早かったら、俺が異常に気づくのがもう少し早かったら、俺はここに飛ばされずに済んだ。

 リンと会うこともなく、盗賊に殺されかけることもなく、廃屋敷に潜入することもなく、一張羅から人間爆弾されることもなく、口の悪いメイドと会うこともなく、飛行機を再発明するなんて言うこともなかった。……思い返せば散々だ。



「アダチ様?」



 グレアからまたイスを蹴られた。見上げれば教会のおっさんが怪訝そうな顔をしている。回答に時間がかかっているからか。



「色々というのは端的に言うとあれだ、誘拐だ」


「誘拐……誘拐!?」


「そうだ。悪いが誘拐に関して、これ以上はかなりヤバい内容になる。だからあれだ、いわゆる自主規制ってやつで頼む」



 言ってしまうと、おそらくあの時の酒場のように、神使による記憶操作が行われる。余計なことを喋っていると、そのうち神使が面倒臭がって「お前邪魔」と、俺がここに存在した事実もろとも消されてしまうかもしれない。消すのは簡単だ。俺を選択してデリートするだけでいい。



「あの、多分彼だと思うんです! 不思議な流れ星の正体」



 隣のリンが突然割り込んできた。不思議な流れ星? 何だそれ。そういう話は聞いたことがない。不思議少女が不思議と言うぐらいなんだから、その流星はさぞ奇怪だったんだろうことは想像できる。例えば流星が落ちてくるんじゃなくて、重力に逆らって逆に地上から打ち上がるみたいな。

 こういう時は後ろのグレアに聞くべきだ。



「なあ、不思議な流れ星って何だ?」


「あんた、噂も聞かなかったの?」



 俺が小さく頷くと、グレアは「誘拐にしろ何にしろ、普通見知らぬ土地へ来たら情報収集するものでしょ」などと言いつつ説明を始めた。



「ある夜の話。その時私はメルちゃんを始め数人の仕事仲間と一緒にいて、相変わらず今日も平和だったね~みたいな事を言いながら雑談してたの」


「お前にメル以外の仲間がいたとは驚きだな」


「失礼な。私はこう見えても人間関係は上手くやる方です~!」


「(普段の言動を見てるとそうは思えないが)そういうことにしておく。それで?」


「そしたら偶然窓の外を見てたメルちゃんが『あれ、あんな星あった?』って言いだしてね。みんなで詰め寄って見上げたら、昨日までなかった青い点が夜空で眩しいぐらいに輝いてたの。

 あれは普通じゃないってみんな大騒ぎしてさ、皆こぞって屋上に登って天体観察。最初は彗星じゃないかって話だったんだけど、どうも違う。尾を引いてないし、色も輝く濃い青色で、青白い彗星とはまた違う。それを見ながら変な星って、みんなで口々に言ってたわけ」


「次の日の夜。今度もそれが見えたんだけど、青い星と言うより青く光る塊になってたというか、とにかく大きくなってたのよね。『もしかしたら神様が再び降りてくるんじゃないか~』なんて噂が立ったぐらい。

 そしてその次の日。ホントに落ちてきた。

 青い光が街の真上を横切って、青くきらめく粉を空に残しながら砂漠の方へ、ゆっくり、とてもゆっくり降りてくるの。すっごく幻想的だった。屋上でみんなとずっと見てたら、落ちて行く途中で光が2つに割れて、静かに沈着していったの。どこかの物語の中にいるみたいだった」


「確かにそれは不思議だ」



 通常、流星はとてつもない速度で大気圏に突入してくる。着地にはその場所にクレーターができることがあるほどの衝撃を伴う。ゆっくり落ちてくるなんてまずない。



「すぐに調査隊が出たんだけど、結局何も出てこなかった。道中誰とも会わなかったって。

 『あの光の中にいたのが二枚目の男だったらって思うとすっごくロマンチックじゃない?』って話もしてたんだけど、正体がヘロヘロのアンタだったら、同じ男でも正直幻滅モノだわ」



 個人的な所感まで付け加えてくれてありがとう。さり気なくグレアのメルヘン妄想癖が垣間見えて、性格とののギャップに少々俺の顔がピクついている気がするが、今は焦点じゃない。さあスルースルー。



「どうも。内容はだいたい掴めた。お前が性格に不釣り合いなロマンチスト思考の持ち主だということもな」


「不釣り合いって……ひどい」


「お前も常々ひどいだろ」



 で、リンはその流星の正体が俺だと主張しているのか。グレアはまさに夢を汚されている気分だろう。知ったこっちゃねえ。



「あの流星が現れたのは50日前ですよね。それが証拠になると思うんです。その時私、所用があって、偶然落下地点にいたんです」


「失礼ですが、青い流星を観測したのは3ヶ月ほど前で、50日前ではありませんよ」


「そんなはずはありません! つい最近の出来事じゃないですか!」



 リンがきっぱり否定する。それを聞いて一同は顔を見合わせた。


 3ヶ月前――つまりおよそ200日前。奇妙な一致。もし流星の正体が俺で、200日前にここに現れていたとしたらつじつまは合う。王命も本物でいい。しかしそうなると、さっきも言ったように俺とリンが出会ってから50日ほどしか経過していないと感じている問題をどう解決する? 消えた150日はどこへ行った?


 あの時出会った盗賊に会えば――いや、彼らはまとめて逝ったんだった。


 調査隊は出たが、誰にも会うことはなく、しかも何の情報も得られず手ぶらで帰ってきた。当時まっすぐナクルを目指していた俺達にも会わなかった。


 仮にリンの話が本当だとして、俺達はずっとナクルを目指していた。同じく俺の元いた地点にまっすぐ向かっていたであろう調査隊。会わないはずがない。



「アタマこんがらがってきた……」



 整理だ。

 流星の落下は200日前。その時に俺が現れ、そしてリンと会ったとすると、王命のつじつまは合う。


 一方で俺がここで暮らして経つ日数は、誤差はあれどせいぜい50日ほどで、リンも同じ時間感覚を共有している。50日前に会ったとすると、王命のつじつまは合わず、今手元にあるそれは偽物になる。


 そしてリンは流星の落下は50日ほど前だったと主張している。普通なら記録があるであろう政務院を信用してリンの方がおかしいと言えるのだが、あいにく俺も不思議な時間感覚をリンと体験しているまっただ中。それじゃつじつまが合わないだろうと彼女を否定すれば、俺自身の時間感覚も同様に否定できてしまう。


 流星の落下が50日前にしろ200日前にしろ、会うはずの調査隊と出会うことはなかった。ああ、賊の亡骸も見ることはなかったか。って、賊の死体はどこへ消えた? おそらく移動に空を使うだろうから、砂漠に不審なものや目立つものは容易に発見できるはず。死体を発見して何もありませんでしたなんて報告は普通しない。そういう前提で考えると、調査隊は死体も発見しなかったということになる。死体が独り歩きして消えた?


 矛盾の原因が砂漠での出来事(ここ)にあるようなニオイがする。



「しかしリン様、政務院の記録を参照すれば明らかになりますが、流星の記録は3ヶ月前になっているはずです。今、手元の資料にそれに関連するものはありませんが、それでだいたい合っています」



 政務院のメガネが勇ましく反論している。何で分かってくれないのと言わんばかりの荒々しいオーラがリンから感じられる。



「リン、落ち着けよ。冷静ではない議論は何の意味も持たないぞ」


「すみません。でも……」


「相互の話を聞いて考えないと、いつまでたっても対立したままだ。聞く耳持つと色々得だと思うぞ」


「はい」



 リンは思ったよりも素直に頷いた。もう少し食い下がってくるかと思ってんだが。



「あ、いきなり話を止めて悪かったな。どうぞ続けて」



 続きを促し、一人思考の海へ戻る。


 下手したら謎が解ける気がする。俺の第六感がそう囁くというか、解けそうで解けない時に感じるあの悶々とした感覚がするのだ。



 もっとオープンな視点で考えてみろ。目には目を、歯には歯を。珍奇な事実には珍奇な推論を。常識の枠から飛び出せ。



「…………っ!」



 ――そうか。そういうことだったのか。それならつじつまが合う。



 結論から言うと、俺の予想が正しければ王命は本物だ。一方で、俺たちが会って50日しか経っていないという感覚も正しい。流星の話の食い違いも、調査隊と俺たちが鉢合わせしなかった理由も、死体が消滅した理由も、これ一つで説明がつく。


 グレアの示した3つの可能性のどれにも当てはまらない、第4の可能性だ。



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