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マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
Lost-311- PartA
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第5話-A35 Lost-311- 抑えることの必要性

お陰様で、俺巻き総合PV数が10万PVを超えました!!

読んでくださってありがとうございます!!

文法、内容共にこんにゃくバットのようにヘロヘロですが、

これからも皆さんに楽しんでいただける作品作りをしていきたいと思っています。

これからもどうぞよろしくお願いしますm(_ _)m

「まあまあ、そんなこと言わなくとも、着太りすれば大丈夫だって!

 なんだったら、代わりに表彰式に出てもいいぞ?

 ハハハハハ――――!」



「てめえな、俺をそんなに怒らせてえのか?

 謝ったかと思えば洒落にもならん冗談かましやがるし、

 リン見て殺人鬼を連想したとか言い出した揚句の果てには、

 お前用に採寸された一張羅をプレゼントってか?

 ふざけてるのもいい加減にしろ!」


「あっ、悪い……」


「もう謝んなくていい!

 どうせそのあとまた冗談かますんだろ?

 だいたいな、リンが瀕死だったっつってんのに、

 心配するそぶりのカケラも見せねえ人間の謝罪なんか、

 全くもってあてになんねえんだよ! 人間失格だ!」



 もう我慢できない。今までの怒りの感情が掘り返されるように次々と噴き出してきて、自分の言動に歯止めが効かなくなってきていた。キレるのは分かるが、少し落ち着け俺! こんな奴相手に怒鳴り散らしたって無駄だ。俺を落としておきながら、謝罪どころか言い訳を口にしようとした最低の人間を相手にしたところで、俺に何が残る? ましてや姉さんにあんなにボコボコにされたあとの状態でこれだ。おそらくこいつは元々こういう奴なんだろう。こいつにつける薬はない。相手にすれば、時間だけが無駄に消費されていくのみで、俺には何も残らない。



「ほ、本当に悪かったと思ってる、この通りだ、許してくれ!」



 ルーは膝をついて深々と頭を下げたが、そんな形だけ、一瞬だけの謝罪に何の意味があろうか。一発ぶん殴ってやりたい。そんな野蛮な気持ちを押し殺す代わりに、俺は拳を強く握り締めた。全身が怒りで震えてくる。

 

 

(ちょっと待てよ俺!)

 

 

 俺は小声で自分自身に問いかけた。ここはちょっと考えてみるべきだ。今俺がこいつに攻撃的な態度をとったところで、残るのは後味の悪さだけだということは、今までの人生で傍観してきた他人の争いを見てきて十分学習したはずだ。いくら相手の言動がヒドいとはいえ、ここで冷静さを失ってはその後の関係の修復に時間がかかるだろう。それに現に謝っているじゃねえか。だが、頭では理解しているからといって怒りがやや萎えることはあっても消滅するわけじゃない。

 

 

「ルー……ちょっと悪いが、俺に頭を冷やす時間をくれ。

 今の俺じゃ冷静になるのは難しい。今日のところはこの話は後回しにしてもいいか?」

 

「あ、ああ。こっちこそ悪かった。

 今さっきの俺は軽率な発言が多すぎた。俺にも反省する時間が欲しい」

 

 

 ルーは大きく頷いて答えてくれた。とりあえず最悪の事態は回避できたな。俺は、今日ルーの店で済ませようとした最低限の用事――買い物をして帰ることにした。別に他の店でも良かったのだが、わざわざ怒っている相手の店で買い物をすることにしたのは、俺が相手に嫌っているわけじゃないという暗黙のメッセージを含ませたかったからということもある。だがそれ以上に、俺がこれからの人付き合いを考えた時、多少の怒りに対する耐性を強めておくために、あえてこうしておくべきだと考えたからというのが大きい。怒りのコントロールがまだできていない俺は、体だけはいっちょ前のまだまだ修練の足りないお子ちゃま同然なのだ。



「――それじゃ、こいつら全部で合計930レルだな」


「930……」



 俺はポケットから財布を取り出して必要な硬貨を探した。1000レル硬貨があるから、あと30レルがあればでちょうどお釣りが100レル硬貨一枚で済む。10レル硬貨が1枚、2枚――あー、一枚足りねえな、くそっ。



「やっぱ500でいい」


「――え?」


「これ全部合わせた原価がだいたいそれぐらいだ。

 今回だけは……その、詫びというか……とりあえず500だ」


「……いいんすか?」


「ああ、500だ。

 あと、俺と話す時は普通に喋ってくれればいい」


「……どうも」



 俺は手の平の中にあった10レル硬貨を財布の中に戻し、1000レル硬貨だけを渡した。ルーはそれを受け取ると500レルを手に取り、俺に。俺はそれを受け取って財布をポケットの中に突っ込んだ。普通ならばそれでさよなら、また来てネ、なのだが、俺は帰るタイミングを見失い、棒立ちして沈黙。怒りなんて感情は本当に一時的なもので、今の俺にはそんな感情なんて一切なかった。あそこで俺が感情任せに暴走していたら、一体どうなっていただろうか。あまり上手く想像できないが、ろくな事にならなかったはずだということは分かる。俺が同じく沈黙のまま棒立ちしているルーに目を向けると、ルーはルーで気まずさを感じているらしい。俺と目があっても、今度は気を遣っているらしく、帰らないのかとは言わなかった。今回ばかりは言ってくれた方が、俺としては帰りやすかったのだが、そんな都合のいい話なんてねえよ、と自分の甘えた気持ちに自嘲する。こうしている間にも、沈黙の時間はただただ流れていく。そんな沈着した空気の中で、俺は言いそびれたことを思い出した。

 

 

「背負子は当分借りてていいか? 回復したらすぐに返しに来る」


「構わないよ。背負子はあんまり使ってないからね。

 早急に要るもんじゃないから、ゆっくり使え、と言うとちょっとおかしいが……

 つまりは焦って返す必要はないっていうことだ」


「そうか……それじゃあ、そろそろ帰るから」


「……っちょっと待ってくれ! こいつも、こいつも貰ってけ!」



 店を出ようとした俺を先回りして、どこから持ちだしてきたのか山盛りのパンが入ったカゴを俺に突き出した。ルーの予想だにしなかった行動に驚いて、その場で思考停止してしまった。

 

 

「なんかお前をモノで釣るようで、

 自分としてもあまりいい気にはならないのだが、ちゃちい値引きだけじゃ俺の気が済まない!

 こいつも貰ってってくれ!」


「いやでもこんなに大量に……」


「そんなのどうだっていい!! 俺の気持ちを捨てないでくれ!」



 そう言って彼は俺の手に強引にそれを持たせた。見た目以上に中にはパンがぎっしり詰まっていて、結構重い。ルーには生まれつきの性か、少し自分勝手なところがあると思っていたが、中身の芯は多分俺よりも純粋だと感じた。自分自身の気持ちに素直になれるということが俺にとっては難しい。変なところで、妙な意地を張ることもしばしばある。警邏隊に任せずに単独で屋敷に飛び込んでいったあの時なんか正にそれ、意地っ張り以外の何者でもない。あと「俺の気持ちを捨てないでくれ」には悪いが若干引いた。



「そこまで言うなら……貰っておく」



 俺が受け取る意志を見せると、ルーは心なしか笑ってそれじゃあと一言挨拶、俺も小さくではあるが挨拶をしてその店を離れた。これだけのパン、一日三食全部パンにしたって、食べきるのには数日かかる。保存法を考えておかねえと、せっかく貰ったのにカチカチに固まっちまう。このパンはただのパンではない。どう考えても食べきる義務があるパンだ。ビニール袋とかそういう湿気の通さない材質のものがあれば……あるわけないが。




******




 その日の晩。俺は自分で作った食事の後片付けを終え、彼女の食事を手にリンの部屋へとお邪魔した。口に入れるにはまだ熱いその食事を、机の上に置いて窓を開ける。すると同時に、美しい夜空が視界いっぱいに広がり、青白い夜の光が部屋の中に照りこんできた。夜空の美しさの表現には、宝石を散りばめたような、という比較的陳腐なものがあるが、その表現は異界でも的を射ていると思う。この空を見ていると、旅行先の九州でやった天体観測のこと無意識のうちに思いだす。都市では人工照明が邪魔して絶対に見れない夜空。



「俺は、この場所にあとどれぐらいいられるんだろうな?」



 答えは神使(ELVES)のみぞ知る、といったところか。俺が元の世界に帰れるかどうかだが、これだけ時間が経っても俺の身に何も起こらないことを考えると、無理という気がしてきた。ここで生きていかなければならんのなら、割りきって諦める覚悟はしている。だがこれだけは言いたい。どうせ死ぬなら天寿をまっとうして平穏に死なせてくれ。

 

 その時ふと、外からやや冷えた涼しい風がサラリと部屋の中に入ってきて、湯気立つ食事を冷やしていった。そうだ、いつまでも夜空ばっかり鑑賞して思いつめているわけにもいかねえ。俺は我に返ってベッドに座って背負子を下ろした。どっこらせ、といつもの老人じみた声を出しながら、グウ~と背伸びをして背中を叩いた。予想通り腰や肩、首筋が凝っていて少し痛みを感じる。

 

 

「今度マッサージしてもらえるところ探そうかな……ハハハ」

 

 

 背負子にリンを縛り付けている縄を解き、靴を脱がせてリンをベッドに寝かせる。机の上の食事はまだすこしばかり熱く、やけどの危険がある。身軽になった身体で台所に向かい、あらかじめ作っておいたぬるま湯がなみなみと入ったバケツと、清潔な布を手に部屋へ戻る。



「ちょいと体拭くぞ……」



 寝たきりとはいえ、生命維持の基礎である代謝は行われている。だから普段の同じように風呂に入れるなどして体を清潔保たなければならない。「眠れる森のなんたら」とやらの物語じゃ、某王女が例の場所で100年寝てたらしいが、現実的に考えれば、代謝によるその体臭は想像を絶するだろう。それに近づいた某王子とやらはかなりの物好きだということも想像に難くない。というか、寝ていて100年後に若いまま起きてくるとか超絶ファンタジーだよな。

 

 メルヘンに話が脱線したが、閑話休題。用意した湯を布に染み込ませて腕や首筋、足といった肌が露出しているところだけを丁寧に拭く。翼の手入れの方法は俺には分からないので放置している。起きたら自分でやってもらおう。最初はそっちのほうがよく汚れが落ちるだろうと思って、拭く布は新品の麻布っぽい生地でやっていたのだが、リンの肌は予想以上にデリケートで、少し当てただけですぐに肌が赤くなってしまった。だから今は拭くときは結構目の細かい生地を使っている。ところで、本当は服も脱がせて全身拭いたほうがいいのだろうが、そこはそこ、俺が男だということを言えば、察しのいい諸君は分かってくれるだろう。別に脱がせてもリンは分からないのだから役得なのだが……俺はそんなことして喜ぶほど落ちぶれてはいない。わきまえるところはわきまえている。



「よし、こんなもんだろ」



 身体を拭き終わってもまだ臭いが残っているので、リンの机の引き出しにあった香水でカムフラージュ。香水の元祖本来の使い方である。俺は拭いた布とバケツを台所へ持って行き、バケツの中に布を浸し。さらに入念に手を洗ったた。



「さてと、飯は冷えたかな?」



 机上の晩飯は夜風のおかげもあって、いい具合に冷えていた。これなら食わせても大丈夫だろう。



「毎日同じような流動食じゃ飽きるだろ? 普通の食事くいたきゃ早く起きてこいよ……」



 慣れた手つきで口を開けて食わせる。俺はこれだけでも十分役得である。一番なのはまたリンの笑顔が見られることなのだが、それまで少し時間ががかかる。


 もし、もしも、だ。俺が元の世界に帰れることになったら、リンは一体どうなるだろうか。また独りきりの生活が始まることは簡単に予想できる。――――いや、そんなことは考えなくても大丈夫だ。確かに別れは辛いかもしれないが、こんな美少女だ、そのうちに俺よりもはるかに頼り甲斐のある伴侶がついてくれるだろう。俺のこともキッパリ忘れて、俺もリンのことは忘れる。どうしてもリンが別れを嫌がったなら最悪、その頃には神使とも接触できているはずだし、記憶を全部引っこ抜いてもらえばいい。相手に一緒に生活した記憶も顔も名前さえも、欠片もなく完全に忘れ去られるというのはつらいが、仕方ない。“これはあくまでも仮定条件中の仮定条件だ”と自分に言い聞かせても、現実味がありすぎてまるで迫り来るような気持ちがする。



「ああそうだ、忘れてた!」



 リンの食事を終えて寝かせた時、店のシャッターに数日間臨時休業する旨の張り紙をしていたことを思い出した。背負子がある今、明日からは店の営業ができる。剥がしておかねば。階段を駆け下り、夜の通りに飛び出し、張り紙を破るように剥がして家に戻ると、店のカウンター下の棚に投げ入れた。


 その後俺は風呂に入って身体を洗い、ホカホカのふやけた体で台所まで歩いてカップに水を一口。ぷはあ、とありふれた一言を呟いて部屋を見上げた。収納棚。その中に1つだけ、鍵の掛けられた扉がある。中身はリンに「知らないほうがいいこともあるのですよ」と言わしめるシロモノが入っている。前々から台所に立つたびに気になってはいたが、まだ開けたことはない。開ける鍵はリンがいつも大事そうに腰につけているので、開けようと思えばそれを拝借して簡単に開けられる。



「気になる……無茶苦茶気になる……」



 中に何が入っているのか、俺には予想すらつかない。開けて中身を確認したいという好奇心とは裏腹に、「知らないほうがいいこともある」発言が引っかかって、これはもしかしたらパンドラの箱を開けるようなものじゃないかとも思ってしまう。



「まあ、知らないほうがいいと警告されているわけだし、

 気にはなるが、知らないほうがいいんだろうな……」



 今日も遺憾なくチキンっぷりを発揮し、開けないという保守的な選択をしてその場を去った。



「さて、俺もそろそろ寝るかな」



 睡眠中、どうやってリンの治療をするのかという問いに関しては既に答えが出ている。俺はリンの部屋へと入っていって机の椅子を引っ張り出し、ベッドのすぐ近くに置いた。そこに俺は腰掛け、リンの手をとって目を瞑る。座ったまま寝るのかよ!! なんてツッコミが外から聞こえてきた気もするが、多分それは気でしかないのだろう。


 リンのベッドで二人仲良く寝るだけのスペースはやや狭いがあるっちゃある。そうした方が俺も久々にフカフカのベッドで寝れるわけだし、かなり魅力的だ。しかし繰り返すが、忘れちゃならんのは俺が男ということである。リンがベッド上で目覚めた時、横で寝ている俺を見れば、リンが考えるであろうことは次のうちのどれかだ。

 

 

1.寝取られた!?

2.そんなに女の子と一緒に寝たかったの?

3.気安く私のベッドで寝ないで、変態!!

4.キモイ。



 ……ちょっと訂正だ。次のうちどれかだと言ったが、よく考えればこりゃあ全部当てはまる。例え口には出さなくとも、内心絶対にそう思うに違いない。特に4番。わざわざ苦労して助けたのに、相手に一歩引かれるような関係になるのはゴメンだ。ある友人が前言っていたが、こういうことを「NTR」とか言うそうな。NTRは何かの略で、確か「NeToRare(寝取られ)」の略だったような。NTR……恐ろしいことを言いやがる略語だな。


 椅子に座って寝るというのも結構体に負担がかかるが、これも少しの間の辛抱だ。それにこっちの方が絵になる。



「おやすみ、だな」



キツイ体勢でも、疲れが取れることを期待しながら、俺はそのまま眠りについた。

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