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マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
Lost-311- PartA
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第5話-A34 Lost-311- ……怒っていいっすか?

「コウさん、ルーから借りてきたわよ!」


「あ、ありがとうございます」



 ヘーゲルが帰った後、再び姉さんの昼食をご馳走になった俺は、どうやったらリンに魔力を補給しながら生活すればいいのかを考えていた。そこに、姉さんが荷物用の背負子(しょいこ)を使ってみるのはどうかと提案、モノは試しでやってみることになったのだ。背負子っつうのはあれだ、小学校に置いてある二宮金次郎が薪を背負ってる例のアレ、別の言い方をするなら登山の時に重い荷物を運ぶために背負うやつだ。背負子は居酒屋の姉さんのところにはないが、食料品店のルーなら持ってるかもしれないということで、姉さんが店までひとっ飛びしてくれたってわけだ。



「むう……なんというか、動きにくいっすね、これ」


「でも、動けないよりはマシってやつじゃない?」



 ふう、疲れた、と姉さんは吐息多めに呟いてリンのベッドに腰掛けた。背中にあるのでよく見えないが、首をひねって後ろを向くと、リンが木製の背負子に腰掛けるように座っているのは確認できる。リンの片手を俺の利き手とは反対の腕に縄でくくりつけてあり、一応魔力補給をしながら行動できるようになったのだが……正直、この格好でいるのは恥ずかしいっていうか、この状態で外に出歩きたくねえ。リンが背負子から落ちないように縄で固定してるからなおさらだ。意識がない人間を縄でくくってるんだから、一歩外に出ようものなら誘拐と誤解されるだろう。うん、変態だ。


「そこは我慢するしかないわね。

 いくら恥ずかしかったって、命には代えられないんだから」


「まあ、そうっすよね……」



 姉さんのいう通り、ベッドに一日中釘づけにされるよりかはずっとマシだよな。これなら家事も店番も出来るし。ただ、腰と肩にかなりに負担がかかるのが問題だ。あと寝るときもどうにかして考えておかねえと、せっかく補給したのがまた消費されるようじゃ元も子もない。それぐらいの対策は一人でも何とか考えつくだろう。要は身体が触れていれば問題ないわけだし。しばしの沈黙のあと、姉さんは立ち上がって外の景色をちらりと確認すると、申し訳なさそうに口を開いた。



「コウさん、悪いけどちょっとあたし、

 そろそろ店の準備しないといけないのよね――」



 昨日は店が休みだったから、こっちまで様子を見に来てくれただけで、いつまでも俺達の面倒を見てくれるわけじゃない。夕方からの店の営業に必要な食材の買い出し諸々の時間を考えれば、そろそろここを出る必要があるだろう。



「そうですね。

 こちらこそ面倒ばかりかけて、ホントに申し訳ないです」


「その状態じゃちょっと距離的にキツイかもしれないけど、

 うちの店にきたらいつでも相談に乗るからね」


「どうもありがとうございます!」


「早ければ二、三日で回復できるって医者も言ってたし、

 その間だけの辛抱だから、頑張って!」


「リンが良くなったら、また店に行きます。

 リンは姉さんの料理、まだ一口も食べてないっすからね」


「ありがとう。

 でも、リンちゃんとあたしって、

 寝入るの直前のわずかな時間しか面識がないわよね?

 ということは、コウさんとは色々話したけれど、

 リンちゃんとは、ほとんど初めましての状態ね」


「どちらにせよ、必ず行きますから」


「ぼったくってあげるから、絶対に来てよ?」



 姉さんは意地悪そうに笑った。



「いやいや、そこは定価でお願いします」


「んー、考えておくわ」


「いやホントに、マジでそれは勘弁っすよ!」



 う、そ。冗談よ、と姉さんはおどけて自然な微笑みを見せた。それにつられて、俺も笑った。その時感じた親近感は、本当は最初からここで生まれ育ったんじゃねえかと思うほどに温かみがあった。これじゃあ帰る時が辛くなりそうだ。



「それじゃ、そろそろおいとまするね」



 俺は、姉さんの見送りに一緒に階段を降りて裏口に回った。ドアを開けて一歩外に出たところで、姉さんは思い付いたかのように立ち止り、振り返って言った。



「あと、居酒屋で料理作ってるのは、あたしのお父さんだから」


「あ……」


「うふふ、じゃあね」



 そうだった。確かに居酒屋で料理していたのは姉さんの親父さんだった。思い違いを指摘されてポカンとアホ面している俺をよそに、姉さんは空高く舞い上がっていった。



「さてと……気乗りしないが、買い物に行かねえとな」



 昨日俺が夕飯を作ろうと買ってきた材料は、今日の昼飯に回されたから、台所には食材は残っていない。三日間水だけで生活しても俺は別に死にはしないが、リンはそうはいかない。ヘーゲルの言うとおりに三度の飯と青汁は欠かさず摂取しなければならない。家に入った俺は自室にある財布を取りに階段に足をかけた。掛けたはいいが、なかなか身体が上がらない。



「重っ……」



いくらリンが軽いとは言えど、それなりの重量はある。さらに背負子に頑丈な太い木材が使われてることもあって、全体の重さが俺の体重とほぼ同等もしくはそれ以上になっていることは確実だ。かといって降ろすわけにもいかず。これは用心しねえと膝痛めるぞ、これ。



「よいこら、せっと……ふう~」



 階段を上がるだけで息が少し上がる。



「太ってる人って、いつもこんな感じなのか?」



 肥満には気をつけねえとな……とか、なんか違う方向のベクトルに考えがいきつつ、何もない自室の床に転がっている財布を見つけ、腰を曲げる。そこで腰を直角以上曲げなければ財布が取れないことを悟り、やむを得ず膝を曲げて座る。腰を直角以上曲げてしまえば、それは背中のリンの頭が下を向くということで、下手すりゃ頭からずるりと落ち、首が折れて永遠の別れ、なんてことにもなりかねない。この膝を曲げた状態というのはリンが落ちることはまずないだろうが、少しバランスを後ろに崩せば、無惨に尻餅を付いて、立ち上がるのが困難になっちまう。背負ってる間は極力しゃがまない方が良さそうだ。慎重に財布に手を伸ばし、見事つかみ取ることに成功。なんというか、グルコサミンやコンドロイチン、コラーゲンたっぷりの膝関節サポート食品が欲しい。神使が人の意識を傍受出来るなら、何らかの方法で早急に送ってくれ。一週間無料お試し分で構わねえから。ご老体? 何とでも言ってくれ。


 どうせもうしゃがんじまったんだからと、ついでにすぐ近くにある同じく床に横たわる魔法書にも手を伸ばし、キャッチ。……したのはいいんだが、立ち上がるときにバランスを崩し、ドデンと思いっきり床に尻餅をついてしまった。



「うーわ、だりい……」



 魔法書もとか欲張るんじゃなかった。魔法書かなり重いからな、3000ページぐらいあるからだいたい国語辞典3冊分といったところ。財布だけなら立ち上がれた自信はある。だがもう俺の片手には魔法書があるわけだし、覆水盆に返らず、後の祭りというものである。尻餅をついた尻は、もちろん痛い。ケツに吹き矢だね。今思ったんだが最近、特にこの一週間ちょいで身体を痛める経験がやたら多くねえか? まあそんなことはどうでもいい。それよりなんとしてでも立たなければ……!



「どっこい――あっ駄目だ」



 ヘタレの俺は情けない声を出してまた尻餅をついた。立ち上がろうとしても、人間一人背負ってるっつうのはかなりのハンデ、生半可な気合いじゃ立ち上がれない。このまま立ち上がれず数日過ごそうものなら、リンが回復する頃には水もまともに摂れず、脱水症状で死亡寸前(既に死亡か?)の俺がいるわけで、今度は俺が介抱されにゃならん。イタチごっこもいいところだ。



「ぬおおおおあああああ――ッ!!」



 ここで死ぬのはゴメンだ――! と、俺が思いっきり声をあげ、力を振り絞ると、重い腰が徐々に浮き、そして、足元をふらつかせながらではあるが、なんとか立ち上がることができた。両手には財布と魔法書、ミッションクリアだ。しかしそう思った瞬間、俺の思考回路が急速に冷やされ、客観的な自分が冷めた声で問いかける。

 

 なんでこんなたった立ち上がるためだけに、こんな大声を出しているんだ……


 確かにそれはもっともだという結論が脳内で可決されると、さっきの自分が急に恥ずかしくなって現実逃避的に窓の外を見た。通りにいる数人の人が俺を見ている。声は外まで聞こえていたのか……我としたことがとんだ大失態。俺はすぐに窓を閉めて外界からの視線をシャットアウトし、真っ赤になっているであろう顔を左右に振った。つくづく思うが、なんで俺ってこんなにアホなんだろうか。この部屋の隅で三角座りしていたい気持ちはどう処理すればいいのか……俗に言う自己嫌悪である。


 一通り恥ずかしがった後、俺は気を取り直してリンの部屋に向かい、机に魔法書を置いて財布の中を覗いた。二万レルちょいといったところか。確か、治療費に一万持って行かれるんだったよな。机に治療代を置いて部屋の窓を閉め、鍵がちゃんと閉まっているか確認して空き巣対策をすると、残り一万レルになった財布をポケットに突っ込んで外に出た。とりあえず店はルーのところでいいか。背負子の礼を言う必要もあるし、俺と会うのが気まずいのか、姉さんにどつかれーの、フルボッコされーのの洗礼を頂戴した後から一度も顔を合わせていない。顔を合わせてないのはただ単に忙しいだけで、それは俺の勝手な思い込みかもしれないが。


 通りに出ると、はたして周囲からの視線を浴びることになった。やっぱり縄で縛り付けた人間を背負うっつうのはどうも異常な光景に見えるらしい。お前らの反応は正しいぞ。俺だってそんな人見たらこいつ異常だって絶対思ってるから。しばらく歩いていると、背筋に疲労感を覚えてきた。一旦足を止め、どっこらせっ、と気合いを入れて背負い直して再び歩きだす。そんなことを繰り返しているうちに、今度は額から汗が垂れてきた。ここに来てから髪を切ってないせいで、伸びてきた前髪が湿って顔に張り付きだしてるからやたらとウザい。こいつぁ予想以上の重労働だ。



「いらっしゃい! って、コウさんじゃねえか!」



 店に着くと、前に来た時のように店番をしているルーの姿があった。顔や腕といった体の至る所の傷口をガーゼで覆っている。姉さんを怒らせるとこうなるのか……恐ろしい。最初の挨拶とは一変、急に表情を暗くしたルーは言いづらそうに口を開く。



「えっと、こないだは、その……悪かった。

 いつかは謝りに行かねえとって思ってはいたんだが……忙しくて」


「もういいっすよ、背骨折ったわけじゃないですし」



 落とされた時の怒りは何処へやらだが、まあいいだろう。



「ところで、背中に背負ってるのは何だい?」


「ああ、リンっす。急性魔力欠乏症の治療で。

 原因は不明なんすけど、自力じゃ回復できないみたいで。

 今朝瀕死の状態になってたんで、

 取り急ぎ医者呼んだら結果的にこうなったんです」


「ああ、それで女将が背負子貸せって言ってきたわけか」


 ルーは納得した様子だったが、突然それにしても、と一言、腕組みをして難しい顔をした。



「しかしまあ自力で回復できないっちゃあ不思議だな。

 それってやっぱり、その子って――いや多分ねえだろうな」


「なんなんすか?」


「いや、ただそれだけじゃハッキリとは言えないから口には出せないが、

 もしそうだとしたら、今背負ってる子、恐ろしい子だよ」


「恐ろしいって……どういうことっすか?」


「血塗られるような惨劇を起こすってところかな」



「リンが惨劇っすか……?

 そんな馬鹿なことがあるはずないっすよ。

 リンは物静かで優しくて、何より大人しいんすよ?」


「それがすべて仮面だったら?」


「……どういうことっすか?」


「――フッハハハハハ、冗談だよ!」


「なんだもう、驚かせないでくださいよ!」



 謝った直後に冗談って、この人ちゃんと反省してんのか? やはりルーという人格を疑わざるを得ない。この会話を姉さんに言ったら、どうなるだろうな? その歪んだ人格を粛清しに来てくれるかもしれん。



「確かにそういう“恐ろしい子”は存在するが、

 こんな安らかな顔してる子に限ってそういうことはないだろう。

 なにせ、そんな子が現れるのはごく稀だからね。

 最近聞いた話じゃ、

 その“恐ろしい子”は四月ほど前に、

 ある農村を無差別に剣で次々と切り裂いて皆殺ししたって噂だ。

 その直後に降った長雨で地盤が緩んだせいで、

 土砂崩れが起きて村落ごと埋まったから、発見が遅れたらしい」


「その、皆殺しにした理由ってのは?」


「さあ、それが良くわからねえんだよ。

 まあ、村は全滅だってのに、その子の死体と、

 その子の名前の彫られた剣だけがいくら探しても見つからないだけで、

 その子が“恐ろしい子”である確証はどこにもないんだ。

 それに金品が全部なくなっていたから、

 盗賊の可能性もなきにしもあらずってとこだな。

 もしかしたら殺戮現場を見てどこかに逃げていっただけかもしれない。

 でもそこには前々から、

 “そういう子がいる”っていう噂はあったのは事実だけどな」



 ふうん、皆殺しか……みんな平穏そうなツラしてるが、物騒な事件もやっぱ起きるもんなんだな。地球だったら全世界で速報モノだ。それにしても土砂崩れってのがまた気になるポイントである。別にリンを疑ってるとかそういう気持ちがあるわけではない。梅雨や雨季のように長雨が広域で観測されててもおかしくない事を考えると合点がいくからな。それにリンの故郷で土に埋まったのは村全域じゃなくて彼女の家だけだし、何より四ヶ月も前の話、そのころはまだ村で生活していたはずだ。



「その“恐ろしい子”ってちょっと呼びにくいっすね。

 なんか別に名前があったりするんすか?」


「地域によって呼び名は色々あるが、

 神使様は“エルベシア”とお呼びになるそうだ」


「エルベシアっていう子なんすか?」


「いや、そういう身体能力がスバ抜けて高い子のことを総称してそうお呼びになるらしい。

 彼らの多くは精神的に不安定で、

 過去にもエルベシアが集落を潰した事件はいくつも報告されているんだとさ。

 そういう子が生まれたら村ぐるみでその子の存在自体を隠蔽しようとするから、

 どれぐらいの数がいるのかはわからないけど、そんなに多くはいないはずだ」


「でもどうして存在を隠す必要があるんすか?」


「そりゃ、周囲の村や町に知られたら、

 『あそこにはエルベシアがいるから、

  あまり関わらないほうが身のため』って言われて疎まれるからに決まってんだろ。

 お前さんだって、いつ暴れだすかも分からない、

 気難しいエルベシアのいるところには行きたくねえだろ?」


「まあ、そう……っすかね」



 エルベシアか……ELVES(エルベス)となにか関係性があるのだろうか? エルベシアを俺が適当に英字変換して当て嵌めてみるとELVESIAっていうのがピッタリなんだが。管理プログラムELVESとエルベシア……まあ神使がそう呼んでるんだから、まったくの無関係ってわけでもなさそうだな。もといた世界ならまだしも、他人(ひと)が管理している世界の中枢まで首を突っ込む真似は絶対したくないのだが、異物である俺がここから出るための情報を集めるぐらいのことはしても構わないはず。ヒマが出来たら調べてみるか。もしエルベシアと会うかと聞かれたら……丸腰の俺にそんな勇気はない。「うわああああ――!」とか叫ばれながら武器を振り回されたら、そこでジ・エンドだ。そんなことを考えていた俺を怪訝そうにルーは覗き込む。



「ん? どうした?」


「あ、いや、なんでもないっす。

 でも、なんでルーさんはリンを見てそんなこと……」


「見ててちょっと特徴が似てるかなとか軽く思って連想しただけで、

 ほとんど……大半が俺の勝手な思い込みだ」



 寝てる人見て大量殺人鬼を連想する、その想像力のたくましさの根源は一体なんなんだよ。アレか? 春画見てアヘアヘしながら鍛えたのか? おめでてーな。ていうかリンに失礼だ。謝れ。



「さてさて、そんな暗い話よりもだ、

 お詫びって言っちゃ何なんだが、

 お前さんが表彰される時の一張羅(いっちょうら)

 俺が代わりに注文しておいたんだ。

 ついさっき仕上がって店の人が持ってきてくれてさ、

 今晩にも持って行こうと思ってたところでな。

 ちょっと待っててくれ」



 今度は何を言い出すかと思いきや、ルーは店の奥へ駆け込んでいった。悪気ゼロかよ。顔合わせる度に晴れ着だ、一張羅だって、もうお前のこと、ルー改め一張羅って呼んでいいか? いいよな?


 二、三分ほどして一張羅は目測70センチ四方の大きな木箱を抱えて戻ってきた。まさか、あれが一張羅……? 今から俺は買い物をしようと思ってるのに、こんなでけえモノまでお持ち帰りとか、リン背負ってる状態の俺にはムリだ。



「俺がいつもヒイキにしてる仕立て屋の最新・最高級の衣装だ。

 冠婚葬祭どこに着て行ってもおかしくない、庶民憧れの一着!

 店の人にはかなり無理を言って負けてもらったんだ」



 一張羅は嬉しげに木箱を開けて、中に入っていた値札をさっと取り出し、握り潰してそれをポケットの中に突っ込んだ。そこら辺はわきまえてるんだな。一張羅は中の衣装を取り出すと、どうかな、と広げて見せた。


 何なんだ、これは……!!


 まさに中世の騎士とか貴族あたりの正装っぽいスタイル。胸には白い縮れたカーテンレースみたいな(よだれかけに見えなくもない)ので装飾してあるし、何やらオプション品とおぼしき装飾品がやたら出てくる。何なんだよ、特にこのバロック時代の音楽家の肖像画に出てきそうな、カブトムシの幼虫を模したとしかいいようがないクルクルのヅラは! 缶バッチみたいなモノまで入ってるし! 現代的な感覚(センス)を多少なりとも持ち合わせているつもりの俺にとっては、もはや拒絶の域。さらに言わせてもらうと、俺今まで店やってて、確かにドレスを着た人間とかはザラにいるけど、こんな衣装着た人間は見たことない。



「……まじっすか」


「おお、マジだ」


「これが、その……一張羅っすか?」


「まあそうだが、もしかして気に入らなかったか?」


「いやそうじゃなく、いやそうじゃないわけじゃなくて……ていうか服デカくないっすか?」


「そうか? 普通に着れそうだけど」


「それより採寸受けてないのにどうして服が出来上がってるんすか!?」



 そもそもの問題である。一張羅が一目見ただけで採寸できるとかいう無駄能力があるなら別だが、この服の大きさからするとそんな能力がないのは一目同然だ。服は着れなくはないが、袖口から指先が出るか出ないかレベルのブカブカ仕様だ。これはお母ちゃんに裾上げしてもらわないと。それにしても腹周りがやたらとデカい。これってまさか……



「いや、服作りたいって店の人に言ったら、

 採寸不要ですって言われたから服選びだけだったぞ?」


「そりゃてめえのヒイキにしてる店だからだろーが!!

  店はてっきりお前が着るものと思って、以前の採寸記録を元にして作ったに決まってんだろ!

 だからお前のタルンタルンの腹に合わせて、こんなにウエストがデカく作られてんだよ! ちょっと着てみろ!」



 この一張羅の無能さ加減にプッツンした俺は、気がつけばまくし立てるように言い放っていた。わざわざ用意してくれたのは有り難いし、無能なのは俺もだが、なんつうか……こいつの場合自然発生的かつ加速度的にムカつく。突然キレた俺に一張羅(笑)(←グレードアップ)は一瞬飛び上がって身を縮ませ、恐る恐るその服を着る。



「おお……ホントだ、ピッタリだ!」


「感心してる場合かッ、このドアホォォォォ――!!」

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