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マジで俺を巻き込むな!!  作者: 電式|↵
Lost-311- PartA
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第5話-A27 Lost-311- 飛翔

大分話が長くなってきたので、

どこかキリのいいところで第5B話に分割しようかと思います。

(あね)さんはルーと目を見合わせ、小さく頷く。



「……ねえコウさん、その話、ちょっと中で聞かせてくれない?」



ちょっとこっち来て、と姉さんは早足で店の裏口へと回った。

俺とルーはその後を追う。

姉さんは裏口の鍵を開けると、布袋を家の中、裏口のすぐ側に置く。



「お父さーん、買い出してきたやつ、裏口に置いとくからねー!」


「バカヤロー!! 厨房まで持って来るのがお前さんの仕事だろうが!」



家の遠くから荒々しい声が聞こえてきた。

厨房で料理していたあのじいさんだ。


「ちょっとお父さん! 今それどころじゃないの! ……ごめんね、さ、上がって」



姉さんに促され、失礼します、と小声ながらも挨拶をし、上に上がる。

奥からじいさんが反論する声が聞こえてくる。



「そいつを厨房に持ってくるだけのたった短い時間が惜しいのかお前は!」


「じゃあお父さんがやればいいじゃない!」



姉さんもじいさんとやりあうだけの根性持ってるな……

もちろん子供達はびくついて既に涙目状態。

あのじいさん怒らせたら怖いのは声聞いただけで分かる。

絶対どっかの牛丼屋並に殺伐としてるってここ!

こんな家に生まれなくて良かった……



「そこの階段から二階に上がって。

 お父さん、足腰がきてるからよっぽどのことがない限り上がって来ない」


姉さんに促されるまま、二階へと上がる。

てかじいさん足腰がきてるって、買い出しの荷物運べねーじゃねえか。



「突き当たりを右。そこがあたしの部屋だから」



失礼します、と俺、姉さん、ルー、子供とぞろぞろと部屋に入っていく。

部屋の中は大量のファイルが床に山積みにされ、作業机もぐちゃぐちゃの状態である。



「汚い部屋でごめんね。で、早速だけど、続き聞かせて」


「なんか(ルー)まで入ってきちまったけど……」


「いいのよ、三人寄ればなんとかっていうし、ルーさんも一緒に考えてちょうだい」


「えっと、話していいっすか?」


「ええ」



それから俺がリンを背負って居酒屋を出てから、

今にここに至るまでの経緯を事細かに説明すること約20分。



「じゃあリンちゃんはあの時寝入ってから一度も起きてくるどころか、

 起きる気配もないってことね」


「ええ、食事も一切取ってないし、

 このまま寝かせておいても大丈夫なのか不安になって」


「で、困りに困ってあたしのところに来た、と」


「そういうことっす」



「ちょっといいか?」



ルーが右手を上げた。



「そういう症状、なんかどっかで聞いたことがあるぞ」


「ルーさん、それホントっすか!?」


「ああ、定かじゃないが、確か……

 ある魔法科の軍事訓練で出来損ないの兵隊を鍛え上げる為に、

 昼夜問わずぶっ続けでトレーニングをさせたかなんかで、

 その兵隊がへたって倒れ込んじまったらしい。

 いくらなんでも休養が必要だろうって救護室に寝かせたら、

 それっきり起きてこなくなったっていう……」


「なるほど、それ、リンちゃんの状況と共通する点があるわね」


「確かに、そうっすね」



その兵隊とリンの共通点は言わなくても分かると思うが、

兵隊もリンも、どちらも衰弱しきった状態で眠りに入ったということだ。



「それで、その兵隊はどうなったんすか?」


「ああ、よく覚えていないんだが……確か、全快したんじゃなかったかな?」


「誰がどうやってその状態から回復させたのか、覚えてる?」


「いや、そこまではちょっと……」



痒いところに手が届かない!

そこんところが分かれば苦労しないのだが……



「もしかしたら、リンちゃんが危篤状態なのかもしれないし、

 こういうときは、速やかに専門家に診てもらったほうがいいわよね……」


「それに越したことはないっすけど、

 俺、そういう知り合いとかいないですし……」



姉さんは子供達を見つめ、ため息をついたかと思うと、

作業机に座って、何かを書きはじめた。

そしてちょっと来なさい、と子供達に手招きする。



「あたしが今から大事なお使い頼むから、よーく聞きなさい。

 医者のヘーゲルって人、覚えてる? あの眼鏡かけた若い人。

 ――うん、そうそう、白衣を着てるあの人ね。

 あの人のところまで大急ぎで飛んでいって、この紙を渡してきてくれる?

 そしたら、羽なしのお兄ちゃんの店、どこにあるか覚えてる?

 ――そうね、前にお母さんにプレゼント買ったって言ってたところだね。

 お前さん達は記憶力がいいね、偉い偉い。

 でね、そのヘーゲルさんが行き先を聞いてくると思うから、

 ヘーゲルさんをそのお店まで、連れてってくれる?

 いい? これは今までで一番大事なお使いだからね、忘れちゃダメよ」



子供達は母の言い付けを聞くやいなや、喜んで部屋を飛び出していった。

……そういえば、ヘーゲルって、どっかで聞いたことがある名前だな。

確かドイツの哲学者かなんかにそういう人いなかったか?



「さてと、あたし達も行きましょう」



姉さんは部屋の窓を開け、足をかけた。



「え? どこに行くんすか?」


「あんたの店に決まってるじゃない! ほら行くよ!」


「ほら行くよって……窓からっすか!?」


「当たり前よ!

 あの子達、見かけによらず飛んで行くのがものすごく速いのよ?

 ちんたら地上を歩いてたらお医者さんが待ちぼうけして寝ちゃうわよ?」


「それって俺が飛べないことを知った上での発言……?」


「そこら辺はほら、あたしとルーさんで何とかするから、ねえ?」


「……あっ、え、ええもちろん!」



ルーは他のことを考えていたのらしく、

姉さんの質問の意味が分からないまま同意してしまったようだ。



「一応言っときますけど、俺、とてつもなく“重い”っすよ」


「なんだかんだいって、あんた、飛ぶの怖いの?」


「飛ぶのが怖いって、そりゃ当たり前っすよ!」


「おいおい兄ちゃん、信用ねえな」



俺のすぐ横にいるルーが、

姉さんが今からしようとしたことにようやく気づいたらしく、そう言って苦笑した。

信用ないって、初対面が昨夜のお前に言われたくねえよ。

そんなにホイホイ他人を信用してたらそのうち丸裸にされるっつうの。

姉さんは窓から飛び出し、

その標準装備の巨大な翼で羽ばたきながらホバリングして俺に手を差しのべる。



「早くあたしの手につかまって!

 一旦屋根まで上がればルーさんと二人であんたを引っ張りあげることができるから!」



俺は窓から半身身を乗り出して、姉さんの手を掴んだ。

姉さんの握る手にも力が入る。



「いいっすか? いきますよ?」


「早くしてちょうだい! この姿勢でいるの結構きついんだから!」


「「せーのっ!」」



俺が窓から飛び出して全体重を姉さんに委ねた瞬間だった。



「えっ!? ちょっとなにこっ……イヤーッ!!」


「姉さ…グォッ!!」






俺と姉さんは墜落、勢いよく地面に激突した。

俺は砂利の地面に叩き付けられ、

その上に覆いかぶさるようにして上から姉さんが落ちた。



「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ……痛ってぇ……」


「ちょっと、あんたなんでそんなに重いの?

 全身が金属かなんかで出来てるんじゃないの?」


「だから言ったじゃないっすか……俺は重いって。

 ていうか姉さん……どいて……ください」


「ああ、ごめんなさい」



おーい、二人とも大丈夫かー! という声が二階の窓から聞こえてくる。

ルーが半身乗り出して俺達を見下ろしていた。



「あたしは大丈夫だけど、コウさんは大丈夫?」


「大丈夫っすよ……姉さんが幾分か踏ん張ってくれたおかげで……なんとか」


「あたしはちょうど下に緩衝材(ヽヽヽ)があったから、特に怪我はないけど」


「二人とも大丈夫か!?」



上からルーも降りてきた。

俺の上にいた姉さんがどいてくれたので、俺も上半身を起こす。

(ひじ)あたりに周期的な痛みを感じて見てみると、

広く浅い擦り傷から血が滲み出ているのが見えた。



「……擦り傷、ね。

 でも、あんたの店、花屋でしょ? 薬もおいてあるわよね?」


「ああ……まだ薬は、取り扱ってないんすよね……

 でも、これぐらいなら適当に水で洗っておけばなんとかなるっすよ?」


「確かに、そのぐらいの傷なら水で十分だな」


「コウさん、ごめんなさいね、あたしがしっかりしてなかったから……」


「もういいっすよ、それよりも早くいかないと医者、待たせますよ?」



俺は立ち上がって服についた汚れをぱっぱと払い落とす。



「……そうね、じゃあ今度は確実に飛べるように、滑走しましょう」


「そっちの方が体力使いますけど、重量級のもの持つときは楽ですしね」



姉さんとルーも続いて立ち上がった。

俺はルーにも重量級の認定をもらったらしい。

まあそもそも俺の身体は飛翔する為に最適化されているわけでもねえし、

当然といえば当然だろう。



「それじゃあ、ルーさんはコウさんの上半身担当、あたしは下半身担当でいい?」


「おう、任せておけ!」


「言っとくけど、ルーさん、コウさん冗談にならないぐらい重いからね?」


「兄ちゃん、すまんがどれぐらい重いか、ちょっと試させてくれ」


「あっ、はい」



ルーは俺を抱き上げると、グハハ、こりゃびっくりだ! と笑い声を上げる。



「兄ちゃん、女将の全身金属って表現、間違いじゃないな!

 だがまあ大丈夫そうだ、兄ちゃん心配するな」


「あっ、見てあれ!」



姉さんは灰色に染まった遠くの空を指差す。

その先には、先導する二つの小さな影と、

あとに続く大きめの影が一つ、かなり高速で飛翔しているのが見えた。

時速120、130キロは出てるんじゃないだろうか?



「思ってたよりだいぶ速いっすね……」


「あれ、あたしの子供達。速いでしょ?

 まあ速いっていっても、あたしなら本気出せば300はいくけどね。

 今回はコウさんがついてくるから最高速更新しちゃうかも。

 って、雑談してないでそろそろあたし達もいかないと」


「よし、じゃあいこうか、兄ちゃん」



300の単位が気になるが、まあそれは置いといて。

俺達は横並びになって通りを駆け出した。

足で敷き詰められた砂利を後方へ弾く音が聞こえてくる。

姉さんも、ルーも、俺も、全力疾走している証拠だ。

通りを歩く人々が俺達を避けてくれている。

迷惑かけてなんか悪いな。


「よっ!」


先に離陸(テイクオフ)したのはルー。

それに続いて姉さんも飛翔。



「兄ちゃん、もうちょっと前に来てくれるか?

 空中じゃあまり精密には動けねえんだ」


後方からルーの声が聞こえる。

確かに空中じゃ横風やらなんやらで不安定なりやすいだろう。



「もうちょい前だ」


「ちょい右」


「ああ、行き過ぎ行き過ぎ! 左へ寄ってくれ」


「もうちょい左」


「よしそこ……捕まえた!」



走る俺の両脇から掬い上げるように抱えられ、俺もテイクオフ。

わかりにくいかもしれないが、ジェット機のタイヤになったような気分だ。

俺を持ち上げると同時に、

ルーの翼の羽ばたく回数が急激に増えたのが音で分かる。

俺とルーはさらに上昇を続ける。



「女将! 足持ってくれ!」


「はいよ!」



後方から足首をがっちりと掴まれ、

さらにぐいっと持ち上げられて、俺も水平飛行スタイルに。

俺の身体はどんどん加速し、高度もぐいぐいと上がっていく。

しばらくすると羽ばたく音が聞こえなくなって上を見上げると、

滑空しているルーの翼があった。

どうやらこのあたりが一番安定する速度らしい。

それにしてもものすごく速い。


眼下に広がるナクルの街の屋根が高速で流れていくなかで、

俺は屋根にいろいろな絵柄が塗装されているのに気がついた。

野菜と肉が描かれた屋根、鍵が描かれた屋根、衣服が描かれた屋根、

剣と盾が描かれた屋根、ペンが描かれた屋根、星が描かれた屋根――――

それぞれ恐らくその建物でやっている店の種類を表したもの、

端的に一言でいえば、看板のような物だろう。

他にも屋根には主要な建造物の距離と方向が印されている。

例えば今俺がここから見えるのは――


イーカ教会↓1500


大図書館→2600


警邏隊本部↓3000


といったもの。

大図書館、か……まだ行ったことねえな。




「どうだ、兄ちゃん、飛んだ気分は?」



俺の頭上にいるルーが言った。

風を切る音で声が聞き取りづらいこともあってか、

返事をする声も自然と大きくなる。



「晴れてりゃ最高なんすけどね!」


「ハハハ、天気は俺達じゃどうにもなんねえな!」


「コウさんは今回が初めての飛行なの?」


「いーや、三回目っす!」


「ほう、兄ちゃん、一回目はいつ?」


「盗賊に襲われた時に、リンと!」


「フハハハ、波瀾万丈な人生だな、兄ちゃん! 二回目は?」


「警邏隊に連行された時っす!」


「ほう、どんな風に飛んだんだい?」


「警邏隊、ひどいっすよ!

 手首に縄一本掛けられて宙ぶらりんで連行!」


「それじゃあ縄が切れたらおしまいじゃないか!

 警邏隊、クビになって正解だな!」



遠くに俺達の花屋を見つけた。

屋根には花の絵柄が描いてあるのが確認できる。

……ん? 花の絵柄の横が屋根と同系色の大きな布で覆われている。

布の下には何が隠されているのだろうか?

同じ屋根を見つけたらしいルーが声を上げた。



「兄ちゃんの店はあれか?」


「はい!」


「……あの屋根を覆ってる布は?」


「知らないっすよ! 俺も初めて見たんすから!」



後ろの姉さんが話に入ってくる。



「薬の記号を隠してるんじゃないの?

 コウさんのとこ、まだ扱ってないんでしょ?」


「そうかもしれないっすね!」


「よしじゃあ女将! 目的地も近い。下に降りるぞ!」


「はいよ、ルーさん!」



内蔵が浮き上がったような感覚と共に頭から急降下していくという、

新手のアトラクションを思わせるようなスリル感を味わう俺。

もちろん無料である。



「ルーさん! コウさんの足離すわよ!」


「おう、任せろ!」



おい! まだ高度30メートル以上あんのに足離すな!

むっちゃくちゃ怖いじゃねえか!

しかも俺を抱えるルーの腕がプルプル震えてるし! 何が任せろだ!


心の中で抗議しまくる俺をよそに、

危なっかしくも順調に速度と高度を落としていく。

ルーが翼を使って速度を落とし、

慣性の法則で速度を維持しようとする俺を引っ張る体勢。

そして高度約5メートルまで降りてきた時だった。


「兄ちゃん、悪いがもう俺の腕が持たない……離すぞ!」


「え!?」



おいコラふざけんじゃねえよ! と思った瞬間、腕を離される。

今まで俺の上半身をルーが抱えて減速していた影響で、まさかの背中からの落下。



「うわああああ――!!」



短いながらも美しい放物線を描いていたのであろう俺の身体は、

背中をたたき付けるようにして無事着陸、

さらに通りに敷かれた砂利の上をズザゴゴゴという大きな音を立てて滑っていく。

通りを歩く人からは、キャア! 危ない! といった声が聞こえてくる。

なんか俺が悪者扱いされてるようじゃねえか……


十数メートルほど滑った後、俺は静止した。

すさまじくハードな着陸(ランディング)だぜ。


うう……全身が痛い。

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