第5話-A4 Lost-311- 翼を持つ人間
いきなりですが、テンプレファンタジー開始です
今日は何となく連投…
とんとん、と誰かに肩を叩かれ、目が覚めた。
「うわっ!!」
仰向けに寝ていた俺が上体を起こすと同時に、
人によく似た動物の驚くような声が聞こえ、強い風とともに砂埃が舞った。
「うえっ、ぺっぺっ!」
口やら鼻の中に大量の砂が入り込んできた。くそ、砂が目にもっ!
……砂?
目を擦って周りをよく見渡してみると、周囲は暗い。夜らしい。
一面砂しか見えないところを見ると、ここは砂漠か……
しかしながら、俺のすぐ下には待望の地面があるではないか!!息も出来る!
これが例の惑星ウンチャラカンチャラってところか!
ヨッシャァっ!
「生き延びたぞおおおお――っ!」
へっ、これでしばらくは生きて行けるぜ!!
「あの……」
日本語が聞こえてきたような気がして振り向くと……うわ、マジ?人間だよ人間!
風貌的には俺と同じぐらいの歳、完全に中世ヨーロッパ風の少女である。
「あの……大丈夫ですか?」
「え、あ、まあ」
やばい、完全に日本語だよコレ!
意志疎通出来るって最高じゃねえか!
うん、これで俺もファンタジーの王道の仲間入りってわけだ!
「ごめんなさい、私が飛んだばかりに……」
「……飛ぶ?」
「さっきの砂埃は私のせいなんです、ごめんなさい」
「あ……ああ、別に気にしてないが、それよりも飛ぶって……?」
「あの、質問してもいいですか?」
「……ああ、どうぞ」
俺の質問に答えてくれよ……
「なぜ、あなたには翼がないのですか?」
「なぜって……」
ふう、だんだん落ち着いてきた。
夜だからよく見えないが、確かに少女の背中には足元まで続く大きな翼がついている。
この少女がこんな質問をしてくるということは、この星の住人はみんな翼を標準装備してんのか……
金とか地位とか要らねえからとりあえず一旦翼をくれ〜なんて歌う歌があったが、
ここではリアルに翼を持ってるわけだ。
「ついてなきゃおかしいのか?」
「……神使様のご加護の証である翼を持たない人がいるなんて、聞いたことがありません。
こんなところで寝ているなんて、どうかなさったのですか?」
「…………。」
この少女に俺のことを説明してもいいのだろうか?
ここは砂漠のど真ん中、目の前の少女以外に人間はいないが、
とりあえず無難な解答をしておいたほうがいいだろう。
「俺がここにいるのには特別な事情があってだな、翼がないのもそのせいだ」
「特別な事情?」
「ああ。常識じゃ考えられないようなとんでもない事情だ」
「良ければ、その事情を聞かせてもらえますか?」
暗闇の中、少女は問う。
教えてやってもいいのだが……
こんな砂漠のど真ん中で、奇跡的に現地人とコンタクトが取れているのだ、ここでの生活を確保したい。
いや、砂漠でじゃなくてこの世界でっていう意味で。
ここはやはり、一つ条件付きで教えるのはどうだろうか。
「事情を説明する前に聞かせてほしい。
君は、こんな砂漠の真ん中で一体何を?」
「私、ですか?
私は花摘みの帰りです」
少女はそういって、手に持っていたカゴの中身を俺に見せてきた。
だが、暗くてよく見えん。
「……そうか」
「それと、あなたの事情と、何か関係があるのですか?」
「い、いや、そうではないが……」
「……あまり、話したくない事情ですか?」
「いや、そんなことはない。
ただ、今話したところで、君に信じてもらえるかどうか怪しい。
確か、君は花摘みの帰り、だったな?」
「あ、はい」
「君の家はどこに?」
「ナクルにあります」
「ナクル……街か?」
「はい、結構大きな街です。
私の家は郊外にあって、ナクルの隅の方です」
「なるほど……」
「それが、どうかしたのですか?」
「できれば、俺をナクルまで案内してほしい」
行くあてはないが、とりあえずファンタジー小説では、
こういう街に行くのがある種のテンプレのようになっている。
行ってみるべきだろう。
そこでどうにかして職と屋根を見つけることができれば、この世界で暮らして行ける。
まあ、元の世界に戻れるならばそっちの方がいいにこしたことはない。
「あ、はい、いいですよ。
ここから街までは二日ほどかかるので、その間よろしくお願いします」
「ああ、よろしく。
……おっと、名前を聞いてなかったな。
俺の名前はアダチミツヒデだ、よろしく」
「私は“リン”って呼ばれてるので、リンって呼んでください」
「ああ、分かった。リンだな?俺を呼ぶときはコウでいい」
俺とリンは握手をした。
やっぱ握手はどこの世界でも共通の便利な挨拶だ。うん。
しかし、リンは俺と握手をすると、すぐに手を引っ込め、驚いた顔付きで俺をまじまじと見つめる。
「コウさんは、魔術師ですか?」
「魔術師?い、いや、違うが……」
魔術師という職業(?)がこの世界でどういう職業なのか分からないが、
とりあえず俺は魔術師ではないことは確かだ。多分。
「今、手を触れた時手がピリピリするほどの強い魔力を感じたんです」
「魔力?」
まさか、ファンタジーの定番、魔法がこの世界に存在しているというのか。
このエリア311の創造主はファンタジー好きで決定だな、うん。
「まさか、魔法を知らない?」
「ぜんっぜん知らん。まったく。
これぽっちも」
「世の中には不思議な人もいるものですね……」
だろうね。
リンから見れば俺は何も知らないベイビー同然の常識のなさなんだろうな。
「そういえば……あの、どうしてあなたがここで寝ていたのかという話がまだ……」
「ああ、それはまた日が昇ってから話そう。
あまりに突飛な話になるから、すこし親睦を深めてからの方がいい」
「そう……ですか」
「俺も君に聞きたいことが山ほどある」
それから、俺とリンは相談しあって、ここで一晩を明かすことにした。
地球との適合率94%のこの惑星、何とかここで生きて行けそうな気がする。