ダジャレ好きのおじさんは秋を満喫する
近所で飲食店を営む親戚のおじさんはいつも下らないダジャレを口にする。
「ついに中学生か。せっかくだから厨房でバイトしていくか?」
中学校の入学式翌日に言われた言葉だ。
あの時はダジャレと分からずに困惑した記憶がある。
事故で怪我したおじさんのお見舞いに行ったとき。
「怪我の心配はもうないよ。おじさんの頭頂部を見てごらん。ほら、毛がないでしょ?」
恋の悩みを相談したとき。
「恋の悩みならそうだね。コインの表裏で決めよう」
推し活にハマっていたとき。
「推し活にハマりすぎてお金がないんだって? おし、カツでもおごってあげよう!」
昔からずっとこんな人だ。
「下らないこと言ってないで!」と奥さんに怒られる姿を何度も見た。
お客さんを怒らせてしまったこともある。
子供たちにはいつも「寒っ!」と冷ややかな言葉を掛けられている。
ダジャレが人生の得になっているとは思えない。
それでもおじさんはダジャレをやめなかった。
もう癖になってしまっているのだろう。
私はおじさんのダジャレに否定的だった。
でもあることをきっかけにその認識は変わった。
去年の秋。
なぜかおじさんは店を長期休業にすると張り紙を出していた。
何があったんだろう?
不思議に思った私はおじさんに休業の理由を訊ねた。
「どうしたんですか?」
「なにがだい?」
「一ヶ月も店を閉めるみたいなので」
「秋を満喫したいと思ったんだよ」
「は?」
おじさんは四季折々の風情を楽しむような人ではない。
せいぜいダジャレの題材にするだけだ。
そんなおじさんの口から、秋を満喫したいなんて言葉が飛び出すと少し心配になる。
どうしてしまったんだろうと。
「どうやって満喫するんです?」
「ゆっくり休暇を取るんだよ」
……休暇を取るだけじゃ秋を満喫したとは言えない。
季節の食材を楽しむとか、紅葉を見に行くとか、もっと他に色々あると思う。
「休む意味あるんですか?」
「もちろんあるよ。仕事を休まないと秋を満喫できないからね」
「いつも16時には店を閉めてるのに?」
「うん。商いしてたら、秋がないでしょ?」
「ぷっ!」
下らない。
あまりにも下らな過ぎて吹き出してしまった。
「面白かったでしょ?」
いつものおじさんだと分かって安心した。
「うん。とっても!」
店を閉める一ヶ月間は当然収入がなくなる。
それなのにダジャレのために長期休暇を取ったのだ。
きっとおじさんはダジャレに人生を賭けている。
その生き方が私は心の底から面白いと思った。




