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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

ホワイトなデッドライン!~ただの人間ですが、亡き祖母の代わりに死神になります!~

作者: 神楽柘榴
掲載日:2026/03/07

 僕は夜叉蘇芳(やしゃすおう)。普通の人間だ。


 前の仕事は化粧品メーカーで働くエリートだったが、ある日会社が倒産してたった今ニートになった。


 そして、そのショックが体中を巡る前に祖母の死を知らせる一本の電話が来た。


 スーツだったのでコンビニでネクタイを黒に変えるだけで良かった。タクシーを拾って葬式会場に向かった。その間にニートの絶望感と両親を早くに亡くして唯一の家族だった祖母ちゃんの死による孤独感が会場で棺の前で手を合わせるときに同時に僕を襲った。葬式会場はガランとしていてスタッフしかいない。


「…あぁ、職も失ったばかりなのに、つくづくついてない。」


――そう言った矢先だった。


「なぁ、あんたが邦子(くにこ)の孫か?」


 低い声に振り返ると、そこには黒い着物を着た男が立っていた。全身包帯ぐるぐる巻きで背も僕より頭一つ分高く手に持つ煙草から煙が出ている。


「…あの、ここ禁煙ですよ?」


 僕が恐る恐る注意すると男は「あぁわりぃ」と言って煙草の火を消す。そして男は葬式の後ろの席で棺を眺めていた。


 しばらくして火葬も終了して僕と謎の男だけの葬式は終わった。


 僕の祖母ちゃん――夜叉邦子は幼い頃から変わり者でよく”見えない何か”と話したり、謎の詠唱?をしたりしていた。


 そのせいで成人してすぐに縁を切られた。


(…祖母ちゃん、僕どうしたら)


 途方にくれていたそのとき、僕の肩に手が置かれた。さっきの謎の男が僕の手を鷲掴みにする。


「…こっち来いよ!邦子から聞いたぜ?お前無職なんだってな。」

「…なぜそれを?」


 僕の問いかけにも応じず男は僕の手を引っ張って葬式会場から飛び出す。どんどん進んで気づいたら人気のない裏路地に来ていた。祖母ちゃんはこの男と知り合いなのか?こんな得体の知れない奴、僕は知らない。改めて見ると男は人間離れした何かを感じさせていた。


「ここがお前の新たな職場、『デッド・ゴッドカンパニー』だ。」


 男に促されるまま見上げると、そこには都市伝説にでも出そうな古いビルがあった。今にも崩れそうで正直別の意味で怖い。

 それよりも、だ。


「ここって、何の会社ですか?看板もありませんよ?」


 僕から見ればどう考えても怪しすぎる。しかし、男は予想外のことを口にする。


「…そうだなぁ。強いて言えば保険会社か?死んだ奴らの」

「…は?」


 ”死んだ奴ら”?僕の聞き間違いかと思った。でも正しいらしい。


「詳しいことは部長から聞け。俺もここの社員だからよ。」


 男はそのまま僕を引っ張って建物に入った。


*****


 建物の中は想像以上に清潔感があった。しかし社員は皆人間じゃなかった。本にしかいなそうな妖やら怪物やらがそこに堂々といる。それらが普通にパソコンを触り、ミーティングをしているのだ。


 僕の青い顔をさっきの男が覗き込む。


「なんだ?怖いのか?邦子は普通だったぜ?」


 すると、奥から女性の声が聞こえた。


「…おーい!高橋!夜叉家の当主は連れてきたか?」


 しかし、そこにいたのは小さな猫又だった。普通に何の飾りもない三毛猫だ。それにしてもこの包帯男、高橋って言うのか…。意外と普通だ。


 高橋は着物の襟を崩す。


「…あぁ、連れてきましたよ、部長。これで給料は?」

「もちろん上げるよ。」


 高橋はガッツポーズを取っている。しかし、僕には全く状況が見えてこない。当主ってなんだ?すると、部長が優しく話しかける。


「その様子じゃ、高橋は説明しなかったみたいだね。じゃあ、話すよ。」

「…よ、よろしくお願いします。」


 僕の体は震えていたが部長がゆっくり話すと次第に緊張はほぐれていった。


「まず、自己紹介だ。私はこの会社の『転生課』の部長、山茶花(さざんか)だ。猫又だよ。そして、包帯の奴は天使の高橋普(たかはしあまね)だ。」


 予想外の言葉に驚く。


「え?高橋さんって天使なんですか?」


 天使と言えば頭にリングがあって背中に白い羽がある神々しいイメージだが、高橋には怪しさしかない。


「人間の妄想にはこりごりだよ。さぁ、仕事の説明だ。」


 部長は失笑しているとFAXから一枚の紙が出た。真っ白な紙を高橋が手に取って読み始める。僕が眉をひそめていると、部長が黒縁の眼鏡と会員証らしきカードを渡した。


「これをかければ、仕事ができるよ。会員証があればいつでもここに来れるから。」


 その後、咳払いをして部長は話を続ける。


「君の祖母はね、死神だったんだ。それで稼いでいた。」

「え?」

「だから夜叉家の当主の君が必要だったんだ。人員不足でね。」


 すると、思い出したように部長は手をポンと叩く。


「仕事内容はね。亡くなった魂に適切な来世を送らせるんだ。何になってどんな力をつけるのかとかね。」


 すると、高橋に目をやった。


「これから高橋が君の教育係だから、仕事に慣れるんだよ。」


 そう言うと高橋が僕に歩み寄って肩を強引に組む。


「これからよろしくな!蘇芳」

「…は、はい」


 高橋の強引さに心底驚いたが、またしても彼に促されるまま建物を飛び出した。


*****


 現場に着いた。そこはある神社だった。小さくて人気も少ない。僕のマンションのすぐ近くのはずなのに僕も存在自体知らなかった。


 すると、高橋が首にかけた笛を鳴らした。眼鏡をかけると神社の社から若干透き通った烏が一羽現れた。どうやら、この眼鏡は魂を見るための道具らしい。


「おーい!山崎司!お前の来世が決まったぞ。」

「え?この烏、名前あるんですか?高橋さん」

「普でいいよ。あれは元々人間でな。魂の形が烏なだけだ。」


 普がさっきの紙を見せると文字や顔写真がしっかり写っていた。どうやら近くの病院で亡くなった10歳の女の子らしい。『来世』の欄には「世界番号E-146 種族:ビントロング 持病:なし 能力:なし」と書かれていた。僕が一通り目を通すと、普は深いため息をついた。話だと『世界番号:E-146』はこの世界のことらしい。


「このお嬢さんはな。異世界転生小説が好きで、その異世界じゃなきゃ嫌なんだとよ。前もこの世界で猫だったんだが断られた。今回も同じでな。」

「え?決められないんですか?」


 僕は思わず意見を出す。

 しかし、普は首を横に振った。


「無理だ。異世界の窓口が空いてないからな。しかもチート付きなんて徳が足りないからな。」


「迷惑なカスタマーですね…。」


 しかし、いやいやながらも普は山崎さんに話しかける。


「次はな、ビントロングだぞ。可愛いからいいだろ?」

「いやだ!お姫様とか勇者になって大活躍するの!」


 かなりのわがままだ。なんでこの世界を嫌うのか…。


 普は少しイライラしている。

「あのなぁ⁉リクエストできねぇんだよ!これラストチャンスなんだ!」


 しかし、山崎さんは烏の姿でもわかるくらいに頬を膨らませている。


 すると、普は紙をしまって、小型ナイフを取り出した。刃が妖刀のように青く冷たく輝く。


「…なんなら、強制終了だ!」


――シュッ!


 普はナイフで山崎さんを一刀両断にした。烏の体は叫ぶ間もなく、白い光の粒となり散り散りになって消えていった。


 空へ登るそれを見送ると普はスマホを取り出して電話をした。相手は部長だ。


「部長、怪異化する前に駆除しやした。――了解、解魂刀は新人にこれから渡します。」


 普の目は鋭く、冷めきっていた。その目にさっきの吞気な光は宿っていない。普が振り返るとポケットからもう1本ナイフを取り出して僕に差し出した。


「これは解魂刀。行き場のない魂はやがて怪異となって危害をもたらす。そこで転生の回数制限をオーバーしたら、こいつでバッサリ切るんだ。」

「山崎さんはどうなったんですか?」


 僕の頭の中は山崎さんのことで心配でたまらなかった。しかし、普は笑う。


「なーに、新しい魂の製造資源にリサイクルされたんだよ。もう記憶は戻らない。」


 僕の震えは止まらなかった。魂が壊れて自分じゃなくなるなんて身の毛がよだつ。そんな僕に普は一枚の紙を渡した。そこには「世界番号:E-784 種族:ウェアウルフ 持病:なし 能力:標準魔法」と書かれていた。世界番号から異世界だとわかった。


「次の奴は徳しかないような行動をした、真面目な社員だ。名前は斉藤光(さいとうひかる)。」


 資料を読み進めると、斉藤さんは傘寿を迎えて間もなく息を引き取った男性。学歴も職歴も申し分ない。しかし、転生回数はこの1回のみだった。同じ神社で待ち合わせになっていた。狛犬の陰から小さな白い人魂が現れる。


「お前の初仕事だ。ズバッとやってやれ。」


 普は後ろから温かい目で見守っていた。僕は早速ネクタイをしめて眼鏡をかけ直して斉藤さんに話しかける。元は営業で上からの報われない無理難題をクリアしたんだ。話すのは慣れてる。


「斉藤さん、今回の転生先は異世界でウェアウルフです。魔法も使えますよ。」

「私は能力なんて要らんよ。どうか凡人にしてください。」


 山崎さんほどではないが、じわじわくるタイプの迷惑カスタマーだ。背後ではナイフを構えた普が眉間にしわを寄せている。


――しかし、僕はナイフを握らなかった。


「斉藤さん!確かに”今の”あなたのご希望に合わないと思われますが、”来世の”あなたにはピッタリのプランです。第一、ウェアウルフは一般的な種族で魔法もこの世界では当たり前なんですよ?」


 知らないが、そういうことにした。すると人魂はわずかに跳ねた。


「それなら来世はそうしよう。ウェアなんとかも楽しそうだ。」


 すると紙に『受諾』と書かれた赤い印がついた。そのまま紙は紙飛行機に姿を変え、人魂をのせて天高く昇って行った。


 呆然とする普に僕は決意を固めた眼差しで射抜く。


「普さん、僕は相手に納得できるサービスを意地でも提供する。僕は金銭だけにとらわれない。」


 すると、普は腹を抱えて笑い出した。


「本当に邦子の孫だな。ますます気にいった。」


――こうして、僕は祖母のあとを継ぎ、死神として働くことになった。


 いやじゃないかって?そんなわけない。前職のパワハラだらけの阿鼻叫喚の地獄絵図にいるとこっちは全然ホワイトだ。僕はこの仕事が好きだ。

※この物語はフィクションです。

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