謎解きはお味噌汁を作る間に 買ってくれるリサイクル業者編~
「千夏、おはよう。」
私が五時半に起きると、婆ちゃんはもう食卓に座っていた。
「婆ちゃん早い!直ぐ作るね。」
制服の上にエプロンを付けて、朝の支度をする。
ご飯やおかずはもう出来てる。あとはお味噌汁だけ。
『朝ごはんのおかずとご飯は婆が、お味噌汁は交替で作る。』
それが雨宮家、ウチのルールだ。
お湯を沸かしてその中に出汁の粉末を入れる。
ウチにはお味噌汁以外にもう一つ、ルールがある。
「リサイクル業者から独楽を買って貰った?」
変なものを見た。という顔をされた。
「そうなの。友達の家に古い蔵があって、そこのものを整理しようとしたら、色々出てきたらしいんだ。
絵とか壺とか石とか古い箪笥とかよくわからない時代劇に出てくるような本とか……」
「和装本ってやつかね?」
「多分そうじゃない?で、その中に鎧とか、刀とか、弓矢とか、楽器とか、古い家電とか、絵本とか、メンコとか、けん玉とか、ビー玉とか、おはじきとか、独楽とかもあったんだって。」
「また色々と突っ込んであったもんだねぇ。まるで節操がない。」
「ひいお爺ちゃんだかお婆ちゃんだかが色々興味を持って買ってくる人だったんだって。
でね、全部処分しちゃおうってことになって鑑定士とリサイクル業者を呼んだらしいの。
で、一足先に来たリサイクル業者の査定の最中に手伝いに来た家の子ども達が探検して、色々持ってっちゃったのよ。」
「子どもってのはそういうものに興味持つからね。蔵みたいな珍しくて何があるかわからない場所のものはみんなお宝だって持ってっちまうもんさ。」
「で、取り返そうってなった時に、一人の子どもが持ってって回してた独楽が新しいものになってたんだって。
なんでって子どもに聞いたら『お兄ちゃんととりかえっこした』って。」
「誰かが蔵にあったボロい独楽を新しいものと交換したってのかい?」
「そういうことみたい。でもその子は交換してくれたのは親戚のお兄ちゃんじゃないって言ったらしいんだ。で、リサイクル業者の人に聞いたんだけど、そっちも知らないって言ってるんだよ。」
「……犯人は業者の人間で、その独楽が価値有るものだと見るべきなんだろうけど、そうじゃないんだろ?」
「正解。蔵に残ってた独楽があったから、それを詳しい人に見て貰ったんだって。
古いだけの独楽で特にプレミア付きって訳でも無かったらしいよ。」
「だから不思議なんだね。価値有るものなら交換するメリットはあるけど、無いならやる意味がない。じゃあなんでやったのか?」
「そういうこと。無くなった独楽だけが特別だったらわからないけどね。でも最初見た時は全部おんなじデザインの独楽だったって話だったよ。
なんでだろ?普通に古い独楽で遊ばせるより新しい独楽で遊ばせた方が危なくないってことかな?」
「そんなことのために新しく独楽なんて買うかね?いや、それよりもだ。
露骨なすりかえなんてそれに価値があるって教えるようなもんだ。何食わぬ顔で買い取って持ってきゃ良い。それをしなかった、いや、出来なかった。」
「出来なかった?なんで?」
「鑑定士が来たら一発で見抜かれる『何か』があったんだろう。だからそれだけ先に処理したかった……」
「じゃぁ、独楽に気を取られてる隙に他の物を盗ったってこと?」
「いや、違うね。問題は多分独楽だ。」
「独楽の中に何か埋まってるとか?独楽が実は隠し金庫とか遺跡の鍵になってるとか?それとも特定の人が回すと魔人が出てくるとか?」
「……なんだいそりゃ?」
「最近流行りの独楽モチーフのアニメのストーリーだよ。独楽をこうやって回す動きが人それぞれ違ってて、それが指紋みたいに鍵になってるんだよ。」
そう言って両手を前に、左手だけを手前に引いて独楽を回す真似をして見せる。
「なんだい、その回し方は?独楽ってのはね、こうやって回すもんさ…………」
ばあちゃんが独楽を回す真似をしようとして、止まった?
「……ぎっくり腰?」
「バカ言うんじゃないよ。それより後で友達の家に連絡しな、調べてほしいものがある。」
「えー、謎解きは?」
「もう解き終わった。あとは後日譚に回すよ。」
《数日後》
「婆ちゃんの言ったとおりだった。詰めたら白状して返してくれたって。警察は面倒だから呼ばないってさ。
あ、こっちは事件解決のお礼だって、お婆ちゃんにもよろしくってさ。」
友達から貰ったのは緑色のお高いフルーツ店の袋。中は大きなドライストロベリーが入っていた。
「わーい、イチゴイチゴ、あ、チョコだこれ!」
口の中に広がるイチゴの甘さと酸っぱさの他に、ホワイトチョコの味がした。
「ったく、卑怯なことをする奴もいたもんだ……うまいもんだね。」
「これ、友達チョイス!おいしいものを見つける天才なの。にしても婆ちゃん、なんでわかったの?」
「独楽をすりかえたって話を聞いた時に、アタシも独楽になんかしらの細工があるんじゃないかとは思ったんだけどね、にしては露骨過ぎた。
じゃぁ、独楽に用事があるけど、独楽に価値が無いんじゃないかと思ったのさ。
で、『子どもが持ってって回してた独楽』って話とアンタの妙ちくりんな独楽回しの動きを見て、もしかしてと思ったのさ。」
「まさか独楽の紐に価値があるなんてね。」
「正確には独楽の紐に付いてた『和同開珎』って貨幣だね。日本で初めて全国に流通したお金とされてるもんさ。
独楽の紐には穴開きの硬貨を結び付けておくことがあってね。独楽回しを知らない今の子はそこに目がいかなかったんだろうさ。
ま、知ってるやつが見たら、一発でお宝だってなるけどね。」
「名前は知ってたけど、そんなに価値があるんだ……うわぁー。」
スマホの画面にとんでもない金額が出てきた。
「にしても、とんでもないものを紐につけてたもんだね、そのご先祖さんも。」
「あー、そう言えば、蔵の中身をちゃんとした人に鑑定してもらったら宝の山だったってなって、今友達の家は大騒動になってるらしいよ。」
「目利きだね。にしても、独楽を持ってった子はお手柄だね。その子が持ってかなければ気付かれもしなかっただろ。
今時テレビゲームだのおもちゃだのは一杯あるのに、独楽に手を伸ばすなんて面白い子もいたもんだね。」
「あー、その子ね。なんか、『それがいちばんおたからだった!』って言ってるらしいよ。」
「しっかり目利きの血は受け継いでるみたいだね。」
「じゃぁ私も名探偵の血が!」
「アンタはお転婆の血を受け継いだから、あきらめな。」
「え~……」
参考サイト
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF2894Y0Y1A720C2000000/
https://nikkoudou-kottou.com/blog/kosen/22492
https://wadohosyoukai.com/wadokaichin/name/
https://www2.nhk.or.jp/school/watch/clip/?das_id=D0005403255_00000
https://www.google.com/search?sca_esv=17e7bd53c13984e9&rlz=1C1AWDP_jaJP986JP986&udm=28&fbs=AIIjpHzCFIs5OIs72gZGJCEgiLV7xXI-lIGPv90WmitJzqTfCyen6M06-FXnIWG6VK3qWhXb3xLwYloGmJlLPZlWamzQMA0vwptjiK1_DT-UsGnG6lpixmLhKvHJaMfJBFhaDug0AWY9IKxh30z44ME6e3N0gaa9OioZp_htEFmtQR8n3vm4RIbHBnFZy00UdppbMwlbUpNDXaV7PgJzk2mAfi5uR_6b7L6VG2xLkCsq7yH-opjOIGY&q=%E5%92%8C%E5%90%8C%E9%96%8B%E7%8F%8E%E3%80%80%E5%80%A4%E6%AE%B5&ved=1t:220175&ictx=111&biw=1536&bih=730&dpr=1.25#oshopproduct=pid:2292861099122738646,oid:2292861099122738646,iid:14961767016434720229,pvt:hg,pvo:3&oshop=apv&pvs=0
この作品、『謎味噌シリーズ』というものの一作となっております。
つい先日、別サイトの特集でシリーズひとまとめにしたものを取り上げて頂きまして、『乗るっきゃねぇ、このビックウェーブに!』という勢いのまま書いてしまいました。いやはや、勢いって怖い。
そんな勢いで書いた作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。




