表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/36

30話 5年越しの真実

「ごめんね? 珈琲くらい、用意できれば良かったんだけど。コップが足りなくて」

 

 高校生4人が来ると、流石にワンルームはかなり狭く感じる。

 小さなテーブルを囲む海星たちに、暁那は申し訳なさそうに話した。


「大丈夫っす! 俺ら、飲みもん持ってきたから」

 祐介は持って来たビニール袋から、人数分のペットボトルを取り出す。


「これがタケシで、海星……んでこれが佐伯と、暁那さんの」

「え、僕の分まで?」

「当然。この前は勉強教えてもらったし!」

「ふふ、そっか……ありがとう」


 少しぬるくなったホットコーヒーを受けとり、暁那はくしゃりと顔を綻ばせる。

 頬を染めて笑う暁那を見て、祐介たちは恥ずかしそうに目を伏せた。

 

 隣で様子を見ていた海星は、無防備に笑う暁那を膨れっ面で見上げる。


「もうアキ! かわいい顔してないで、早く話始めるよ」

「え!? うぅ、ごめん」

 

「はは、相変わらずだな……ん? 佐伯、赤い顔してどしたん?」 

 懐かしいやり取りに呆れながら、タケシはふと真実の様子が気になり声をかける。 


「い、いやぁ……別に、大丈夫。気にしないで」

 そう言いつつも、真実は赤い顔でモジモジと指を動かす。

 

 (……暁那さん、男の人なのに、なんでこんなに可愛らしいの? あああ相沢くん!? 2人ともあんなにくっついてっ……うぅ、どうしよう、刺激が強すぎて顔が見れない!)


 真実は目の前で繰り広げられる惚気を直視できず悶々とする。

 初めて知る世界に思春期の妄想は止まらず、本来の目的まで飛んでしまいそうだった。


「そっか……じゃあ、早速だけど」

 タケシは苦笑いを返し、本題に入る。


「暁那さん、本当に話してくれるんですか? 来栖のこと……」

 タケシは心配そうに暁那を見つめる。

「……うん」

 暁那は少し俯き、けれど柔らかな表情で話を続ける。

 

「僕、ずっと宰斗の事から逃げてた……けど、佐伯さんの事を聞いて、自分も向き合わなきゃって、思った」

「えっ……私?」

 思わぬところで自分が呼ばれ、真実は驚き目を丸くする。

 暁那は遠慮がちに真実の目を見て頷く。


「……正直、僕の話をどこまで信じてもらえるかわからないけど。先生たちに、宰斗の本当の姿を知ってほしい……彼に傷つけられる人が、これ以上増える前に」

 力強い言葉で話す暁那を、海星は複雑な表情で見守っていた。

 

「でも……本当に大丈夫? 辛い思い出のある、学校に来ることになるんだよ?」

「心配してくれてありがと。でも不思議と、今は怖いと思うより、やらなきゃって想いの方が強いんだ……あ、学校までは、母さんの車に乗せてもらえないか頼んでみるから」


 そう伝える暁那に、以前のような暗い影はなかった。

 海星は彼の想いを受け止め、真剣な表情で静かに頷く。


「大丈夫だって、俺らも付いてるし!」

「だな。暁那さんの為なら、喜んで協力する」

「わ、私も!」


 祐介たちはそれぞれ頼もしい笑顔を浮かべる。


「……ありがとう」


 午後の日差しに照らされ、暁那の笑顔は輝いていた。


 暁那はこれまで、抜け出せない暗闇の中閉じ籠り、ずっとひとりだった。

 しかしそこから抜け出すため、再生のための試練に立ち向かうのは、彼ひとりではない。

 海星や祐介たち、それに真実も、懸命にもがく暁那の力になりたいと願っていた。


 ――――


「びっくりした。まさか、男の人だと思わなくて……」


 夕暮れの帰り道、真実は歩きながらポツリと話す。

 

「はは、そう言えば伝え忘れてたな」

「まぁ、俺らも最初はビックリしたけどね」


 タケシと祐介は自転車を押しながら、懐かしむように答える。


「で、どうだったの? 引いた?」

「……渋谷くんて、意地悪だね」

「ぷっ、ごめんごめん」

 ムッとする真実に、タケシは吹き出すように笑った。

 

 真実はゆっくり空を見上げ、微かに微笑み口を開く。

「引くわけ無いよ……むしろ、羨ましい。あんな風に優しく、お互いを想い合える関係性が」

「ふふ、そっか」

「ほんと見てて恥ずかしいくらい仲良いからな、あの2人」


 祐介が冗談めかして言うと、2人はクスクスと笑う。

「確かに」

「ふふ、そうだね。私にはちょっと、刺激が強すぎた」


 ◇


 それから数日後。

 自転車で帰宅する学生たちを窓から眺めながら、暁那は車に揺られていた。


「……大丈夫、酔わない?」

 母の叶恵は助手席に座る暁那をチラリと見て、心配そうに声をかける。


「大丈夫だよ。それより、今日はごめんね。わざわざ送ってもらって」

「いいのよ、これくらい何でもないから」

 叶恵は前を見つめたまま、穏やかに笑う。

  

「でも、暁那をこうして、また助手席に乗せれる日が来るなんて嬉しいわ。今度は、一緒にランチなんてどうかしら?」

「ふふ、それはまだ、難しいかも。けど……いつか行きたいな」


 冗談のつもりだったが、暁那の前向きな反応に叶恵は驚く。

 それと同時に、彼の成長が心の底から嬉しかった。

 止まっていた時が回りだしたような感覚に、胸の奥に込み上げる暖かな想いを感じていた。


「……そうね。あ、そろそろ着くわよ」

「うん……」

 

 久しぶりに見る母校の校舎。

 懐かしさと、無意識に甦ってくるクラスメイトからの冷たい視線。

 しかし暁那はそれに怯むこと無く、じっと門を見つめていた。


「ありがとう、ここで降りるよ。帰りはまた、連絡するから」

「そう……わかったわ」

 校門の脇に車を止め、叶恵はドアのロックを外す。


 暁那は慎重にドアを開け、一呼吸して地面に足を下ろした。

 そしてドアを閉めた後、背を向ける彼に叶恵は窓を開けて声をかける。


「暁那! 頑張ってね」

「……うん。ありがと、母さん」


 振り向くと、涙を堪えるような母の笑顔があった。

 暁那は安心させるように微笑み、ゆっくりと、人気の無い校門を潜っていく。


「私も、頑張らないと……」


 暁那の背中を見送りながら、母はハンドルに腕を乗せひとり呟いた。


 ◇


 正面玄関で海星たちと落ち合い、暁那は職員室へ向かう。

 気を遣ってかそうでないのかわからないが、向かう途中祐介は冗談ばかり言って場を和ませる。


 まだ学校に残っていた生徒たちの中には、見慣れない暁那の姿を見てこそこそと話をする者もいた。

 それに気付いた暁那が隠れすように下を向くと、海星は彼の手をぎゅっと握る。


「大丈夫。俺がついてるから」

 ボソッと呟かれた言葉に、暁那は目を潤ませて静かに頷いた。


 ――――


「入るね」

「……うん」


 海星は暁那に合図をし、深呼吸をして職員室のドアを開ける。


「失礼します」


 海星たちの姿を見て、馬場は深いため息をついて席を立つ。

「はぁ……どうぞ、こちらの部屋に」

「あ、はい……」


 馬場は暁那の姿を見て会釈をすると、皆を談話室へと通す。

 同じく職員室にいた高田は、生徒ではない来客の姿を見て怪訝な表情を浮かべていた。


 (あの子……どこかで)


 ◇


「それで……話と言うのは」


 お茶を配り終えた馬場は、暁那の方を向いて問いかける。


「えと……お忙しい中、お時間を頂いてすみません。実は、さ……来栖宰斗について、お話が」

 膝の上でぎゅっと拳を握り、暁那は冷静な声で話をする。


「はぁ、またですか……以前も、佐伯さんから話は伺いましたが。私の方では、特に問題は見受けられませんでしたし……」

 馬場は頭を掻き、困惑した表情を浮かべる。

 

「問題はあります! 佐伯の話、聞いてなかったのかよ!」

「カイ! お、落ち着いて……」

 暁那は興奮して立ち上がる海星の腕を引き、座らせてから話を再開する。


「……彼女の話とは別に、僕が……来栖宰斗に受けた事実を、聞いてほしいんです」

「あなたが、ですか」

 暁那の真っ直ぐな目を見て、馬場はその話を聞くべく背筋を伸ばした。


「ここは、僕の母校です。2年の時に不登校になって、卒業することは出来ませんでした」

 馬場はハッと目を見開き、気まずそうに目を伏せる。


「それは……宰斗に虚偽の噂を拡散されて、クラスメイトからの誹謗中傷に、僕が耐えられなくなったことが原因なんです」

 

「……そんな。で、でもなぜ、そんな事が」

 明らかに動揺する馬場に、暁那は自分を落ち着かせるように深呼吸をする。


「……僕と宰斗は、付き合っていました」


「えぇ!? あ……すみません」

 あまりの衝撃に馬場は大きな声を上げ、誤魔化すように咳払いをしてから続きを促す。

 暁那は小さく頭を下げ、話を続ける。

    

「でもある日、彼の心ない言葉を聞いてしまったんです……ただ、面白がって付き合っていたこと。それを友人に笑いながら話しているのを聞いて、僕は……崖から突き落とされたみたいなショックに、出ていく事も出来ませんでした」


 初めて暁那の口から詳しい事実を聞き、海星は怒りを滲ませ静かに拳を握る。

 それはもちろん、祐介たちや真実も同じ気持ちだった。 


「その後、すぐに彼に別れを伝えました。でも、彼からの返事はなく……翌日には、僕が彼に執着し、宰斗は心を病んで通院していると言うデマが、クラス中に広まっていた……その後は、さっき話した通りです」


 静かに、確実な言葉で話をする暁那に、その場にいた全員が黙り込む。

 だいたいの事情を話し終え、暁那は肩の力が抜けたように息を吐いた。


「結果、引きこもりになってしまって……でもそれは、自分の弱さのせいでもあって。全てが、彼によるものではないとわかっています。けど……そんな彼が、教師を志していて、同じように彼に傷つけられた人もいる」


 そう言って、暁那は切ない表情で真実を見る。


「だからどうしても、先生方に宰斗の本性を知ってほしかった……彼は、全ての人を蔑み、信用していません。そんな人間が、教師になれると思いますか?」


 淡々と、まっすぐ前を見つめて話す暁那の姿に、馬場は混乱したように頭を抱える。


「先生……これでもまだ、何もしないんですか?」

 海星たちはじっと馬場の態度を窺う。

 馬場は居たたまれず、バリバリと頭を掻きむしった。


「……ちょ、ちょっとこれは……私だけでは何とも」


 話の途中、突然コンコンと壁をノックする音が響く。


「た、高田先生……」


「ドアが半開きになっていたので、話は外で聞かせてもらいました」


 高田は胸の前で腕を組み、壁に体を預けて馬場を厳しい目で見つめる。

 そして暁那の顔を見ると、フッと悲しげな笑みを見せた。


「……久しぶりね、望月くん」


 暁那はしばらく彼女の顔を見つめ、思い出したように声を上げる。

「あ……学年主任の」


「ふふ、覚えていてくれた?」

 高田は柔らかく微笑むと、強い口調で馬場にあることを告げる。


「馬場先生……早急に大学側に事実の報告をして下さい。事の真偽は、私が保証しますので」


「は……はいぃ!」


 高田の迫力ある声に、馬場は弾かれるように談話室を出ていった。

     

 



数ある中から読んで頂いて

本当にありがとうございますᐠ( ᐢ ᵕ ᐢ )ᐟ

リアクションや、一言でも感想を頂けると大喜びします(^◇^)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ