表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/36

27話 反撃への覚悟

 12月27日、深夜。

 海星はベッドの上に仰向けになり、真剣な顔でスマホを見つめる。


「……カイ、眠れないの?」

 暁那は布団の中で体を捩り、海星の顔を心配そうに覗く。

 暗闇でぼんやりと照らされた海星の目は、鋭く画面を睨み付けていた。


「あ、ごめん。起こしちゃった?」

 海星はスマホの明かりが見えないように、画面を裏向け枕元に置く。

「いや、僕も眠れなかったから」

「……そっか」


 優しく微笑むと、海星は暁那の目にかかった前髪をさらりと梳かす。

 暁那は一瞬目を瞑り、もう一度彼の表情を観察する。


「何か、考え事してた?」

 暁那の言葉に、海星はまた難しい顔で黙り込んでしまう。

「カイ?」

「……やっぱ、隠せないや」

「ん?」


 海星はぽつりと呟くと、困ったように微笑んだ。

 そしてまた仰向けになると、吹っ切れたような表情で真っ直ぐに天井を見上げる。

 

「タケシから連絡があって……今度3人で会うことになったんだ」

「そうなんだ」

 まだ話が掴めない暁那は、キョトンとして相槌を打つ。

「うん……ちょっと、話し合いで」

「話し合い?」


 海星は顔だけ暁那の方に向け、不敵な笑みを浮かべる。

「そ。宰斗の事、馬場に告発するための話し合い」


 その言葉を聞き、暁那は大きく目を見開いて息を飲んだ。

 黙ったままの暁那を見つめ、海星は話を続ける。


「俺、散々アキを傷つけたアイツの事、絶対に許すつもりはないよ……そのために、佐伯を利用するような事になっても」


 (佐伯さん……確か、宰斗のせいで学校を休んでる)


 暁那は深く息をし、ゆっくりと口を開く。

「はぁ……それ、僕にも何か、協力出来ないかな?」

 不安に揺れる暁那の目をじっと見つめ、海星は布団の中で彼の手を握った。

 すると、暁那はその手をすぐに強く握り返す。

 

「大丈夫だよ……俺らに任せて。アキはもう、アイツの事なんて考えなくていいから」

「で、でもっ」

 暁那が反論しようと体を寄せると、それを遮るように海星は唇を塞ぐ。


「んぅ……」

 軽い口づけの後、海星は目を細めにっこりと笑う。

「……俺、明日帰る。ちゃちゃっと課題終わらせて、準備しないとだし」

 笑顔の奥にある彼の強い決意を感じ、暁那はわだかまりを抱えたまま、ゆっくりと頷いた。


「わかった。けど……何かあったら、連絡してね」

「うん! ってゆーか、何もなくても連絡するよ。電話、無視しないでちゃんと出てよね」

「ふふ、しないよ。すぐに出れるように、ずっと見てる」

 冗談か本気かわからないような暁那の言葉に、海星は吹き出すように笑う。


 ベッドの中、隙間の無いほど体を寄せ合って、2人きりの夜は静かに更けていく。

 互いの鼓動が聞こえると、興奮よりも安らぎが心に広がった。

 それでもほんの僅かな不安が、奥底でゆらゆらと火種のように残る。

 海星と暁那、それぞれが違う火種を抱えて、2人は布団の中で固く手を握り合っていた。


 ◇


 12月30日

 海星は今年最後のファミレスのバイトに励む。

 それもあと数分で終了時間。

 その後は、ここで祐介たちと合流する予定だ。

 海星はチラチラと壁の時計を見て、8時半になった途端慌ててロッカーへ向かう。


「お疲れさまです。お先失礼します!」

 制服を着替え、海星は先輩に会釈をするなり足早に去ろうとする。

「お疲れさま。あ、良いお年を」

「あっ、良いお年をっす」

 思い出したように足を止め挨拶した後、海星はそのまま祐介たちのテーブルへ走った。

  

「お待たせっ」

「おう、お疲れ!」

「ほれメニュー。今日は何か食ってくだろ?」

 タケシは注文用タブレットを隣に座った海星に差し出す。


「うん、遅くなるって言ってるから。何にしよっかな……」

 メニューを選ぶ海星を眺め、祐介とタケシは顔を見合わせる。

 祐介に顎で指図され、タケシは頷き真面目な顔で話を切り出した。


「実は、今日佐伯から連絡があったんだ」

「え、マジ!?」

「おう」

 タケシは真顔で、その返事がいいものか悪いものか判断は出来ない。

 彼の表情をじっと見つめ、海星は手を止めたままごくりと息を飲む。


「……で、返事は?」

 おずおずと先を促すと、タケシはフッと笑顔を見せた。

「ふふ、そんな心配そうな顔すんな。OKだったよ。佐伯、休み明けに話してくれるって」

「良かったぁ〜……」


 深いため息混じりの声を上げ、海星はテーブルに項垂れる。

「でも、正直受けてくれるとは思わなかったな。会いに行ったとき、結構怯えた感じだったし」

 祐介はほぼ氷だけのジュースをストローで吸いながら話す。

 それに腕組みをすると、タケシはのしっとソファーにもたれる。

 

「そうだな……でも、あんな怯えるくらい、来栖にされたことがショックだったんだろ。とにかく、話してくれる気になってくれて良かったよ」

 落ち着いた声で話すタケシに、海星は静かに頷く。

 

「うん。佐伯本人からの話を聞けば、馬場もきっと宰斗の評価を考え直すだろう……あれだけ完璧に外面を取り繕ってるんだ。あの非情な人間性が周りに知れることは、宰斗にとって最大の屈辱になるはず」

 海星は握った拳に力を込め、獲物を狙うように鋭く目を細める。

 

「あぁ……けど、一応事情を把握したいし、話す前に本人から何があったのかは聞きたい。出来れば休み中に、佐伯含め4人で会おうと思うんだけど」

 タケシは体勢を直し、2人の顔を交互に見る。


「俺はいつでもいいぜ。正月も暇だしよ」

「俺も、3日までバイト休み。まぁバイト以外の時間なら、いつでも大丈夫だけど」

「OK。佐伯にも予定聞いて、またグループに連絡する」

 話がまとまり、3人は真剣な表情で頷く。

 海星は再びメニューに視線を戻し、適当に選んで注文を済ませる。

 祐介はその様子をじっと見つめ、ふと彼に声をかけた。


「ってかさ……何かお前、雰囲気違くね?」

「へ?」

 突然話題が変わり、海星は間抜けな声を返す。

「そういや妙だな。大人っぽいつーか、落ち着いてる感じ……確か、暁那さんとも仲直り出来たって言ってたし。ふふ……何かいいことあったん?」

 タケシはまるで探偵か何かのように、海星の反応を察しながら話をする。

 

「お、おまっ……わかってて楽しんでるだろ!」

「えっ、まさかお前……暁那さんに何かされっ」

 勝手な妄想を膨らませ、祐介は口に手を当ててワナワナと震え出す。

 

「違うよ! ってか俺がする方だし!」

「お、おいおい……」

 タケシの制止も虚しく、それから海星は自らどんどん墓穴を掘っていく。


「だいたい、あんな可愛いのに手出さない方がどうかしてるよ! つーか……こっちはアキが気にするから卒業まで我慢してるってのに! 俺が毎回どんな気持ちでキスで止まってると思ってんだよ!」


 ドンとテーブルに拳を下ろし、海星はやり切ったように息を切らしていた。 


「……き、気は済んだか?」

「何か、悪ぃな……」

 

 2人は遠い目をしながら、それぞれ別の方向を向く。

 そしてちょうどその時、タイミング良く注文の品が届いてしまった。


「お、お待たせしましたー……大盛りペペロンチーノです」

「せ、先輩!?」

「あはは、聞こえちゃった……相沢くんて、案外情熱的なのね」

 先輩はボソッと意味深な言葉を残し、にやにやと笑い去っていく。


 (……終わった)


「……ドンマイ」

 タケシにポンと肩を叩かれ、海星は白目を剥いたままユラユラと揺れていた。


 ◇


『……てことで、休み中に一度4人で話さないか? なるべく佐伯の都合に合わせるから』


『うん、わかった。今は祖母の家に帰ってるから、4日以降でもいいかな?』


『了解。海星がバイトしてるから、時間はたぶん昼頃なると思う』


『うん。私は何時でもいいよ』


『OK。また決まったら連絡する……ってか、佐伯もグループに入れてもいい?』


『わかった。いいよ』


『助かる。じゃあ、また』


 30日の夜。

 真美は炬燵の中に潜り、静かになったスマホを見つめる。

 炬燵の熱のせいか、その頬はほんのりと赤い。


「真美、まだ晩ごはん食べんの?」

「……もう少ししたら食べる」


 呼びに来た祖母は、背を向ける真美の顔を上から覗き込む。

「何やあんた、真っ赤な顔して……炬燵()にしとんやない」

 布団を捲ろうとする祖母から逃げるように、真美は強引に引っ張り布団にくるまった。

「そ、そんなんじゃないから」

 

 (馬鹿みたい……ちょっと、優しくされたからって。これじゃ、あの時と同じじゃない)


 タケシが自分を必要としているのは、あくまで友人のため。

 それがわかっていても、誰かに必要とされる事を、真美は心の底で嬉しく思っていた。


 ◇


「カイ! いらっしゃい」


 玄関を開けるなり、暁那は笑顔で海星の冷えた体を抱き締める。


「へへ、何か久しぶり」


 海星はしばらく暁那の温もりを堪能し、ゆっくりと体を離す。

 大晦日の夜。

 海咲は急な交替で夜勤に入ることになり、海星は暁那のアパートに泊まりに来たのだった。


「急にゴメンね。あ、お菓子とか色々、母さんが持ってけって」

「わぁ、ありがと」

 両手の塞がった海星の荷物を受け取り、暁那は柔らかい表情で笑う。

「急でも何でも、カイに会えて嬉しいよ……あ、中入って!」

 久しぶりの海星の姿につい見惚れてしまい、暁那は慌てて部屋へと誘う。


「ふふ、お邪魔します」


 3日ぶりの暁那の部屋。

 たったそれだけかもしれないが、海星は彼の匂いを感じながら、しみじみと部屋の中を見渡す。

 ワクワクと高鳴る胸の抑え、海星は荷物を下ろしいつもの場所に腰かけた。


「何か、部屋綺麗だね」

「うん。大晦日だし、大掃除してみた。実は……ここに来て初めてだけど」

 暁那は海星の隣にちょこんと座り、照れ臭そうに笑い頬を掻く。


「凄いじゃん! 俺なんて、まだ部屋ぐちゃぐちゃ」

「そうなんだ。てっきり、綺麗に片付いてるのかと思った」

「全然。へへ、アキの前でカッコつけてるだけだよ」

「ふふ、そっか……」  

 暁那は少し俯き、真っ赤な顔で微笑んでいた。


「そ、そうだ! 今日、母さんがお蕎麦持ってきてくれたんだ」

 突然思い出したように立ち上がり、暁那はキッチンへ向かう。

 海星もその後を追うよう、ゆっくりと立ち上がる。

 

「……わ、カップ麺じゃないやつ。生麺っぽいね。毎年、持ってきてくれるの?」

 暁那の背中にピタリとくっつき、海星はそこからひょいと顔を覗かせる。

「いつもはカップ麺なんだけど。その……今日は、カイが来るって言ってたから」

 口ごもりながら言うと、暁那は恥ずかしそうに頬を掻いた。


「そうなんだ……じゃあ、早速作ろっか」

「……うん!」


 暁那の楽しそうな笑顔を見ると、自分も嬉しい。

 けれど心の片隅で、どうしても今まで一人きりだったことを考えてしまう。

 それを思うと、海星は息苦しいほどの切なさを覚えた。


「アキ……」

「ん?」

「これから、いっぱい楽しいことしようね」


 流し台から鍋を取り出していた暁那に、海星は身を屈めて優しくキスをする。

 突然の事に暁那は驚き目を丸くするが、その唇の暖かな熱を感じ、幸せそうに目を細めた。


 唇が離れた後、暁那は柔らかな笑みを浮かべる。

「……うん。一緒に、幸せになろうね」


 躊躇うような恥ずかしい言葉も、彼の前では自然と口から溢れていく。

 どんな障害が出てこようと、今の気持ちをずっと大事にしたい。

 2人きりの、今年最後の夜。

 暁那の心は、そんな想いに溢れていた。

  

   

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ