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26話 明け空の綺羅星


『あんた、そのまま暁那くんのとこにいなさいよ』

「え、何言って」

『仲直り出来たんでしょ? 冬休みなんだし、ゆっくりしてきなさい。あ、もちろん暁那くんが良ければだけど』

「えぇ!?」

『あんたの風邪がうつったら、母さんも仕事行けないし。じゃ、頑張んなさいよー』


 自分の言いたいことだけ伝え、海咲は一方的に電話を切った。

 海星は全く頭が追い付かない様子で、ぎこちない笑顔を浮かべる。


「……帰ってくるなって言われた」

「えぇ!?」

 驚き固まっている暁那の姿に、海星はシュンと肩を落とす。


「ごめん……母さんが勝手言ってるだけだし。アキが迷惑なら、帰るから」

 そう言うと、海星は上目使いに暁那を見上げる。

「う……そんな目で見ないでぇ」

 わざと同情をかうような瞳に、暁那は顔ごと目を逸らす。

 しかし海星は諦めず、もう一押しとばかりに首を傾げ甘えた声を出した。

 

「……だめ?」 

「いや……ダメって訳じゃなくて」

 キラキラ輝く瞳を見ると、拒むことなど出来るはずもなく。

 暁那はうやむやに受け入れてしまった。

 

「ほんと!? やったー!」

「わっ、カイ!?」


 海星は嬉しさのあまり、押し倒しそうな勢いで暁那に抱きつく。

 倒れそうな体を腕で支えながら、暁那は僅かに不安を感じていた。


 (これから同じベッドで寝ることになるのかな……うぅ、またドキドキして寝れない)


 海星と一緒にいれることは当然嬉しい。

 しかし、昨日までとは違った睡眠問題が発生し、困惑する暁那だった。


 ◇


 12月26日 

 佐伯真美は悩んでいた。

 

 数日前に祐介とタケシが家に来てから、彼女は毎日同じことを考えている。

 この日も意味もなく机に向かい、祐介たちにもらったプリントを見つめ深いため息を漏らしていた。


「どうして……急にこんなことを」


 連絡事項の書かれたプリントの裏には、手書きのメモが添えてあった。

 

 〈来栖にされたこと、俺らと一緒に馬場に話してくれないか? 気が向いたら、チャットに連絡してくれ〉


 メッセージの終わりには、タケシの連絡先が書かれている。

 真美はプリントをくしゃりと握って机に置くと、ふらふらとベッドに入る。

 クッションを抱きしめるように体を丸め、目を瞑って現実から逃れる。


 (別に……何をされた訳じゃない。けど、あんなに優しかった来栖先生が、まるで別人のように、悪魔のように見えた)


「……怖かった。本当に」


 (今まで見ていたものが何だったのか……何が現実で、偽りなのかわからなくなって……何も信じられなくなった)


「もしかしたら、私だけが見た幻だったのかって、思うこともあった……でも」


 自分だけが体験したと思っていた宰斗の変貌。

 どうして同じクラスの祐介やタケシが、その事実を知っているのか。

 それが何故なのかわからないが、彼らも宰斗に疑いを持っている。それはこのメモと、あの時の言葉からも感じ取れた。


 ――――

「急に家に押し掛けて、困惑するのもわかる。けど、頼む……俺らのダチのためにも、本当の事を話してほしい」

「来栖の化けの皮、どうしても暴いてやりたいんだ。佐伯の事は、俺らが絶対守るからさ! だから、力を貸してくれ」


 あの時、2人はそう言うと、真美の返事も聞かずに帰っていった。

 ――――


 真美はふとスマホを手にし、真っ暗な画面を見つめる。

 一月以上休んでいても、誰からもメッセージは届かない。

 友人がいないのだから、当然と言えばそれまでだが。


「……わざわざ、家まで来てくれて。あんなこと、初めてだった」


 祐介たちの顔を思いだすと、不安な気持ちが揺らいでいく。

 けれどそれを邪魔するように、宰斗の嘲笑う声が頭に甦った。


 ――『あはは! 佐伯さん、ドラマかアニメの見すぎなんじゃない?』


 未だに体が震える恐怖に真美は耳を塞ぎ、また布団に潜り込む。


「私に……何が出来るって言うの?」


 分厚い心の殻は自分一人では破れそうにない。

 けれど祐介たちの言葉は、確実に彼女の殻に小さなひびを刻み込んでいた。 


 ◇


「ねぇアキ、ほんとにダメ?」

「む、無理だよ……ほら、狭いしさ」

「大丈夫だって。それにほら、昔一緒に入ったことあるじゃん」 

「それは、子供の頃の話でしょ? 今は状況が違うって言うか……と、とにかくダメだよ」


 2人の不毛なやり取りは、もう数十分続いている。

 お互いに全く引く気配もなく、それを馬鹿にするように、どこからか犬の遠吠えが聞こえた。


 しびれを切らした海星はようやく諦めたのか、不満げに頬を膨らませて立ち上がる。  

「はぁ……もういいよ。一人で入ってくるから」

「あ、カイ! 着替え忘れてる……」

 拗ねる海星を、暁那は着替えとバスタオルを手にオロオロと追いかける。

 なんやかんやと一緒に風呂に入る作戦は、今回は暁那の粘り勝ちとなった。


 ――数分後


「……あがったけど。この服ブカブカで歩きにくい」


 浴室から出てきた海星は頭にタオルを引っかけ、スウェットの裾をすりながら歩く。

 クローゼットに眠っていた新しいものだが、暁那よりも小柄な海星にはやはり大きすぎたようだ。 


「はは、だよね……」

 暁那は乾いた笑いを漏らしながら振り向き、その姿を見て固まる。

 細い体に不釣合な、ダボっとした服が妙に可愛らしい。

 赤い顔で俯いた暁那は、その姿をチラチラと盗み見る。

 

「ん? どうかした?」

「えっ……いや、別に」


 挙動不審な様子を不審に思い、海星は彼の顔を覗き込む。

 その圧に耐えられず、暁那は誤魔化すように海星の頭をタオルでワシワシと拭いた。


「わ、なんだよ急に!」

「まだ濡れてたから! ちゃんと拭かないと」

「もー、痛いって」


 2人きりの夜は案外騒がしく、ゆったりと時が流れる。

 ついこの前が嘘のように、暁那の表情は明るい。

 押し潰されそうな不安はどこへ行ったのか、今は海星の事で頭が一杯だった。


 (僕って、単純だな……カイがいるだけで、こんなに幸せだなんて)


 狭いベッドで海星と並び、暁那は天井を見上げてひとり微笑む。


「ふふ、何ひとりで笑ってるの?」

「……なんか、幸せだなって思って」

 暁那は暗い部屋の中、キラキラと目を輝かせていた。

 そんな彼の顔を嬉しそうに見つめ、海星は体をすり寄せる。 

 2人は息がかかりそうな距離で穏やかに見つめ合う。

 

「ねぇ、明日何する?」

「うーん……勉強、とか?」

「無し! そんなのつまんない!」

「えー、でも課題とか大丈夫なの?」

 痛いところを突かれ、海星は少しムキになった。

 

「と、とにかく! それはまた別の機会……そうだ! 買い物は? コンビニもいいけど、一緒にスーパー行ってみたい」

「だ、大丈夫かな……行ってみたい、気持ちはあるんだけど」

 海星と会わない間、暁那は外に出ていない。

 そのせいか、また少し外が怖くなってしまっていた。

 

「うーん……あ、じゃあ早朝に行ってみる? 近くのスーパー、24時間やってるし。たぶん、店員さん以外いないんじゃない?」

「早朝か……うん。それなら大丈夫、かも」

「やった! じゃあ決まりね!」

 少し悩んで返事をすると、海星は嬉しそうに目を細めて笑う。

 釣られて笑う暁那だったが、すっかり忘れていた彼の体調の事を思い出した。

 

「あ、でもカイ、体調大丈夫なの?」

「もう元気過ぎて困るって。それに、今日一日休んだから問題なし!」

 確かに今日は熱も出ず、今も元気が有り余っているのは明らかだ。

 暁那はホッとしたように笑うと、布団の中で海星の手を握る。

  

「ふふ、そっか……じゃあ、明日に備えて早く寝なきゃね」

「うん……おやすみ、アキ」

 海星は優しく囁き、暁那にそっと唇を合わせた。


「カイ……おやすみ」


 海星の唇は暖かく、心にじんわりと安らぎが広がっていく。

 2人は僅かに体を丸めると、向かい合って目を閉じる。 


 (今日は、眠れそうな気がする)


 暁那は布団に顔を埋め、海星の香りに包まれるように寝息をたて始めるのだった。


 ◇


 次の日。

 早朝のアラームで目覚めた2人は、眠い目を擦りながらアパートを出た。

 外の空気は眠気が一気に覚めるほどに冷たく、海星は暁那の手を握ると、自分の上着のポケットに突っ込む。


「ありがと」

 暁那は冷たい風に鼻を赤くし、柔らかく微笑む。

「へへ、ちょっとだけ暖かいでしょ?」

 照れたようにマフラーで口元を隠し、海星はくしゃっと目を細めていた。


 夜明け前の道は人通りは無く、時々どこからか車やバイクのエンジン音が聞こえてくる。

 まるで自分達しかいない錯覚に陥るほどの静けさ。

 そんな別世界のような空間で、暁那は恐怖よりも、海星と外を歩けることを嬉しく思っていた。

 

「……この時間、こんなに誰もいないんだね」

「そだね。まだ5時くらいだし、スーパーも誰もいなさそう」

「ふふ、だといいな……けど」


 暁那はふと空を見上げ、わざと白い息を吐く。


「今は、不思議と怖くない……家を出るときは緊張したけど、こうして2人で歩くだけで、気持ちが軽くなって」

「アキ……」

 名前を呼ぶと、暁那はピタリと足を止め、真剣な目で海星を見つめる。

 

「僕ね……もう、宰斗に負けたくない。絶対、引きこもりも直して、誰に何を言われても……カイと一緒にいたいから」


 それは今までにない強い言葉で、決意のこもる凛とした声だった。

 海星は目を潤ませて鼻をすすり、ポケットの中の繋いだ手に力を込める。


「……大丈夫。アキは、アイツなんかに絶対負けないよ」

「うん……ありがとう、カイ」

 海星の言葉はいつも心強く、暁那の心を勇気づけてくれた。

 

 海星は柔らかく微笑む暁那を見つめ、自分の思いを改めて強くする。

  

 (それに……これ以上、宰斗の思うようにはさせない)


 強い思いを秘めて暗い空を見上げると、ひとつの星が明るく輝いていた。

「あ……きれいな星」

「ん? ほんとだ! 金星かな……明けの明星ってやつだね」

 つられて空を見上げた暁那は、他の星座よりも一際明るく輝く星に目を見張る。


 細い糸のような三日月の傍で光る星は、必死に月を照らそうとするように存在感を放つ。

 暁那はそれに目を奪われ、しばらくしてポツリと呟いた。


「……海星みたい」


「え?」

 唐突な言葉に、海星はキョトンとした顔で暁那を見る。


「あ、ごめん……ちょっと、似てるなって」

「金星に、俺が?」

「……うん」

 暁那は恥ずかしそうに顔を伏せると、頬を赤くしてぽつぽつと話し始める。


「……いつもキラキラ輝いて、一緒にいると、自分まで明るくなれるような気がするんだ」

 話している間、暁那の手は汗ばむほどに熱を持っていく。

「だからカイには……いつも傍で、笑顔でいてほしい。それが僕の、力になるから」


 耳まで真っ赤に染めながら、暁那は自分の想いを口にする。

 海星は一瞬目を丸くすると、いたずらな表情でニヤリと微笑む。

 そしてポケットから手を出し、ぐいっと暁那の腕を引いた。


「え、ちょっと……」


 海星は暁那を路地裏に連れ込むと、首に腕を回して口づけをする。

「んっ……」

 口の中まで探るようなキスに、暁那は翻弄され、必死に背中にしがみつく。

 ようやく口が離れると、海星は満足げにペロリと唇を舐めた。


「ふふん……ほんとに、笑ってるだけでいい?」


 暁那は真っ赤な顔で目を見開き、声もなくわなわなと口を動かす。


「か……カイの馬鹿ぁ〜」


 笑いながら逃げる海星を、暁那は走って追いかける。

 こんなに体を動かすのはいつぶりだろう。

 頭の片隅でそんなことを考えつつ、暁那は夢中で海星の背中を追う。

 小刻みに白い息を吐き出し、あどけない笑顔を浮かべながら。

 

 ◇


 その日の夜。

 海星の元にメッセージが届いた。


『佐伯と話した。3学期の前に、作戦会議始めるぞ』


 

 

数ある中から読んで頂いて

本当にありがとうございますᐠ( ᐢ ᵕ ᐢ )ᐟ

リアクションや、一言でも感想を頂けると大喜びします(^◇^)


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