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「事情を、聞かせてはいただけませんでしょうか?」
持ってきた鎮痛剤の販売が許可出来ないとあって、
レーピオスは、驚きながらも、冷静に長に聞いた。
長は、難しそうな顔をして、眼を上に向けながら、
慎重に言葉を選ぶようにゆっくりと答えた。
「無論、そうじゃろうな。何も言わずに了承は
してくれんじゃろう......
しかし、ワシ一人でおいそれと話せるようなものではないのじゃ。
すまんが、時間をくれんかの。2日間。
最低でも2日はくれんか。
たのむ、この通りじゃ。」
長は浅く、しかし長く、そして深々と頭を下げた。
レーピオスは驚いた顔で、長に頭を上げるよう言い、
僕らはその場を後にすることとなった。
そして二日すぎ、約束どおり、説明をすると協会の使者から
知らせがあった。それは協会の重役を率い、会議と銘打って
行われるそうだ。
僕らは、協会に向かい、会議室に入った。
「「失礼します」」
部屋の中に入ると、数十個の眼がこちらを見ていた。
その眼の対、一つ一つの視線の圧から、彼らが一人もれなく、
協会の権威である事が感じ取れた。
彼らの前には大きな机が一つ。それを囲むように彼らは位置していた。
彼らの面持ちは神妙で、
今日、この場が尋常ではないほど重要なものであることが感じ取れた。
「ようこそ、レーピオス君に、テムシスさん。
我々の都合で、お時間をいただいてしまってすまない。」
長が、頭を深く下げながら言った。
そして、続けるように、数枚の紙を渡してきた。
テムシスとレーピオスはそれを受け取り、机の前に着いた。
それを確認するなり、長は厳正な口ぶりで言った。
「これより、レーピオス師と、テムシス師の作成した、
鎮痛剤について会議を行う。皆、心して参加されたし。」
部屋の中の全員が、より一層真剣な面持ちとなり、長の話を聞く。
「まず、この鎮痛剤だが、素晴らしい物だ。副作用は全くなく、
かかる材料も、これまでと比べ、とても安価に揃えられる。
そこについては、ここにいる全員にご理解いただきたい。」
長がそう言うと、静かに、淡々と拍手が起こった。
それが静まったとともに、続けて長は話す。
「だが、問題はその材料じゃ。
マンドラゴラとイグールの葉。これらの二つを組み合わせたものを
販売する事は、決して出来ない。
ここにいる皆は、その理由が良く分かるはずじゃ。
今日は、その理由について、この二人に説明する事の了承を得るため、
この会議を開いた。事前に皆の物に確認は取ったが、今一度聞く。
レーピオス氏、テムシス氏に、情報の開示を行っても良いと思うものは、
手を挙げてほしい。」
重役たちは顔を見合わせながら、手を挙げる。満場一致であった。
「皆の理解が得られたことを嬉しく思う。では、説明を行う。」
場が静まり返り、空白が生まれる。短く、しかし長く感じる空白。
ただならぬ雰囲気であった。その開示される情報というのが、
とても重要なものである事が感じ取れた。
「今回作られた、この鎮痛剤が販売出来ないのは......
神秘物と、普遍物質を組み合わせたものだからだ。
例えどのように素晴らしい結果が得られようと、
この二つを組み合わせる事は許可できん。
と言っても、君ら二人には何のことかさっぱりじゃろう。
神秘物とは、今回の件では、マンドラゴラに当たる。
普遍物質は、イグールの葉じゃ。」
そう言って、長は手に持っていた袋から
マンドラゴラのエキスの薬瓶と、イグールの葉を取り出し、机の上に置いた。
マンドラゴラの薬瓶を指さしながら続ける。
「神秘物、それは、物質に魔力反応が見られる物質じゃ。
人工的に魔力を与えられたものではなく、自然的にの。
その中でも、限られたものたちを言う。
その限られたものとは、神話伝承のものたちじゃ。
有名なものだと、アーサー王の剣、グングニール等。
マンドラゴラのような植物でいうと、
ドライアドなどがそうじゃな。」
次に、イグールの葉を指さした。
「普遍物質、それは魔力の込められてないものだ。
無論、神話にも出てこない。」
そう言い終わると、長は僕らに向き直り、真っすぐに、
厳正な目つきを向けた。
そして、一呼吸おいて、説明に戻る。
「さて、本題に戻ろうかの、鎮痛剤を販売出来ない理由、それは
神秘物と普遍物質を組み合わせる事、それがとても危険な行為だからじゃ。
だから、この薬を公開するわけにはいけん。
今回は何も起きなかった、だがもし、君等の真似をするものが出れば、
その時は何が起きるか分からん。
君等は、数年前の村人が立て続けに消失した事件は知ってるかの?」
レーピオスは、動揺しながら答えた。
「はい、ある村で突然何人も行方不明者が出て、
そして数日後、行方不明者たちの死体が、
色んな場所で発見されたという。
当時、神隠しなどと言われてましたが、まさか?」
長は、静かに目を瞑り、思い出すように答えた。
「そうじゃ、あの現象は、間違いなく
普遍物質と神秘物質を混ぜたものによるものだ。
あの村で、ある時万能薬として売られた薬がある。
それを飲んだ者たちが、その行方不明者じゃ。
その万能薬とは、薬草と、ウルズの泉の水を混ぜて作られたものじゃった。
ウルズの泉。時間を操る女神の泉。
その泉の水には、飲むと傷を癒す力がある。
ただ飲むだけなら、何の害も無いものじゃ。
しかし、ある時それに着目した医師が、
ウルズの泉の水と、薬草を調合した。
そうして出来た薬を飲んだ者達は、
一瞬であらゆる病気やケガが治ったそうじゃ。
しかし、数日後、その者達は苦しもがいて死んだ。
そして、その死体は姿を消し、あらゆる場所と時間に散らばった。
過去、現在、未来へと。
その薬の主は、ただこの事を協会のワシらに教え、
その他の者には一切何も喋ることなく、
ただ静かにこの世を去った。
それがあの事件の正体じゃ。
神秘物と普遍物質を混ぜると、何が起こるか分からない。
だから、ワシら協会は、この事実を
明るみには出さず、もしもまたそのような事を
するものが出た時、それを止める事を誓ったのじゃ。
神秘物と普遍物質で調合した薬。その情報がもし
世に出回れば、それを真似する人間が出るやもしれぬ。
その危険性は計り知れない。
だから、頼む、この通りじゃ。この薬についてはどうか
我らだけの、内密な話にしてはくれんかの。」
博士は、長々と、事の真相を語った。
そして、レーピオスは話を聞きつぶやいた。
「そうか、だからあの時、除魔力、除菌室で発光が起きたのか......」
そして、続けて、博士の話に承諾した。
「分かりました。この話は内密にしたいと思います。
それでいいか?テムシス、すまない。」
僕は、レーピオスに対してうなづいた。
それを確認したレーピオスは続ける。
「しかしです、口止め料はテムシスの言い値でお願いできませんか?」
声を大きく、高らかに発した。
うわあ......レーピオス?さすがに僕はこの面々の中で
立ってるだけで割とつらいのだけれど。
と思いながら、彼の発言に続けて、金額を発言する。
緊張しながらも、思い切って。
「180万で、どうでしょうか?」
3ヶ月分の給料二人分くらいだ。レーピオスはどうか
知らないけど、平均的な国民の給料の相場が、そのはずだ、多分。
そう言うと、目の前の長は唖然としていた。
マズい、高かったか?薬の開発って大体どれくらい
貰えるんだ?
そう焦っていると、長は言った。
「ふざけているのか?」
横を見ると、レーピオスも放心状態のような状態だった。
上の空を見上げ、意識が無いような顔をしていた。
あ、やらかした。さすがに180万は
もらいすぎだったかと思い、とりあえず謝った。
「それで、いくらかね?500万か?1000万か?悪いが、億は出せない。」
どうやら逆だったらしい。薬学研究ってそんなにもらえるのか......
そりゃレーピオスも壊れるわけだ、すまない、レーピオス。
「せ、千万で、お願いしますっ」
「分かった。本当にすまない、もし販売出来ていたら
もっと稼げていただろうに。
二人それぞれに千万振り込もう。」
千万......販売してたらもっと......
僕はその膨大な額に愕然としていたが、
ひとまず、まさかの大金を得て、その場を早々と後にするのだった。




