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「ごめんください。
レーピオスです、急にすみません。」
マンドラゴラとイグールの葉で、鎮痛剤と思わしきものを完成させた
レーピオスと僕は、とある薬屋を訪れた。
その薬屋は、街の中心部に位置する。
隣には、街最大規模の病院があり、どちらもやはり、
街一番の評判である。
レーピオスは薬学研究の傍ら、この薬屋から
薬の調剤を請け負い、それを収める事を副業としている。
薬屋の中に入ると、すぐさま、受付に居た
若い女の人が奥へと人を呼びに行った。
少し待つと、少々体格の良い中年のおじさんが出迎えた。
「どうも、レーピオスさん。
どうかしましたかな?今日は薬の納品予定はないはずだが。
まさか、レーピオスさんともあろうものが体調を崩しましたかな?」
「はは......どうも。体調は、良好です。おかげさまで。」
中年のおじさんは店主であった。
レーピオスは軽く苦笑いをし、続けて、首を振りながら答えた。
そして、苦笑いから、真剣な表情になる。すると、店主の顔も引き締まった。
「急で申し訳ないのですが、ある薬を視ていただきたくて。
私と、私の後ろにいる彼の共同で考えたもので、
上手く調合出来ていれば、鎮痛剤として機能するかと思います。」
「失礼、拝見させてもらうよ。少々待ってもらってもいいかね?」
レーピオスと僕は、軽くうなずいた。
店主は引き締めた顔から、更に真剣な面持ちとなり
一端の薬屋の店主らしい厳格な雰囲気へと変貌した。
そして、例の薬を手にして、調合室らしき部屋へと向かって行った。
待っている間、レーピオスは数分おきに、僕に謝罪してきた。
薬を共同で考えたものとして、申し出たことに対してだった。
「思いついたのは君なのに、すまない」と。
しかし僕は、レーピオスの部屋を訪ねた時点で、
こうなる事は予想していた。
どの道、許可の無い僕が、ひとりで研究して発表したとして
許可のない薬剤の所持として、捕まりかねない。
だから、むしろ共同だと言ってもらえて、ありがたい。
自分が作ったという事にならないケースも想定していたくらいだ。
全くもって、このレーピオスという人間は、律儀である。
10分と少しが経った頃だろうか、店主が戻ってきた。
彼はものすごい剣幕でこちらへと向かってくる。そして
顔を近づけ、小声でゆっくりと、しかし慌てるように、こう言った。
「今すぐこれを、薬学協会に持ち込むんだ。
馬車の予約を取りなさい。」
「と、すると?」
レーピオスは薬の効能について確認する。
「ああ、成功だ。まさかアレらの素材から、あそこまでの
効果を持つ薬を作るとは......」
店主は、続けて小声で答えてくれた。そして、
他の物に嗅ぎ付けられる前に急いで研究者として名乗り出るよう
念を押して言ってきた。
レーピオスと僕は、言われた通り薬屋を出て、
協会にこの薬を持ち込むことにした。
馬車の予約を取った。出発は、明日の朝一番の便。
6時である。
店を出ると、外は軽く茜色に染まっていた。
今日は、2人とも早めに家に帰り、就寝することにした。
レーピオスから軽く飲まないかと誘われたが、それは明日、
薬が認められた時の、祝賀会として取っておこうという僕の意見で
落ち着くこととなった。
午前4時、眼が覚め、重たい眼をこする。
結局昨日はスキルを得たことと、新薬の完成の興奮で、
あまり寝られなかった。
時たま、家にあるものに触れては、物の情報を『表示』して
ロクに中身は視ずに布団へと戻る。
そして軽い眠りについたのち、また目が覚める。
こんな状態が続いたまま朝を迎えた。
重たい身体を起こし、洗面台に行き、歯を磨き、髪に櫛を通す。
服を着て、身なりを整え、恥ずかしくない恰好かどうか、
何度も鏡を見て、確認した。
時刻5時過ぎ頃、少し早いが家を出て、レーピオスの家へと向かった。
彼は、学生時代から、忘れっぽいから、薬をしっかり持ってくるかの
確認をしようと思った。
家に着くころ、ちょうどレーピオスが出てきたので、
カバンに薬が入っているか確認すると、案の定忘れていた。
確認しといて良かったという気持ちと、呆れで
寝不足のつかれがどっと押し寄せてきたが、何とか耐える。
レーピオスの家のドアを開き、栄養剤を持ってくるよう頼み、彼が
家から出てくるなり、それを受け取って、一気に飲み干した。
レーピオス特製の栄養剤だったようで、とても良く効く。
お代は、忘れ物のお詫びとしてチャラになった。
眠気が徐々に冷めていく感覚とともに、馬車へと二人で向かった。
ほぼ、6時ピッタリに馬車乗り場に付き、そこから3時間ほどの時間を掛けて、
協会へと到着した。久々に乗る馬車の乗り心地は最悪で、
出発前に栄養剤を飲んでおいてよかったと強く思った。
飲んでなかったら、今頃気絶していたかもしれない。
馬車を下り、レーピオスの後ろをついていく、
協会はとても大きく、豪華絢爛な作りをしていた。
流石首都と言ったところである。
レーピオスは、何度か来た事があるようで、
そんな協会の存在感に圧倒されることなく、
落ち着いた足取りで正門前まで進み、門番に声を掛けた。
身分証を見せると、門番は軽くお辞儀をして、
そのままレーピオスを通した。
続いて僕も入ろうとすると、門番に止められた。
が、レーピオスが、彼は自分の関係者で、
今日の要件には彼が必要だと言うと、すんなりと道を開けた。
流石は、この国有数の薬学者と評されるレーピオスだ。
来客用の大きな木製の門を通り抜けると、
目のまえに、大きなカウンターがあった。
そこでは、協会内の書類のやり取りがされていた。
裏手の関係者用入口から来る郵便物を受け取ったり、
協会内の人間から書類を受け取り、整理し、そしてまた
協会内の人間に渡す。
基本的に、来客用ではなく関係者用のカウンターとして
機能しているようだった。カウンターの奥には、
いくつものデスクが並び、その間を人が縦横無尽に駆け回っている。
噂には聞いていたが、国家の下で働く人間というのは、
かなり忙しいようだ。
こんな状況の中、割って入るのは少し勇気がいるな、などと
思っていると、そんな様子は梅雨知らずといったように、レーピオスは
カウンターに進み、話しかけた。
「レーピオスと言います。新薬の認定の件で来ました。」
それだけ言うと、受付員は、
「少々お待ちください」と言って
奥手の人込みの中に消えていった。
1分も待たないうちに、受付員が戻ってくる。
「連絡いたしましたので、カウンター横の椅子でお待ちください」
との事だった。流石、連絡対応も早い。1分1秒が命といった様相だ。
数分待つと、レーピオスの前には軽い人だかりができた。
研究者風の人間が数人に、警備が2人。
警備についたのは、国内でも名高い騎士であった。
何度か顔を見たことがある。
薬の強奪や、改変を避けるため、警備しているとの事だ。
「薬を、もらえますかな?」
集団の中心にいた、初老の男が一歩出て、レーピオスから
薬を受け取った。
すると集団は、ぞろぞろと動き出す。
僕らもその後を続く。デスク脇の通路に入って、長い廊下を歩く。
やがて、頑丈な鋼製の扉に行き当たった。
実験室である。扉前にあった防護服を着せられ、中に入る。
すると、菌や、魔力を取り除く部屋があった。
名を除菌、除魔力室という。
菌を取り除くのを除菌。
魔力を取り除くのを、除魔力。というので、
そのままである。
そこで除菌、除魔力を済ませ、さらに奥に行くと、ガラス張りの部屋に
行き当たる。僕らはここで実験を見る事が出来るそうだ。
そして、肝心の実験は、この部屋を出た先をさらに
数メートル進んだ先に見える、鋼製の扉の先で行われるとの事。
そして、その間の空間には、更に除菌、除魔力室があった。
より強力な除菌、除魔力を行うそうだ。
僕らは、ガラス張りの部屋から、彼らの実験場への入室を見届けた。
除菌、除魔力室で、一瞬光が点滅した。
照明の故障だろうか?彼らは、数秒間周りを見回したのち、
何もなかったかのように実験場に入った。
実験場に入るやいなや、薬を受け取った初老の男が、なにやら呪文を唱え、
薬を薬瓶から取り出した。すると、薬の液体が塊となって、宙へと浮かぶ。
そしてその薬の塊をいくつかに、分離させた。
その一つずつに、呪文を掛けていく。
僕が、不思議そうな顔をしていると、横にいたレーピオスが
説明をしてくれた。
「あれは、対照実験を即時に行うための荒業だよ。
呪文で薬をいくつかに分けて、それぞれに、色んな
検査をする呪文を掛けるんだ。
そして、物体の時間を進める呪文で薬の状態変化を早くする。
ものの数分で実験が終わるって寸法だよ。
すごいな、話には聞いていたが、僕も見るのは初めてだ。」
レーピオスが、やや興奮気味に話す。説明が終わっても、様々な
うんちくを語っていた気がするが、良く覚えていない。
頭が痛くなりそうだから、真面目に聞かないようにしていた。
そうやって話を聴き流しているうちに、実験は終わった。
実験を終わらせた初老の男は、除菌と除魔力を済ませ、
こちらに戻ってくる。その面持ちは、なにやら神妙である。
そして、次には驚愕の言葉を言い放つのであった。
「実験は、成功だ。成功だ......だが、
この薬は悪いが世にはだせん。口止め料は無論払う。
だから、無かったことにしてくれんかの?」
どうやら、ややこしい事になりそうだ。
作業のお供であるスマホが壊れたり、私生活に
変化があり、忙しくなった10月。
一話も書けませんでした。(言い訳)
心機一転、11月から頑張りたい。
新品となったスマホを傍らに
取り急ぎ今日出来た2話を載せます。
後日修正、加筆する可能性大。




