1話 <load>
スキルを獲得しました。
<摂理>プロヴィデンス
概要:この世界への干渉
「なんだ?これ」
突如出現したスキルに、思わず声が出る。
スキルは、通常習得、取得に訓練を要する。
何時間も、ものによっては、数日から数か月、
ましてや生涯をかけ、習得に励む者さえいる。
そんな中、僕はスキルを急に取得してしまった。
考え事をしていたら急にスキルを取得したという話など、
初耳である。
僕はその場に立ち尽くし、呆然としていた。
しかし、それと同時に好奇心と希望が生まれた。
この22年間、ロクな事がなかった。
ステータスは最悪、スキルのひとつもない。
平凡で、みじめな生涯。
しかし、ふと手に入ったスキル。もしかすると
今日でその人生は終わるかもしれない。
そんな期待を膨らませ、僕はスキル詳細に目を通した。
スキル
<摂理>プロヴィデンス
概要:この世界への干渉
詳細:1.<位置情報変更>
2.<各種生体パラメータ値変更>
3.<自己能力変更>
4.なし
5.なし
Ex:各スキル利用時には、
変更情報に相当する「代償or対価」が
必要となる。
Etc:スキル利用者次第
記載されているスキルどれもが、
見たことのないようなものばかりだった。
スキルは基本、大枠となるスキル名。
そしてそれに付随していくつかの
発動可能スキルがつくものだ。
たとえば、<水操作能力>ウォーターマニピュレータというスキルがあるが、
それを取得した場合に付随するスキルは、
1つめは、水を発生させる<水発生>
2つめに、水を自在に操れる<水操作>
3つめに、水の温度を調整する<水状態変化>
などのような形だ。
先ほどのステータスボード上の表記でいうならこんな所だろうか。
スキル
<水操作>ウォーターマニピュレータ
概要:水の操作
詳細:1.<水発生> (自ら、水を自由に生成し、消去できる)
2.<水操作> (周囲の水、または自ら生み出した水を
自由に動かすことが出来る。)
3.<水状態変化> (水の温度を自由に変化することが出来る)
このように、現在取得可能なスキルや、
それに付随するスキルは
基本調べつくされ、大半は予測可能となっているのが現状だ。
しかし、僕のスキル名は、全く聞いたことがなく、
また付随するスキルに関しても
現在確認済みのスキルと同じ名前のものはない。
しかも、スキルは通常説明分がつくはずだが、
ステータスボードを見る限り、そのようなものはない。
そして、4と5がなしというのはどういう意味なのだろう。
Etc:のスキル利用者次第も意味不明だ。
そもそもスキルにEtc:などという記載を見たことがない。
「代償or対価」も物騒な響きだ。
もしかするとこれは、とてつもなく危険なスキルなのではないだろうか。
しかし、それと同時に強力なものであると、
僕の直感がそう強く、うったえかけている。
どうしようもないほどに。
僕はここで、これまでの人生を見返した。
これまで、良かった事と言えるほどの出来事は何もない。
スキルは何一つ取得できず、誰でも出来るような
平凡な仕事をこなす日々。
きっと、その日々は抗いようもなく続いていくのだ。
そして、おそらくここまま何の功績も
残す事なく、ロクな事のないまま終わっていくのだろう。
しかし、目の前にそれを変えるかもしれない、テコが現れた。
これに乗らない手はない。
変化のない無気力な人生は生きているとは言えない。
そんなものは、惰性で動いているだけ、
すでに停止しているのに動いているように見えているだけだ。
「ならば、使うしかない」
決断は、思いのほかあっさりとしていた。
このまま生きていても何も良いことなどない。
なんの変化もない人生など、死と何が違うだろう。
そして、死んでしまうのなら、
世界がどうなろうと僕に関係のない事だ。
ならば、危険を顧みず、前に進むのみ。
そう思い、僕はスキルの一つ目、位置情報変更を
発動させた。