Prologue <Start>
青く広がる空。わずかに点在する雲を通り抜けるように
太陽の日が降り注いでいた。
地上では風が吹き、膝上まで生えている草原を撫でた。
『さーっ』と草が音を立てる。
僕は、その草原に腰を下ろし、寝転がった。
仰向けになり空を眺めていると、
やがてまぶしくなって、片手を日よけにするように、
顔の上に重ねる。
その手のひらのすき間、指と指の間から
青空を優雅に飛ぶ鳥たちの姿が見えた。
ふと思考にふけった。
彼ら、鳥たちは生まれ持った翼をはためかせて
僕ら人間には容易に到達出来ない空を
悠然と飛び回る。
いうなれば空は彼ら、鳥たちの空間だ。
しかし、空ではどんなに自由に振る舞う彼らでも、
やがては地へと降りることになる。
そして、地での動きは空とでは比べ物にならない程、無防備だ。
まるで空を飛ぶことの代償に地上を捨てたかのように。
だが一方で空でも地上でも優れた能力を誇る生き物もいる。
ドラゴンだ。巨大な体躯を持ち、背中からはその体に負けず劣らずの
翼を持ち、鳥と同様に空を飛ぶ。
しかし彼らにも欠点はある。その大きな図体だ。
大きいがゆえに、発見されやすい。
ドラゴンを眼にするなり、大半の生き物は逃げ、補食から逃れる。
また、一方で群れを持つ生き物は、ドラゴンを獲物にすることもある。
ある意味では、ドラゴンは大きさという点を犠牲にして
空と地上を得たとも言えるだろう。
このように、生き物というものは、何かの強みがあれば、
それと同時にまた、弱い点も兼ね備えているものだ。
それは僕たち人間も例外ではない。
人間は、空を飛ぶことも出来なければ、他の似た種族
例えば、オークに比べれば力だって弱い。
しかし、優秀な頭脳を持っている。
それは武器や防具を作ったり、他の人間と協力し、
他生物とは比べ物にならない程、正確な
コミュニケーションを取ったり出来るものだ。
とても強い力だと、僕は思う。
肉体的な力や空を飛べる能力、その他様々な事を犠牲に得たものが
その頭脳であるならば、それを使わない人間というのは、
もっとも愚かな生き物で、度し難い愚鈍と言えよう。
そこで僕は、一つの疑問に辿り着く。
地を捨てた鳥は空を得た。
大きさを犠牲に、ドラゴンは力を得た。
そして、様々なものを犠牲に、
人間は優秀な頭脳を手に入れた。
では、鳥が地も空も捨てたら?
大きいままのその図体で、ドラゴンが力を捨てたら?
人間が、その優秀な頭脳すら捨てたら?
その果てに、各々は一体何を手に入れるのだろう?
その刹那、僕の目の前にふとステータス表が浮かび上がり、
これまで、まっさらだったスキル欄に一つのスキルが表示された。
スキル <摂理> プロヴィデンス




