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友達の証明

掲載日:2025/08/05

わたしはこの世で一番脆い言葉を知っている。机の中に眠る磁石でくっつくキーホルダー、ちゃちいブレスレット、願いに応じた色を割り振られたストラップ、途中までしか埋まっていない交換ノートがその正しさを証明し続けている。


 一年も経たずお役御免になると分かりながら、今日も筆箱になかよしの証を付けて学校生活を送るのだった。





「深月ちゃん、なんでストラップ外しちゃったの!?」


 わたしがびっしりと汗をかきながらようやく教室に到着すると、結花ちゃんが顔を真っ赤にして涼しい顔の深月ちゃんに高い声で怒っているようだった。そんなに声を荒げることのない結花ちゃんがこんなに声を張り上げるなんて、きっと何かあったに違いない。


 急いでランドセルをおろして、中身を片付けるのもほどほどに二人のもとへ急いだ。ちょっと幼いところのある結花ちゃんともうすっかり中学生みたいな深月ちゃんは、結花ちゃんが深月ちゃんに突っかかるような形でときどき衝突する。


 


「結花ちゃん、どうしたの?」


「あおいちゃん聞いて!深月ちゃんがね、お揃いのストラップ筆箱から外しちゃったの。ほら見て!」


 待ってましたと言わんばかりに赤らめた顔のまま、結花ちゃんは深月ちゃんの筆箱を指さした。昨日までと違うぴかぴかの筆箱は、わたしたちが使っているようなキラキラとしたキャラクターのものとは違い、無地で透けていて中が見えて大人っぽい。たしかにここからお揃いのカラフルできらきらとしたストラップを外したくなる深月ちゃんの気持ちはとてもわかる。




「わ、新しい筆箱かわいいね。付け替え忘れちゃったの?」


 しかしそんなことを結花ちゃんの前で言う訳にもいかない。この二人がいい感じに回っているのは、このクラスに去年から仲の良かった子がいなかった上にわたしの抜けたところがいい感じに二人を繋いでいるからだ。




「ううん。前のにつけたままだよ。」


「じゃあわたしたちのこと嫌いなの!?」


  食い気味に高い声を被せる結花ちゃんは興奮しているみたいで聞く耳を持つか分からない。どうしたらやり過ごせるか、暑さでぼんやりとした頭は中々回ってくれない。




「そんなことないよ。でも今の筆箱にはあわなくて。ちょっと飽きちゃったし。」


 しれっと結花ちゃんの精神を逆なでするようなことを言う深月ちゃんをたぶんわたしは凄い目で見ていた。ここに鏡がなくて本当に助かったと思う。




「かわいいねって……ずっとつけてようねって言って買ったのに!!」


 嘘つき!と叫んで駆け出した結花ちゃんの行先はおそらくトイレだろう。目はうるうるとしていて、大きな目からいつ涙が零れるかわからなかった。こうなるとわたしは結花ちゃんを慰めて、深月ちゃんをそれとなく誘導しなければならない。一人にならないためにするにしては考えなければいけないことがわたしにはあんまりにも多かった。




 途中で終わっているランドセルの片づけをして、結花ちゃんを迎えに行こうと思うとすると、深月ちゃんが小さくため息をついた。どうしたの?とも聞く前から彼女はわたしを見上げて手を握ってくる。


「こうなるとは思ってなくて、ごめんね。結花ちゃんがあんなに怒るなんて…。」


「仕方ないよ、深月ちゃんの新しい筆箱かわいいもん。ちょっと子供っぽいもんね。」


「あおいちゃんもそう思ってたの?私もそう思ってたの。」


 そんなつもりはなかったのに、深月ちゃんは続々と結花ちゃんの悪口を並べ立てた。わたしが取り持ってうまくやってた、なんて自信家すぎたらしい。先生か結花ちゃんが来るんじゃないか、ってひやひやしてたけどそんなことは起きず、鬱憤を吐きだしきったらすっきりとした顔で


「私、あおいちゃんとはずっと友達だからね。」


 と締めくくった。もちろん結花ちゃんのもとに行くほどの時間は残されてなくて、チャイムが鳴るギリギリに目を赤くした結花ちゃんは教室に戻ってきた。




 


 中休みになってどうするんだろうと思っていたら、わたしの元へ深月ちゃんが来た。結花ちゃんに取られたくないからなのかな、なんて考えるのはやっぱり自信家すぎる。


 明日お手紙でも書いて来るまでは話に来ないかと思ってたけれど、五分もしない内にトランプをしていたところにいつもの笑顔でやってきた。


「さっきはごめんね、深月ちゃん。」


「ううん、何も言わずに外すのは悪かったよね。私もごめんね。」


 すんなり仲直りしてくれて助かった、と思ったら結花ちゃんは何やら図書館から持って来たらしい家庭科の本を取り出した。


 


「だったら今度はお揃いのミサンガ編もうよ。それで足首につけるの!それならいいでしょ?」


 目をキラキラさせて聞く結花ちゃんは楽しそうで、どういえば傷つけずに深月ちゃんの気分を害さずに済むのだろうか。




「私やらない。お揃いお揃いってばかみたいだもん。子供っぽくて。ね、あおいちゃん?」


 一番話を振られたくないタイミングで名前を出されて腕を組まれる。何と言っても片方と中が悪くなるのは避けられない。だったらどっちを取るだろうか。どちらにしたってわたしの引き出しのコレクションは増える。『友達の証明』の。




 一瞬考えて、わたしは口を開いた。

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