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最終話:ヒーローだった日



戦いは、終わった。


空を裂いた閃光も、崩れた世界の断片も、いまはもう、どこにもない。


ただ静かに、春の風が吹いていた。



---



「……変だよね。あんなに、必死だったのにさ」


放課後の教室。窓辺で頬杖をつきながら、ひよりがぽつりとつぶやく。


「なにが?」


「いま、“普通”って呼ばれてるこの時間が、ちょっと落ち着かないんだ」


レナは教壇の前に立ち(ひよりの学校の非常勤教師)、自分の手首を見つめる。そこにはもう、あのブレスレットはなかった。


> “感情の力”で変身し、戦っていたあの頃。




> それが、終わった。





---



「ねえ、あれって本当に“終わった”んだよね?」


ひよりの問いに、レナはうなずく。


「うん。もう、どこを探しても“変身”できる感覚はないし。パンドラも、眠ったんだと思う」


「でも……わたし、たまに夢を見るの」


「夢?」


「パンドラが笑ってるの。“あなたたちは、私の選ばなかったもの”って」


その笑顔が、なぜかとても、悲しげで、やさしい。



---



ある日、風がふたりの前を通りすぎた。


街角、誰もいない歩道橋の上。夕焼けが地平線を染めている。


「ねえレナ。わたしたち、本当にヒーローだったのかな」


「さあ。そんなたいそうなもんじゃないよ。ただ――」


レナは立ち止まり、風に髪をなびかせる。


「わたしたちは、あのとき、“守りたい”って思った。その気持ちだけは、本物だったでしょ」


「……うん」



---



ふたりの手のひらに、ふと、小さな光が舞い降りる。


淡いブルーとレッドの粒。それはかつてのブレスレットの残響か、あるいは誰かの“想い”の欠片か。


「変身の力は、もうない。でも――」


「でも?」


「“選ぶこと”だけは、まだ残ってる。日常で、誰かのために動くこと。それがヒーローだったって思えるなら……」


「今だって、ヒーローだよね」


ふたりは顔を見合わせ、笑った。



---



そして彼女たちは歩き出す。


制服姿で、何も起きないはずの明日へ。


だがその足取りは、確かに“かつて戦った者”のものだった。



---


> 世界を救ったふたりの少女は、いま、 ごく普通の午後を生きている。




> ブレス・リンク――それは、もう使われることのない名前。




> けれど“選んだ感情”だけは、彼女たちの胸に、静かに灯っている。





---


〔終〕



---


次回予告は、もうありません。

でももし、どこかの誰かがまた“何かを選ぼうとする”とき――

その背中をそっと押す記憶として、この物語はきっと息づいているでしょう



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