第5話:始まりの終わり、そして
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「あなたたちは、まだ知らない。“変身”が意味する本当のことを――」
パンドラの言葉と同時に、世界が歪む。
宙に浮かぶ異空間が口を開き、“記憶”が流れ出した。
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◇
そこは研究所。
白衣の科学者たちが並ぶなか、ひとりの少女が横たわっていた。
銀髪の彼女――パンドラは、最初の「変身実験体」として選ばれた存在だった。
> 「感情を分離すれば、人は“純粋な正義”になれる」
「いや、“完全な悪”の方がコントロールしやすいはずだ」
そんな狂った理論のもと、彼女の心はふたつに裂かれた。
片方が「正義の原型」となり、もう片方が「悪の触媒」となった。
そして、それぞれの感情は“ブレスレット”として抽出され、
時を経て――ひよりとレナのもとに届いたのだった。
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「つまり、私たちは……あなたの“感情の分身”……?」
エクリプス・フェザーの中で、ひよりとレナが声を重ねる。
「ええ。正義を選んだのがあの子、悪を選んだのがあなた。そして私は……何も選べなかった」
パンドラの目が、ほんの少しだけ、哀しみに滲んだ。
「でもね。選べなかった私が、いちばん恐ろしい存在だと、気づいたの」
その言葉とともに、パンドラの身体が変貌を始める。
仮面が砕け、銀髪が燃えるように揺れ、全身が黒と白に分裂したような不安定な存在となる。
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> 《最終形態:ノー・コード・パンドラ》
《属性:混沌/再構成/拒絶》
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戦いが始まった。
正義と悪の力が混ざった“エクリプス・フェザー”と、全てを否定する“パンドラ”の激突。
光と闇が衝突するたび、空が裂け、地が震える。
「感情に支配された存在に、未来はない!」
「それでも私たちは――感情で、守りたいと思ったんだ!」
ふたりの叫びが響く。
エネルギーの渦が、空間を包み、やがて閃光となって――
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◆
――戦いは、終わった。
空は晴れ、裂け目は閉じられていた。
パンドラの姿はもう、なかった。
ただ、風の中に微かな声が残る。
「ありがとう……これで、ようやく眠れる……」
ひよりとレナは、静かに空を見上げた。
ふたりのブレスレットが、カチリと音を立てて、静かに外れる。
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▶ 最終話予告:「ヒーローだった日」
ふたりが選ぶ、“変身しない日常”とは。
世界は守られた。そして新たな問いが残る――
悪とは? 正義とは? 変身とは、何のために?