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ツンデレ爺さん

 数時間ほどたつと、麻酔も抜けてきてようやく通常の感覚が戻ってきた。


 先ほどまでは肺が完全に死んでいたため、いつ死んでもおかしくない状況だったが、こうして肺をインプラントを置き換えた今、もはや峠は過ぎ去った。

 それにインプラントを移植したことによる拒絶反応も見られないため、もう大丈夫だろう。


 それに肺をインプラントに変えたため、むしろ体が軽い。

 俺は手術台からぴょんと飛び降りた。

 そして腕をくいくいと動かす。

 うん、体に異常はない。

 

 そんな俺を見て、ドクターは言った。


「おい、もうちっと休んでいた方がいいぞ。どれだけインプラントが体になじんでいようとも、手術直後はあんまり動かない方がいい」


「心配ありがとう、だが俺は大丈夫だ」


「ダイジョブじゃねえから言ってるんだ」


「いーや、大丈夫だ。俺はそんな軟じゃない」 


「はあ、ったく、なんなんだこのガキ。俺はそんな軟じゃねえって……。というかそもそも女の身なりしててなんで一人称が”俺”なんだよ。もっと”ワタクシ”とかの方がいいだろ」


 むう、確かに傍から見ると今の俺は美少女なのか。

 てことは前世で散々慣れ親しんでいた”俺”という一人称は似つかわしくないのか。

 まあ、確かにそうだな。

 

 でもなあ、今更”私”なんて性に合わないんだよな。

 それに一人称なんてさほど重要じゃない。

 だから変えるつもりはない。

 てか、いい年したおっさんが一人称”ワタクシ”なんて反吐がでる、ヴォエ!


「一人称が”俺”、で悪かったな」


「はっ、自覚があるなら治した方がいいぜ」


「そうだな、ドクターに治してもらえることを期待する」


 すると、ドクターは神妙な面持ちになった。

 ん?

 何かしただろうか、俺。


「なあ、さっきから気になっていたんだが……何なんだお前は。いきなりズタボロで現れたかと思ったら、150万はする電槌社の正規品を持ってきて、インプラントをくれなんて言ってくるし。それに妙に喋り方もマセている。

 挙句に金が足りないからインプラントを自分で取り付けたと……一体何なんだよ、お前は。流石にそこいらの孤児だとか、一般人だとかじゃ説明付かねえぞ?

 あるとすれば暴漢に襲撃されたお貴族様、って線しか思いつかねえ」


 うーん、それは俺も思ってるんだよね。

 俺って何者なのだろうか?

 いきなりダンジョン内で意識が目覚めたから、俺自身この体の主が何をしていた人物なのか分からない。 


 周りに死体が散乱していた様子からパーティーを組んでいたことは察せる。

 そして、そのパーティーメンバーはほとんどこんな感じの外套を纏っていた。

 たぶんだが体の中にはもっと高価なインプラントを仕込んでいたと思う。

 恐らくだが中々の実力者だったと思う。

 だいたいA級レベルくらいだったのではいだろうか?


 そして、この体は生身の肉であった。

 通常冒険者としてダンジョンに潜るならそれはあり得ない。

 必ず何らかのインプラントを体につけるハズだ。


 てことはパーティーメンバーはこの体の元の持ち主を守っていたという事だろうか?


 となると、やはりこの体の元の持ち主はお貴族様の娘だとかなのだろうか。

 うーん、でもなあ、何のためにお貴族様がダンジョン内に潜っていたんだ?

 金があるなら危険を冒してまでダンジョン内に潜る必要はない。

 

 うーん、考えてみたけどますます分からなくなってきた。

 本当に俺は何者なのだろうか?

 好きに生きるって決めたから、別に特段知りたいとは思わないけど……。

 まあ、そのうちなんかの偶然で分かるときがくるだろ。

 今は考えてもしょうがない。


「それは俺も知らん。俺も自分が何者なのか分からないんだ」


「……ったく、厄ネタじゃねえか」


「確かにそうだな」


 そして、ドクターはしっしつ、と俺を手で追い払った。


「お前からは嫌なにおいがする。ぼろぼろのお貴族様で、記憶もないと来たら厄ネタでしかねえ。俺も年だ、抗争なんかに巻き込まれちゃたまんねえからな。

 お前には申し訳ないが、安静にしなくていいって言ったのはお前だ。さっさと目の前から失せてもらいたい」


 うーむ、まあ、傍から見たら俺は厄ネタの塊みたいなものだろう。

 ボロボロの状態で現れ、明らかに高価な外套を持ってきて、さらに記憶もないと来たらそれはもう、そういう事だ。

 襲撃されたくないからさっさと失せろというのは当然の事だろう。


 でもなあ……俺は今一文無しなんだ。

 それに何気にさっき外套を脱いだせいで全裸なんだよね。

 このまま外に出れば……うん、そういう事だ。


 例え何の問題もなかったとしても、金を持ち合わせてないため今夜寝泊まりする場所もない。


 野宿なら前世で散々やって来たから慣れてはいる。

 でも、固い地面は嫌だ。

 ふかふかのベットで寝たい。

 当たり前である。

 ふかふかのベッドで寝たいというのは全人類の欲望なのだ。

 人は三大欲求からは逃れられないのである。

 

 だから、このまま引き下がるわけにはいかないんだよね。

 と言う訳で俺は、食い下がることにした。


「なあ、ドクター。俺は今一文無しなんだ。それに服もない」


「……」


「ねえねえ、ドクター、俺たちの仲じゃないか、それくらいサービスしてくれてもいいだろ?」


 出来るだけ可愛らしい仕草でねだった。

 今の俺は曲がりなりにも美少女なんだ。

 男なら少しくらいは可愛いと思うだろう。

 

 中身が70代おっさんだから客観視したらキモいけどね、ヴォエ!

 でも、俺は使えるものは使える主義なんだ。


「……ったく、このクソガキが。仕方がねえな」


 お?

 これは手ごたえありか?

 

 そして、ドクターは店の奥へ消えた。

 しばらくすると、ドクターは店の奥から帰ってきた。

 手にはボロボロのTシャツと短パンが握られている。


「使い古した男物だが、ないよりはマシだ。これをやる」


「おお、これは感謝だな!」


「そしてだが、お前が購入したインプラントは実は145万だったんだ。だから余りの5万をくれてやる」


 ん?

 あのインプラントって150万じゃないのか?

 前世で購入したときは確かに150万だった気がする。

 値下がりしたのか?

 

「いや、ドクター。あのインプラントって150──」


 疑問を投げかけた俺をドクターは静止した。


「──善意は大人しく受け取っておくものだぞ、ガキ」


「……」


 ……まったく、この爺さんはツンデレだな。

 

「まあ、なんだ、ありがとう!」


「そうだ、善意は素直に受け取っておけ。この5万があればしばらくは生活できるだろ」


 確かにそうだな。

 この5万があれば数日は耐えしのげられるだろう。


「いやー、感謝する。ドクター。あれこれと融通をきかせてくれてありがとうな」


「フンッ!俺だって鬼じゃねえんだよ」


 そして、俺はドクターから服と金を受け取り、外に出た。




▽▲▽▲

 

「んー、もう夜か」


 外に出ると、すでに日は沈んでいた。

 というか通りの公園の時計を見たが、すでに10時を回っていた。

 

 ダンジョンが出現して以降、東京は日本政府の直接の統治が失われた。

 その経緯を説明するのは非常にめんどくさいため割愛するが、もろもろあって東京の治安はゲロほど悪化したのである。

 どのくらいかって言われたら、アメリカのロサンゼルスよりもはるかに治安が悪いって言えば伝わるだろうか。

 夜の街にはマフィアと呼ばれる犯罪組織が闊歩している。

 夜道で女性が一人で歩けば、すぐに襲われる。

 今の俺は中身はおっさんだが、見た目は美少女だ。

 だから、こうして夜の道を歩くのはあまり好ましくない。

 さっさと近場のネカフェかどこかに逃げ込むことにするべきだ。

 

 俺は誰にも絡まれない事を心の中で祈りつつ、さっさと早足で歩いた。


 しかしながら現実は残酷だ。


「よおガキ、可愛い顔してるな」


 えっと、はい。

 普通にマフィアに絡まれました。


 なんか普通に歩いてたら酒に酔っているのか、顔が赤い男がこちらに歩いてきた。

 で、こうして絡まれていると。


 ……どうする?

 戦うか?

 いや、今の俺はまだ右手を負傷している。

 それにまだインプラントは積んでない。

 この状態で戦うのは得策じゃない。

 

 恐らくだがこの男はインプラントを積んでいる。


 なんとか工夫すれば瞬殺できなくもないが……あまり戦いたくはないな。

 魔力操作=体がぶっ壊れる。

 そうしたら今度こそ終わりだ。

 金を持ち合わせていない俺は治療費も当然のことながら払えない。

 

 ここは無視するか……。

 

 俺は男を無視してとことこと歩いて行った。

 しかしながら、男も俺を見逃してくれなかった。


「おい、逃げんなよ」


 肩を掴まれる。


「大丈夫だって。優しくしてやるからよぉー」


「……」


 こいつの首を跳ねてやろうかな。

 普通に気持ちが悪い。


「チッ!黙りこくってんじゃねえ!!!」


 そして、男は俺を揺らした。


 どうしようか……。

 ここまできたらもういっそのこと戦うか?

 しかし……ここで無茶をするのは不味い。

 マジでどうしようか。

 逃げようにも、肩を掴まれている。


 ……どーしよ、これ。 

 うーん、不味いな。

 八方ふさがりだ。


「そっちが無視するってんならこっちも無理やりしてやる」


 男は俺の腕を掴んで無理やり裏路地に連れ込もうとした。

 

 と、その時だった。


「──そこまでよ、悪党!」


 

 パシュン!!!



 男の腕が吹っ飛んだ。


「ああぁぁぁぁ!!!俺の腕があああああああ!!!」


 男は痛みにもだえ苦しんだ。

 

「インプラントにすればいくらでも大丈夫よ」


 いや、そういう問題じゃない気がするんだが……。


 どこからか現れた赤髪の女性の言葉に心の中でツッコミを入れる。。

 彼女は、見知った顔だった。

 

 彼女は、アイリだった。

 俺の自称一番弟子である。


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