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第80話 国立病院のカルガモの親子たち

 「清瀬にある国立病院に紹介状をお願いします。」 防衛医科大学病院は私の仕事で関連性があったので避けた。


 「かあちゃん、今から急いで行けばまだ間に合うよ。菖蒲の花は来年にしよう。」


 現在は独立行政法人となっている病院の初診外来受け付け時間は午前十一時までで、午後は外来診療を受け入れていない。これは入院病棟患者に重心を持たせているためである。画像から判断して2~3日のうちに・・・なんて呑気な気にはなれなかった。


 清瀬市にある国立病院の自動ドアを通り抜けたときには十時半をすでに廻っていた。本当にギリギリ・セーフで飛び込んだ事になる。この病院へ向かう途中で同僚が運転している患者用送迎車とすれ違った事を覚えている。



 紹介状を持たされたこの病院は呼吸器が専門である。ドクターの一覧紹介欄の掲示には日本を代表する呼吸器の名医の名が列挙されている。


 病院は確か10階建てであったと思う。上階の2フロアーは結核の専門病棟になっていて、一般の患者さんは出入りできない。隔離病棟にはなっているが、それは緩く、エレベーターが共有されていたから排菌のない患者たちだったのだろう。


 なにしろ建物が大きくて綺麗である。数年前に改築工事を終えたばかりで医療機器も充実している。古かった時代とは様相が異なっていた。駐車場も大きく確保されていて、駐車に困る事も全くなかった。強いて言えば、独立行政法人化してから時間当たりで駐車場料金が割り増しになっていく。


 新患外来の手続きを済ませ、受け付けの前のランダムに並べられている椅子に母を座らせると私はこの病院の探検に出かけた。売店の商品が充実している事、呼吸器の専門病院なのに喫煙場所が設置されている事を知った。


私は屋外に設置された喫煙場所に行ってタバコを1本だけ吸ってから、母の待つ受け付け前に戻ろうとしたのだが、廊下の途中に10メートル四方のガラス張りに囲まれた中庭のようなスペースがある事に気が付いた。


そこには幼児用の丸い空気プールが置いてあり、水もたっぷり入っていた。草むらが人工的に配置されていて、よくよく見るとカルガモの赤ちゃんがいっぱいいる。ちっちゃな動くぬいぐるみのようなカモの子たちはヨチヨチ歩いて、親ガモのうしろを追いかける事もなく自由に遊びまわっていた。


 ➖かあちゃんにも見せてやろう➖


そう思って母のもとに急ぐと診察の順番になっていた。母は持たされたレントゲン・フィルムと紹介状を診察室の医師に手渡した。担当医はまだ若く、玄関先に掲示してあった医師一覧の1番下に名を刻まれていた人だった。


 ➖大丈夫か、こんな若造で➖


これが私の本音である。肺活量検査と採血のみをおこなっただけであったが、この肺活量の測定が難儀だった。言葉が話せない母にとって初体験の事は理解できないのである。


 「呼吸をめいいっぱい吸って・・・一気に吐き切って、そう全部をはーって。」


そう言われても出来はしない。5~6回のやり直しを命じられたが結局、検査技師の方が諦めが早かった。


 ひと通りの検査と説明を受けて他には何もせずに、なんとなく診察は終了した。会計を待っている時間に中庭のカルガモの親子たちを母と一緒に観にいった。母は指差して「あっちにもいる、こっちにもいるよ、ほら!」と赤ちゃんを見つけては微笑んでいた。

 

 ***ここまで文章を列挙してきて苦しくなってきた。***

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