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第71話 家族の消滅

 一般の方は知らないだろうが警察の情報網はある特定の一般団体を介して流入されている。


時には非社会集団からも情報を得ている、だから警察は便宜を払う恩返しとして叔父に連絡をしてきた。


 「いつもお世話になっております。あなたのご親戚にあたる桑名遼平をニ、三日のうちに身柄拘束しようと思っていますが出来れば他の方法で回避したい。調査によると桑名遼平は医療従事者の国家資格を取得していますね。この先の人生を考慮した場合、我々が動くよりも別の手段があると思うのです。なにか、お知恵をお借りできればと思いますが、お任せしてもいいですね。」


 警察から直接、情報を得た叔父は動いた。私にとって最悪な事態を避けるために自宅待機を命じる電話をしてきたのだが、私は我関せずを貫いた事になる。


 母が心配したのはリミやサラ、勇太ではなくこの私なのであった。我が子の社会的立場や資格を母は守ると決断した。孫よりも我が子を救う事を優先した、いや、我が子が救われれば孫には二度と会えずとも構わない。断腸という言葉を使っても良いだろう。


 二日が経った。いつものように出勤し、いつもと変わらない1日を終えようとしていた。


 「ただいま。」


 誰からも返事がなかった。自宅の中の雰囲気がいつもと違う。あるべきモノがそこにない。生活の空間なのに人が居住している匂いから外れている。2階に駆け上がってタンスを開けると、私のモノ以外のすべてが消えている。衣類だけではない、勇太の写真やアンパンマンのオモチャもすべてが無くなっている。


 私の家族が私を残して消えた。


 すぐに母に電話したが「なにも聞いてないわよ。どこに行っちゃったんだろうねぇ、遼ちゃんは心当たりを探してみて、私は戻ってくるのを待ってみるわ。戻ってきたら遼ちゃんに連絡するから。」


 「わかった、多分、元の亭主の住んでいる街だろう。あそこらあたりにはフィリピン人が(たむろ)するエリアがあるんだ。フィリピン食材店もある、今から行ってみる。」


 その街にリミもサラも勇太もいなかった。いるはずがない。母が死んだ通夜の時に初めて知ったのだが、この時、四人をかくまっていたのは母の兄であるあの叔父だった。良い意味でも悪い意味でも恐ろしいほど行動力がある人である。


 母の通夜の弔問客がいなくなり、親族だけで線香の灯を守り続けている時だった。いとこの忠さんが酔っ払った勢いで口を滑らせた。


 「遼平の別れたフィリピン人妻だった女、東京にいるらしいね。義母から慰謝料をもらって帰国したくせに、日本に戻ってくるなんて酷くないか。手切れ金を200万円も渡したって聞いてるのにさ。」


 知らなかった。全くの初耳であった。


 「忠、その話はダメだ!」


 叔父が間髪入れずに叱責したが叔父自身も酔っている。


 「叔父さん、その話ってどういうこと? 俺はなにも聞いていないよ。母ちゃんはなにも言っていなかったよ。慰謝料ってなんだ? 手切れ金って、いったい、誰と誰が手を切ったんだ?」


 私は叔父に問いただした。


 「遼平、もういいかぁ、喋ってしまったのだから。お前の母親はあの時の事を墓場まで持っていくって言い残して亡くなったんだ。」

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