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第70話 成立された犯罪

 ブラックアウトと言われる意識障害を指す言葉がある。医学用語なのかもしれないが、アルコールの大量摂取の結果「俺、昨日どうやって帰ってきたんだろうか?あそこの飲み屋で飲んで、そのあと、え~と、どこに行ったんだっけかな?金払った記憶がないぞ。でも財布の中身はなくなっているなぁ。」


 アルコール依存症に限った事ではない、鬱病の処方薬でも同じ現象は起きる。買い物依存でもネット依存でも起きえる現象である。


 「こんなものを何で買ったんだろうか?」


必ず行き着く先は金銭の支払いにおよんで、度を超えると自己破産に陥る。


 昨夜のことは覚えている。サラへの虐待が見つかってしまった事だけは記憶にあった。ところが、そのあとが抜け落ちている。だから朝が来て、ごく普通に通勤した。


この日、帰宅の途中、クルマの中で「俺がリミの立場だったら、さっさと家から逃げているよなぁ。よほど忍耐強い女なんだろうか。あるいは我慢の限度を超えていても日本にいたいという執着心の方が優っているのだろうか。」


 そんな事を思いながら自宅へ向かっていた。


 不法入国、不法滞在、不法就労の3点セットの外国人でも、正式なビザが取得できる唯一の方法は日本人と結婚して、役所に婚姻届を受理させる。そのあとで子を出産すれば可能だ。子供は当然、日本国籍になるから、たとえ不法に入国した外国人でも『この子を育てる義務と権利は優先されますね。』と入国管理局の職員に思って頂ければ良いのである。


 リミはこの方法で不法3点セットをクリアした。共犯という言葉を使うならば私自身が共犯者であり、陰謀者となる。


 話をこの日の朝に戻そう。


 「おはよう、どうしたんだ、腕の包帯は怪我でもしたのか?」


私には記憶が無くなっているから詫びる気なんて全くない。


 「行ってらっしゃい、気をつけてね。」とリミが言う。


いつもの朝となにも変わっていない。昨夜の記憶は戻ってきてはくれなかったが現実はつたい歩く。私の母が昨夜、我が家で起きた事の一部始終を実の兄に伝えていた。私から見れば叔父にあたる人物になる。


 この叔父は隣町に住んでいて実力者という肩書を持っていた。良い意味でも悪い意味でも真の実力者である。


 「遼平、お前に話しがある、今夜、会いに行くから酒を飲まずに自宅にいろ。」


 命令口調で電話の向こう側から言われた。


 「俺は叔父さんに用はないよ。来てもらっても自宅にはいないよ。だいたい叔父さんは前科者じゃあないか。そんな人と関わり合いになりたくもない。」


 私は聞く耳を持たず、叔父からの電話を切った。この同じ日にリミとサラは私の勤務中に病院を受診していた。病院のスタッフは二人の顔と腕に出来上がっているアザや怪我の状態を診てすぐに悟った。


➖この母娘の自宅で異常な暴力行為が日常化している➖


 そう結論付けた。証拠に成りうる怪我の写真、レントゲン画像、医師の質問に対する二人の声がボイスレコーダーによって記録された。私の犯罪を成立させるための物的証拠は充分に用意されたのだった。


 「この状態は非常に危険である。すでに日常化されていると思われる。この母娘の逃げられる場所が見つかるまで、ご主人である桑名遼平を拘束しましょう。警察に通報すれば最長で二十日間は拘束できます。その間に弁護士を探して、シェルターの準備をしましょう。」


 医師の結論はすぐに実行に移され、最寄りの警察署から、この情報が母の兄、あの叔父に伝達された。

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