第6話 借金だらけの弟
葬儀場として借りた街の集会場は平屋造りで、日曜日には剣道教室の道場としても使われていた。入り口から向かって1番奥に祭壇が備えられ、父が眠る棺があり、花が添えられて蝋燭と線香の煙が弛まなく白い百合の花の間から揺らいでいた。
日付が変わって1~2時間が経っただろうか。
「遼平のお父さんは偉い人だよ。借金を残さず、自分の入る墓まで作って、遼ちゃんにはなにも負担を残さないようにして逝ってしまったねぇ。」
母の姉の洋子おばさんが口火を切った。
「そうそう、あの借金だらけの弟さんはどうしているんだい?」
父は3人兄弟の長男として育ったが実の母の記憶がほとんどない。父がまだ5歳の時に実母は34歳の若さで亡くなっている。戦中の出来事であるから詳しいことは誰にもわからないが男ばかりの3人兄弟で末っ子とは腹違いだった。
父には産みの母と育ての母がいた。父と二番目の弟であるヒロおじさんは同じ母親であるが三男は育ての母が実母であった。この三男が祖父の相続を全て受け取り、すべてを使い尽くした挙句に借金を重ねていった。
父からもヒロおじさんからも親族という親族から相当な金額を無心しては一切返してこなかった。挙げ句の果てには「現金で貸してもらえないなら、せめて借金の保証人になってほしい。」と言い始めて父はその願いを受け入れてしまっていた。
親族に返せない者がどうして取り立て屋に返せるのか。当然のことだが取り立て屋は叔父の懐にないとわかると父を標的にしてきた。 コトの真相を正すため、父は借金まみれの弟、私からみれば叔父を我が家に呼びつけた。
呼びつけたのだから母がいる我が家で叔父を責めれば良いものを、わざわざ寿司屋に場所を移して話をさせた。それも父は私に「遼平も一緒に来い。」と言って3人で寿司屋に入った。