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第68話 虐待、そして拷問

 「お前はなんで俺を怒らせるんだ。」


 怒りを感じさせない言葉を選んで、声も小さくし2階で寝ている者たちには聞こえないように睨んだ口調で言った。


 サラは寝ぼけているから無反応であるし、そもそも日本語が理解できない。


そんなサラの態度がさらに私の怒りを助長する。


 「なんで座っているんだ、怒られている奴に誰が座っていいと許可したんだ。」


 まったく表情を変えずに、なにも答えないサラが目の前で座っている。私の方が立ち上がった。


 「何度、言ったらわかるんだ、立てよ!」


 私は言葉を出すのと同時にサラの長い髪をわし掴みにして力のまま引っ張り上げた。軽い身体は否応なく宙に浮いた。


掴んだ髪を何度も前後に揺さぶる。サラの身体は回転人形のようにクルクル回る。


 「起きるんだよ、怒らせるんじゃあない!」


 全身が宙に浮いたまま髪の毛を引き上げられる痛みにサラは耐え続けていた。


 左側に思いっきり髪を引きずって横倒しにし、頬を引っ叩いた。


 サラの口が真一文字に変わり、大きな瞳から涙の粒が流れ出しだ。


 ➖これ以上はまずい➖


 私は直感して「寝ろ、2階へ行け。」


 小さな声ではあるが怒りを含ませて指を上へ向けた。


 サラは黙って寝床に戻っていき、独りになった私は残っていた薄いウイスキーを一気に飲み干すと横になってそのまま寝入ってしまった。


 翌朝、サラは小便を漏らしていた。

 

 何事もなかったかのように私は自分を欺いて「また、寝小便か、いつになったら治るんだ。」と平然とした口調で言いのけた。


 この拷問が果てしなく続くのである。夜毎、アルコールの沼の住人による『酒の遊び』と化していくのである。


 ある晩の事だった。いつものように夕飯を食らうのがものすごく遅いサラに怒りが爆発した。食事の途中でサラの髪をわし掴みにして裏庭に放り出した。


 季節は六月だったと思う。


外庭に設置されている水廻りにはナメクジがウヨウヨと這っていた。その場所にサラを素足のまま放り出した。


ものすごいサラの悲鳴が住宅地に響き渡り、泣き叫ぶ声と共にサッシの窓をバンバンと叩き割ろうとする音が鳴り響いた。 これではご近所の住人が警察へ通報してしまう。


 裏庭から場所を表玄関に変えて仔猫を外へ放り捨てるように追い出し、鍵をロックした。すると今度は決して開く事のないドアノブを必死に回し続ける。嗚咽と、なにかを叫ぶ声がする。 フィリピン語で泣こうがわめこうがいっこうにかまいはしない。


 ご近所には「サラちゃんが、なにか悪さをして外に出されたのだろう。」くらいに思わせておけば良い。


 しかし、そんな事では済まなかった。サラが力の限りに回したドアノブは壊れてはずれてしまった。


玄関に入ってきたサラの前に仁王立ちしている私の左手にはウイスキーの入った四角いグラスが握られていた。


中身を飲みほした。一気に喉を通過させた。そして空になったグラスの底を横にむけ、無意識のうちに右手に持ち替えていたグラスの底の硬く厚い角でサラの頬を殴りつけた。


 玄関の灰色をしたコンクリートに一滴、また一滴、血が垂れては落ちていく。グラスは割れて、手を切っていたのは私だった。

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