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第56話 リミの離婚

 リミの亭主は建築に携わる、いわゆる職人だった。晴れた日には朝から夜遅くまで働き、自宅に帰ると酒を飲む。妻であるリミとはすれ違いの生活パターンになる。


 出会いの場はやはりネオンの灯ったドアの中で、常連客としてリミを贔屓にしていた。当時、ビザがなかった彼女に結婚ビザをちらつかせ、さらに金品で釣り上げた。


 「お金、いっぱい持っている人だよ。マニラに土地、2つ買ってもらったよ。このバッグもプレゼントしてもらったよ。」


 リミが持ち歩いているバッグは男の私でも知っているモノグラム柄で有名なブランドだった。確か10万円では買えなかったと思う。


 「オトコ、嘘つきだよ、優しくなくなるよ。私の給料もお酒になっちゃうよ。フィリピンの家族が貧乏になる、送金できないと、お母さんとお姉ちゃんが困るし、せっかく買った土地も取られちゃうから逃げてきたよ。」


夜のネオンの下で出逢ったオトコとオンナはネオンの下でしか温もりを与え合えないものだ。


 「リミの荷物って1回で運び出せそうか?」と私が聞くと「大丈夫だよ、あまりない。ほとんどフィリピンに送っちゃったから。」と答えた。


 「じゃあ運び出すとしたら、旦那が呑み屋に行っている時だね。リミが務めていたスナックに行くんだろう。旦那が店に入ったらフィリピン人の仲間から連絡をもらえるようにして、そのタイミングで夜逃げしよう。」


 これが私のアイデアだった。


ところが『夜逃げ』を実行する前にリミの旦那から連絡がきた。要件は実にシンプルなもので「自宅にいない妻の荷物なんて場所を取るだけだ。邪魔だから取りに来い。」というものであり拍子抜けした。


 季節は忘れたが、ある夜、リミを助手席に乗せて旦那が暮らしている小江戸の街はずれのアパートに向かった。


 「ここで待っていて、ちゃんと話がしたいって言ってる。これが最後だと思うから、ちゃんと話してくる。」


リミはそう言って通りの向こう側にある安アパートに入っていった。


残された私は、旦那がアパートから出てきて私と対峙してくる可能性があると思いながらクルマの中にいたが、路上をよくよく見ると安アパートの前に4つの段ボールが放置されていて、おそらくリミの荷物が入っているのだろうと思い、先走ってトランクに詰め込んだ。


 小一時間もしないでリミはひとりでアパートから出てきた。


 「どうだった、なにを話してきたんだ?」と聞くと「なんでもないよ、鍵を返しただけ、アパートの鍵ね。あと離婚届けと戸籍謄本をもらった。」


 「なんで戸籍謄本が必要なんだ?」


そう聞くと「エンバシーだよ。」と答えた。


 「エンバシーってなんだ?」


 「エンバシーは入管だよ。十条にあるだよ。」


 「あるだよか、あるんだよ、が正解。」


そう言って笑うと「なにもなかったけれどフィリピンの土地を購入した時の金だけは返せって言っている。60万円くらいだよ、働いて返すよ。」


 「いや、60万円は返さなくても大丈夫だ。俺にまかせて。」


 「どうするの? 旦那、怒ると怖いよ。」


 60万円を返さずに踏み倒す方法が閃いていた。


 時期を見計らい、私自身がリミの元旦那に直接、電話で話をした。


 「あのリミ名義になっているマニラの土地ですが、実際には現状のままでは建築不可だそうです。不必要になりましたので現金でお返しするのではなく、土地そのものをお渡しいたします。名義の変更にご協力ください。」


 リミの元旦那の回答は「いらない。」だった。


*現在、入国管理局は十条から移転し、品川にあります。

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