表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/117

第43話 中国人ホステスのミン

 中国籍のホステス、ミンは日本滞在における永住ビザを取得していたので不法就労ではない。中国々内にある日本系の企業で作業員をして生計を立てていた。この職場で日本人男性と知り合い結婚した。


5歳になる男の子がひとりいるらしいが日本には連れてきていない。中国の実母に養育を任せて日本に出稼ぎに来たという事になるだろう。 日本に来るとすぐに日本語学校に通って日本語検定の2級を取得した。おしゃべりをする時、外国人特有の訛りというかカタコトが一切感じられない。


 本人が言わなければ日本人になりきれるほど流暢に言葉が出てくる。顔立ちは幼く、28歳にはとても見えない。見ようによっては十歳代に見えてしまう。


 そしてこのミンという女の子の最大の特徴は媚びない事だった。


 夜の仕事、ホステス稼業は出勤前に自分の携帯電話から常連客に連絡を入れるのが常である。今夜、来店してもらえそうな客数を予め確保する。もしも可能なら『同伴』というスタイルで入店客を連れだって出勤できれば報酬が大きく膨らむ。


 ミンはこの行為を一切おこなわない。


 彼女の話を鵜呑みにすればであるが、育ちは中国でも相当、外れの田舎育ちで成田空港から直接、空路だけでは帰省できない。 自宅はあばら屋のように朽ちていてこの前の台風によって屋根が抜け落ち、住むこともままならない状態になってしまったそうだ。


ミンが仕送りをして改築費を工面したが、このまま住み続けるのは難しいようだ。


1枚だけ実家の写真を見せてもらった事がある。そこには野外で串刺しにされた子豚が炎の上でクルクル廻され丸焼きになっていた。その周りにミンを含めた親族らしい数名が映り込んでいた。


 「これは前回、帰省した時のご馳走なの。」と言われたが、日本人の私にはグロテスクそのものに見えた。

そう言えば川を泳いでいる鴨を見つけて「あの鴨は誰のものなの?」と聞かれた事があった。


 「野生でしょう。」と答えると「なら、捕まえて夕ご飯のおかずにしてもいいのか?」と返された。

さすがに「いいよ。」とは言えなかった。


 ミンは夜はスナックで働き、昼間は飲料メーカーの品出しをしていてWワークであったが、月の収入は20万円を少し超えるくらいであると言っていた。事実かどうか、これもわからないが苦しい生活をしていて、夜の給料は手を付けずに実家に仕送りしていた。


子供の養育費と家族の生活費を自分ひとりで稼いでいた。


 私が彼女に持った印象は『けなげ』であり『清楚で幼さが残る女性』だったからこのスナックの常連客になるのにたいした時間はかからなかった。


 出会った当時は土曜日だけの客であった。


 1週間に1回でもお気に入りの女の子のいる店での支払いは数万円になる。高額になるのは見栄を張るからである。平日は場末の飲み屋で我慢をして、週に1度の出会いに心をときめかせていた。


 この自制が効いていたのは金がかかり過ぎる事以外にはない。


 ところが、この金の自制が制御できなくなる事態が数年後に起きるのである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ