第31話 直江津への道
店内は薄暗いというより暗すぎるくらい暗かった。この暗さが不気味な予測を助長していたのかもしれない。
確かに2人目まではヌード劇場の踊り子であるダンサーだった。ところが3人目になると、どう若く見積もっても四十歳代にも思えない女性が舞台に現れた。化粧を分厚く盛っているが、劇場の真っ暗い観客席からでも目尻の皺の深さは隠しようがないほど深く刻まれていて、身体を隠している布をすべて失くすと肋骨がクッキリと轍を幾重にも作っている。垂れるべきものは重力に逆らえずにキチンと垂れ落ちていた。
そして4人目の女性が登場した瞬間、出た!お化けバアちゃん。券売のお婆ちゃんが下半身の一部分だけを赤いハンカチで隠し、手にはリンゴとタコ糸を持って舞台中央に進んだ。
「ウソつきババァ!」
観客席から野次が飛んできた。私と同じ質問を、この妖怪オババに聞いた人がいたのだろう。
「このリンゴを今からマンギリいたします」
妖怪オババはそう言うと手にしたリンゴを自分の股間に挟んで押し上げた。さらにタコ糸を股間に通しながら大きい声で「マ・ン・ギ・リ!」と威勢の良い声をあげた。
タコ糸が妖怪オババの大切であったろう陰部に食い込んでいくと同時にリンゴは真っ二つに切り裂かれオババの足元にコロンと落ちた。
一片は自分の口に運び、残りの一片を観客席の最前列にいた男に渡した。受け取った男は財布を取り出し、紙幣を1枚だけ丸めてオババの陰部に突っ込んだ。
多分、サクラだと思うがその紙幣が千円札だったのか一万円札だったのか判らなかった。
イタリア軒に戻ると、まだ時間に余裕があり車を取りに海岸まで戻って行ってこれそうだった。
さっき来た坂を逆に下り、海岸まで早歩きをして急いで車を走らせイタリア軒に到着すると正面玄関の前に真由美だけが立ってた。女友達の姿はどこにもなかった。
「遅いじゃあない、もう、どこにいたのよ」
真由美の問いに「裏通りのヌード劇場で妖怪オババに遭遇していた」とは言えないので「日本海を見ていたら車の中で眠ってしまった」ことにした。
新潟市内を夕方4時過ぎに出発し、直江津に向かって走り始めると「今日中に到着しなくてもいい。どこかで一泊していこう」と真由美は言い出した。
旅館もホテルも前もって予約などしていないし、市内からはかなり遠ざかってしまっていて、車窓の景色は田んぼばかりになっている。
次の街まであとどれくらいの距離があるのかさえ分からない。こう言う場合はラブホテルを使うしかあるまいと思ったが、実は私にはラブホテルのルールというものが全く備わっていなかった。
数年後にはアルバイトをする事になるのだが、休憩と宿泊の違いさえ分からない。 だから真由美に「ここにもラブホテルはあるけれど宿泊タイムまで、あと1時間以上もあるよ。どこかで夕食を取ってから戻ってこようか」などと提案したのだが、真由美はなにも教えてくれずに「うん、いいよ」とだけ返事した。




