第24話 飲み放題のアルバイト
父はアルコールは飲まないが、その代わりにコーラをよく飲んでいた。昔でいうホームサイズの瓶を毎週土曜日に2ケース、24本を近所の酒屋に持ってこさせていた。
私がビールを飲むようになると父はコーラに加え、キリンビールの大瓶も1ケース持ってこさせるようになった。
我が家でアルコールを嗜む者は私だけだから、1週間に12本を自由に飲めるようになった。当然、支払いはすべて父が出してくれた。
後年、そんな父に対して母が「なんで遼ちゃんにビールを買ってあげるの? そんなに可愛いの?」と聞いたことがあるそうだ。
父はただ笑って誤魔化していた。
本格的にアルコールが我が親愛なる嗜好品となったのは働き始めてからである。
現役での大学受験に失敗し、浪人生になるや否や予備校通いに嫌気がさしてしまい、アルバイトとしてエキナカのレストランの厨房で働き始めた。
アルバイトを許してくれたのは母で、それを知った父は母を怒鳴りつけた。
「遼平にアルバイトをさせたら、あいつの性格だから中途半端では終わらなくなる。来年も受験に失敗するのは目に見えている。」というのが母を叱りつけた理由であるが、全くもってその通りになった。
私は翌年の大学受験を受験料まで親に振り込ませておきながら受けていない。受験会場に行かずに向かった場所はアルバイト先のレストランだった。
父にも母にも受験会場に行っていない事は話さなかった。受験していないのだから合格通知が届くはずはないのだけれども、父ががっかりする顔を見るのは忍びなかった。
アルバイト先のレストランには生ビール用の樽と二酸化炭素のボンベが設置されていて、中ジョッキで提供されていた。閉店後には、好き勝手に飲むことができたので好都合なアルバイトだったと言える。
ブルーハワイ、マイタイ、ブランディー・メリーなど洒落たネーミングのリキュール類も提供していたので、初めて聞くカクテルを試し飲みにと、肩ぱっしから飲みまくった。
「今年の夏はアルコール類がよく売れるわね。」
オーナーの女性は思い違いをしていて、1円たりとも金を払って飲んではいない。
このレストランの女性オーナーは昼はレストラン経営、夜はスナックのオーナーママをしていた。
スナックが繁盛する土曜日の夜だけレストランにある大型の製氷機から氷をゴミ袋一杯分、持ち出してスナックにまわす。
スナックに置いてある一般家庭用冷蔵庫で出来上がる氷だけでは足りなくなるのである。
この氷運びを私は自ら買って出た。
11:00PM前までに氷を運び込めば、そのあとはスナック『愛』で飲み放題ができるのである。生まれて初めて入る大人だけが許される世界にわずか19歳で飛び込んだ。