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第21話 MACとSSS

二ヶ月が経とうとしていた。春節の豆も商店から消えて、冬の寒さだけがいっそう厳しくなってきた頃である。退院日が決定される。 この決定を誰もが恐れるのである。


 ひとつには隔離された空間から追い出されても生きていけるだろうかという漠然とした不安。もう1つが『三者面談』なるものの日程が告げられる。この面談によって退院後の身の振り方が決まってしまう。


 「桑名さんの三者面談の日程を決めたいんですが、ご家族の誰でも構いませんから来院してもらえそうな方はいますか?」


 三者面談の結果次第で社会復帰が許されるか、アルコール依存症者専門の寮に連行されるかが決まる。

この寮の事をアルファベット3つでMACと略す。


 「おにいちゃんはマクドナルドではたらくのぉ?いいなぁ。」


実の弟の子供に言われた事があった。まだ3歳くらいの甥の言葉だ。


 MACはMarknol Alcohol Center(メリノール・アルコール・センター)を略したもので少人数制の男性寮である。女性にはオハナという施設があるが公にはされていない。 MACは基本的に自給自足制を取っているが農作物を作っているという意味ではなく、起床から就寝まで全ての業務を集団でおこない自己責任で生活する場所である。掃除、洗濯、食事の準備までが集団での持ち回りである。

午前に1回、午後にも1回、アルコールの沼に溺れていた時の自分自身を振り返るミーティングを90分間おこなう。夜は個々で各地にある自助会に参加する。過酷な1日3ミーティング制である。


 この生活を3年から5年間おこなうという気の長い回復プログラムであるが、ここから社会復帰できる者は10%にとどいていない。


 MACから脱落した者達の行き場は福祉関係者の仲介がもらえればSSSという施設がある。全部ではないが私が見学した施設では八畳の部屋の真ん中にベニア板を立てて仕切り、二人部屋に改造されていた。持ち込めるものはほとんどなく、テレビを観るのは自由だが音を出してはいけない。イヤホンが必需品となる。外出は届けを提出すればできるが、たった100メートル先のコンビニに行くにも許可証が必要である。


 朝食と夕食は安価で提供されるが、専門業者が調理するわけではなく寮長がおこなっていた。この寮長も過去を辿ればSSSの住人であった。 風呂はある。ただし一つだけで男も女も同じ湯を使う。時間で区切られている。洗濯機もひとつだけある。二十人から三十人がこの施設の住人だから、急いで洗濯を済ませないといけない。乾燥機はない。自分の部屋の小窓に干すしかない。個々の部屋にはトイレもなく共同になる。


 先祖代々の仏壇を持ち込んだ老夫婦も住人の中にいた。きっと年金生活では暮らせなくて生活保護になり、気力も失せて他人まかせの生き方を選んだのだろう。


 このSSSからも逃げ出すと行き着くところは河川敷か公園か、のたれ死ぬ事になる。

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