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第10話 胃癌虫

 実の父親の突然死であっても忌引きというお休みはたった5日間しか認められない。


2ヶ月前に入学したばかりである放射線技師学校を養成する夜学も右にならえであって、この先、4年も続く学生生活のスタートを無難に始める事はできなかった。


 忌引き中に同級生たちは解剖学の第1回小テストを受け終えていたし、ある学生は通学途中で交通事故に遭い、1年間の休学届けを提出していた。


 解剖学のテストを受けられなかった私に対しての救済処置は胃のシェーマといわれる、いわゆる絵を描いて提出するというものになった。


➖どうせ描くんだったら面白おかしく描いてやるか!➖


そう思い立ち提出したものが胃袋を外側からではなく内側から見た場合の絵図だった。胃の中にある(ヒダ)がグニャグニャと並んでいて「癌」の絵も入れた。


「オマケだ!」とズに乗って、黄色の細い蛍光ペンを使って細長い虫を散りばめて「この虫が胃癌の原因虫!」と矢印を入れ提出したら「面白い!」という評価を頂き、留年を免れた。


 夜学に通う4年間の歳月は実に短調だった。

9:00から16:30までは放射線技師助手として働き、帰宅すると学校のある豊島区要町に直行する。電車の中で暗記をおこなう。私の場合、声に出さないと覚えられない習性らしく、座席の真向かいに座っている人から見れば「頭のおかしい人間」に映っていただろう。


1学年の定員人数は八十五名前後であり、私が受験した年の受験番号は八百番台を突破していたから狭き門である事に間違いはない。受験科目は物理と数学IIBまでの範囲と限定されていたから、テスト自体はそう難しいとは感じなかった。ただ問題が簡単だという事は1問でもミスをすれば命取りになるという事を意味している。


 実際に1年前の受験では「桜の花びら如く」散った。

数式というものから10年以上も遠ざかっていたのだから致し方あるまい。


「遼平くん、その歳になってから医学系の専門学校に入ろうなんて考えること自体、間違っているんだよ。」


 あと数年で30歳になる私に、当時の事務長だったチビタヌキからバカにされ「絶対、合格してやる!」と起死回生を誓ったが「沈黙は金成り」を貫き通し、誰にも誓いの宣誓はしていない。

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