魔女に呪われた第一王子に関わった人の末路
おかんさんからのご指摘で少し手を入れました。
「あっ・・・ゆきだ・・・」
ポトポトと顔の上に落ちてきて、私の体温で溶けて顔を濡らす。
暫く落ちてくる雪を眺めていると、あっという間に体の半分が雪に埋まり、顔に雪が落ちても溶けなくなってしまった。
「あぁ、ここで死ぬのね・・・」
目を開けることもできなくなってきて、雪の冷たさも感じなくなってきた。
目を開けることを諦め、生きることを諦めた。
二十五年の、人、生って、ちょっと、短、い・かな?
***
アルナスト・ターバインが雪に埋もれる十三年前から物語は始まる。
第一王子には子供の頃から婚約していた、シューラという公爵令嬢がいた。
だが、そのシューラは第一王子の隣に並び立つことができないまま、息を引き取るという不幸が訪れた。
第一王子とシューラは互いに想い合い、誰もが羨むお似合いの二人だった。
互いも大事に思っていて、この二人が王家を繁栄させていくのだと誰もが思った。
魔物の森に魔物の大氾濫が置きたと一報が入り、第一王子はシューラに「行ってくる。帰ってきたら、結婚式だ」と言って魔物の森へと向かった。
第一王子が魔物の討伐の指揮を執り、三ヶ月、ただひたすら魔物を倒すことに明け暮れていた。
魔物に溢れかえったその場所に一人の血塗られた女が立っていた。
第一王子はこの女が魔物を操っているのだと、その女を討伐しようとした。
その女は強い力を持つ魔女だった。
最後の一撃を加える時「お前に愛するものを失う呪いをかけてやる」と言われ、魔女を討伐してしまった。
魔女を討伐した後は、魔物の数も徐々に減っていき、魔物たちを討伐を終えることができた。
やはり、あの魔女が魔物を操っていたか!!と第一王子は憤った。
しかし、魔女に言われた言葉が気になり、そんなことはありえないと思いつつも、一抹の不安を拭えない第一王子は不安で胸が押しつぶされそうになりながら、シューラの下へ急いで帰還した。
取る物も取り敢えず、シューラの元気な顔を見たいと望み、シューラの下に行った時には、シューラは立ち上がることもできなくなっていた。
太ってはいないのに、ふっくらとして見える頬のお肉が嫌なのと良く愚痴っていた頬は、痩けて、見る影もなかった。
第一王子は必死で呪いを解く方法を探したが、解く方法は見つけられず、シューラは十日ほどで亡くなってしまった。
シューラが亡くなって生きる気力を失った第一王子は冷たくなっていくシューラの手をベッド脇でずっと握っていた。
自分の体温を少しでも分け与えたくて。
第一王子の願いは虚しく、シューラは目覚めることはなく、地中深くへ埋められてしまった。
陛下に、心配されながらも、一年の時が経ち、兄弟のいない王子は、子孫を残さなければならないと言われ、新たな婚約者を受け入れてくれと言われた。
だが「私の呪いがシューラで終わりとは限りません。この後も婚約する者が倒れていくのを見ることは、私には耐えられません」
「愛さなくてよい。子供を産ませるだけの関係でかまわないのだ」
王はそんな非道なことを言った。
この時、第一王子はもうすでに成人していて、周りにはもう婚約者が決まっているか、結婚している者ばかりで、第一王子に釣り合う相手が見つけられなかった。
やっと見つけた相手は、婚約者が不慮の事故で亡くなって一週間も経っていない、スターバイン子爵家の三女、アルナストだった。
アルナストも婚約者を失っていることを知り、第一王子は心を痛めた。
王に「あまりにも可愛そうではないですか!」と抗議したが、第一王子とアルナストの言葉は聞き入れられず、たった一ヶ月で二人の婚姻は整ってしまった。
第一王子は婚約者を失って直ぐに自分と結婚させられるアルナストを哀れみ、アルナストは己の不幸を嘆きながら、アルナストが十八歳の誕生日に、誓約書にサインさせられ、誓いの口づけも強要された。
第一王子は可哀想だと思いながらも、アルナストに子が出来るまで毎夜通った。
酷く抵抗され、第一王子もアルナストも体に傷を作りながら、第一王子は淡々と、アルナストの中に吐き出し続けた。
アルナストが抵抗しなくなった頃、月のものが来なくなり、妊娠が認められ、第一王子はアルナストの前に顔を出さなくなった。
第一王子からすれば、万が一アルナストを愛してしまって、殺してしまうことがないようにとの配慮だったが、アルナストからすれば、本当に子供さえできれば、自分のことなどどうでもいいのだと思い込んだ。
男の子が生まれ、アルナストの身体が子供を作ってもいいと判断された夜から、第一王子はまた毎晩通うことになった。
アルナストは妊娠しやすい質のようで、また妊娠して、女の子を産み、同じことを繰り返して、五人の子供を産んだ。
王子が三人、王女が二人。
もう十分だと思われたのか、第一王子は王になり、アルナストの元には通わなくなった。
アルナストは王都から離れた地方へと追いやられ、子供に会うこともできなくなった。
第一王子にとっては自分から少しでも遠ざけ、愛情を持たないようにするためだったが、アルナストはその事でほんの少し、心を壊してしまったかもしれない。
なにかが起こる度にほんの少しずつ、気づかれない程度に。
遠く離れた離宮に押し込められ、侍女たちはアルナストの挙動は少し、奔放になったような気がしていた。
夏の暑い日でも野原を裸足で走り回り、疲れると草むらの上に転がり、楽しそうに笑う。
侍女たちは、王城にいる頃は笑顔を浮かべることすらも殆どなかったので、やっとここで自由を得て、楽しんでいるのだろうと思っていた。
毎日、侍女たちの目を盗んでは離宮から飛び出し、駆け回る。
足の裏を怪我して血にまみれてからは、靴を脱ぐことを禁じられると、素直にそれに従った。
だから、アルナストが壊れていることに誰も気が付かなかった。
アルナストは走り回りながら涙をこぼし、自分の生んだ子供達の名前を呼んでいた。
王に愛されることもなく、ただ子供を生むことだけのための道具だった自分を哀れんでいた。
冬の寒い日、アルナストは今日も離宮を抜け出した。
最近では、侍女たちもアルナストが姿を消しても探さなくなっていた。
それは、護衛騎士達も。
走り回って疲れたアルナストはその場に寝転んだ。
この寒さなら、死ねるかも知れないとアルナストは考えた。
頬にぽとぽとと落ちてくる雪がとても綺麗で、うっとりとする。
汗をかいていた体は冷え切り、反射で体が震える。
歯の根が合わず、ガチガチと鳴り、それがおかしくて笑いが漏れた。
その笑いも震えていて、またおかしくなる。
雪の冷たさを感じなくなってきて、私を置いて逝ってしまった婚約者が目の前で手を差し伸べている。
アルナストは嬉しくて、その手を掴んだ。
力なく瞼が閉じ、体の全てから力が失われた。
王妃の行方がわからなくなったと一報が入ったのは王妃の行方がわからなくなってから五日が経っていた。
その一報には、生きている可能性は殆どないとも書かれていた。
この連絡を受けた時、王は、側妃の寝室を訪ねているときだった。
侍女や護衛が声を枯らして探しても、雪に埋もれた王妃を見つけられない。
長い棒を雪に挿して、雪と地面ではないものに当たらないかと探し始めて、春が来るまで見つけられないのではないかと思い始めていた時。
強く風が吹き、雪が煙となって舞い上がった。
とても、とても寒い日だった。
雪が巻き上げられて、そこに王妃が最後に着ていたピンク色の衣装を見た気がした。
護衛はその場へ走りより、雪をかき分け、王妃を見つけることができた。
王妃が姿を消してから二ヶ月が経っていた。
侍女と護衛がその王妃の姿を見て、眠っているだけだと勘違いして、何度も声を掛け、王妃の体の冷たさに気がついて、亡くなっているのだと気がついた。
王は王妃のあまりに綺麗な遺体を見て「生きていたのか?!」と言って王妃に触れ、亡くなっていることを知った。
王妃が生んだ子供達に会わせたが、あまりにも小さいときに引き離してから、会わせることもなかった子供達は王妃を見て、誰か解らなかった。
王妃の葬儀は盛大に行われたが、王妃の死去を悲しむものはあまりにも少なかった。
アルナストは子供を産む以外、王妃としての職務は何も果たしてはいなかったからだった。
王はアルナストを哀れんだ。
子供には母と思ってもらえず、国民にすら王妃と認められず、亡くなっても長い間誰にも見つけてもらえず、王妃が何をしたというのか。
王は、自分が呪われたせいで、王妃が亡くなったと思い込み、それからは子供達に愛を傾けることはなくなった。
歪に育った王の子供は十三人居たが、王に足る子供はいなかった。
王は前王に我が子に王たる子供はいないと相談すると、前王の王弟の子供を現王の養子にして、王へと据えた。
引退した呪われた王は亡くなるまでシューラとアルナスト王妃を弔った。
呪われた王の子供達も誰一人幸せな運命を辿らなかった。
一人は婚姻先で、相手に浮気をされ、その浮気相手に刺されて亡くなってしまった。
一人は仲のいい友人に「お前に騙された!!」と言って刺殺された。その後の調べで、騙していたのは別の友人だったと判明した。
一人は、王家から貰った嫁なのに出来が悪いと言われ、姑に酷く扱われ、食事を与えられず、餓死した。
その家は親族に至るまで処刑された。
王の子供に何の過失もないにも関わらず、誰も二十五歳を越える事なく、また、子孫も残さず全員が亡くなった。
呪われた王家と小さな声で噂されたが、王弟から養子になって王となった子は、たくさんの子に囲まれ、政策も良いもので、民衆にも愛され繁栄した。
第一王子に討伐された魔女は五十年が経って蘇った。
そうだった。魔女は死んでも五十年で蘇るのだった。
魔女は第一王子に討伐される前、溢れかえった魔物を処理しているときだった。
血塗られたその姿を見た第一王子が、魔物を操っていると勘違いして魔女を討伐してしまったのだ。
魔女は第一王子にしたことを悔やんだ。
まずは話し合うべきだったのだと、自分のミスを認めた。
魔女のせいで不幸になった人の多さに魔女は驚いた。
全ての救済は不可能だけれど、擦り潰れていない魂に人より少し幸せになるように魔法をかけて、生まれ変われるよう神へとお願いした。
神は、魔女に今生は人間として生きることを罰とし、魔女の力を奪った。
その奪った魔力で、魔女のせいで不幸になった者達を救済した。
そこかしこで、生まれ出た赤子の泣き声が聞こえた。
「今度は幸せになるのですよ」と神の祝福を受けて。
誤字脱字、人名間違い、本当にすみません。
感謝します。ありがとうございます。