3.5:Vengeance - Epi63
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大丈夫だよ……と、亜美には聞こえないから、その口が動いて、晃一が優しく笑ってみせる。
すぐにまた、ジョンに言いつけられて、晃一は亜美から視線を外すことになったが。
亜美には、男達がなんの話をしているのか、どんな会話をしているのか判らない。一般人の亜美には聞かれたくない話なのだろう。
だが、今の亜美には、そんなことはどうでもいいことだった。
やっと、心配していた兄の晃一を見つけ出せたのである。
やっと、亜美の目の前に、実物の兄を見つけたのである。
それ以外のことなど、今の亜美には、問題にすることでもなかったのだ。
なんだか、兄の晃一の手当てと一緒に、しばらくの間は、亜美はうるさい音楽を聞いていたが、それからちょっとして、マークがまた亜美のヘッドフォンを外していた。
しっかりと握り締めていた兄の晃一の手の力が緩み、亜美が握り締めているだけで、そのまま、パタンと、兄の腕は床に落ちてしまった。
「お兄ちゃん!」
横たわったままの晃一は目を瞑り、そこから動く様子もなかった。
「お兄ちゃん……!」
「大丈夫だ」
驚いて、咄嗟に晃一の体を揺らそうとした亜美を、向かえ側に屈んでいるジョンが止めた。
「でも……」
「気を失っているだけだ。ここまでもった方が、奇跡なくらいだ」
あの場で救出した晃一の容態は、もちろん生死をさ迷うほどではなかったが、それに近づいている状態であったのは間違いないのだ。
軽口を叩こうが、拷問された傷に、自白罪を投入されたであろう精神状態から言っても、あの場で気絶していても不思議はなかった。
「あの男はあのまま倒れこむだろうな」
と誰もが考えていたのに、その予想に反して、晃一があの場にいた亜美を見て、一気に、気力で立ち直ったような感じだった。
意地を張って、大事な妹の前で無残にぶっ倒れたくなかったのだろうが、気力だけで、よくここまでもったものである。
「お兄ちゃんは……?」
「外傷は、次の目的地に着けば、治療が可能だ」
それでも、自分の目の前で気を失ってしまった兄の晃一を見下ろしながら、亜美は心配で胸が張り裂けそうである。
ぎゅっと、亜美は、横になっている晃一の手をしっかりと握り締める。
「――電気……、消えなかった。ごめん、なさい……」
「いや。ドンピシャリだ」
「ドンピシャリ?」
亜美はそれで少し顔を上げ、ジョンを見返す。
「電気を撃ち落としても、サブライトが作動しなかった。どうやら、非常電源の方を切断したようだ。大当たりだ」
「本当?」
「ああ」
「あそこの建物も、シャンデリアばっかり?」
「ただの照明だ」
「じゃあ、あそこって――なんだったの?」
「使用人棟だろうが、大した場所じゃない。だが、地下室は違う」
「やっぱり、地下室だったんだ」
「そうだな」
「そっか……。なんだか、大層、偉そうなことを口にして、大見得切ったけど、全然、電気も消えないから、きっと、後でこってりしぼられるんだろうな、って考えてたんだ……」
「屋敷内のコミュニケーションも、切断された節がある」
ジョンの隣にいる男が口を挟んだ。
それで、亜美と一緒にジョンも、その男を見返す。
「電話線を切ったのか?」
「電話線? ――そんなの見なかったけど」
「屋敷内のコミュニケーションが途切れて、ラディミル・ソロヴィノフが、自分の携帯に向かって怒鳴り散らしていたのを耳にした。さぞ、部下に連絡ができなくて、腹を立てていたことだろう」
皮肉げに口を曲げた男を見ながら、へえぇ……と、亜美も感心している。
「電話線なんかなかったような……。そんなの見なかったよね?」
「知るか」
マークに尋ねられても、機械の箱をいじくりまわしていたのは亜美の方だ。
「PBXの箱に入ってない電話線って、すごいねぇ……」
そんな原始的なことも許されるんだぁ――などなどと、亜美も新たなことを学んだ気分だった。
「そっか……。なんか、一応、電源は切れたんだ。大口叩いた割に、なんにも起こらなかったから、最悪だなぁ……って、落ち込みそうだったのよね」
「いや、よくやった」
それを聞いて、亜美が嬉しそうに、にこっと、笑った。
「よかった。でも――高級そうな屋敷なのにね、見掛け倒しだったわ。テロリストにしては、随分、ずさんよねぇ」
まさか、火を放った程度で屋敷が全焼するなど、男達だって、そんな屋敷はお目にかかったことがない。
本当に、テロリストなのか?――と、疑いたくなってくるほどである。
テロリストのアジトなど、用心深く、警備も厳重で、家中が要塞のように建てられていても全く不思議はないのに、今回は、まあ、くだらないテロリストに当たったものである。
これも、なにもかも、亜美のおかげでもあるのだから、更に困ったことであろうに。
「おい」
亜美が振り返る前に、ポイッと、亜美の膝の上に、サングラスが投げられた。
「兄貴の仇はとってやったぜ」
クインを見返している亜美の瞳が、その言葉の意味を理解して、嬉しそうに細められていく。
「そっか……。そっか……」
一人、嬉しさを噛み締めるように、亜美がサングラスを握り締めていく。
兄の晃一の心配で胸が張り裂けそうなのに、それでも、晃一は亜美の目の前にいる。
晃一を助けてくれたチームがいる。守ってくれた男達がいる。
そして、なによりも――大好きな兄の晃一を痛めつけた憎っき男達を、クインが敵討ちしてくれたのだ。
これ以上に、心配することなどあると言うのだろうか。
ツーっと、一筋だけ涙が流れ落ちていって、亜美が手の甲で涙を拭っていく。
「……そっか。――ありがと」
なんだか泣き笑いしているような顔だったが、まあ、なにはともあれ、全員が全員、無事でいた事実に、男達も亜美を見やりながら、微かに笑っていた。
読んでいただきありがとうございました。
Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)
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