3.5:Vengeance - Epi62
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「亜美!」
両脇の男達をふりほどくようにして、晃一が亜美に駆け寄ってきた。その瞬間、痛みに顔を痛め、横腹を押さえつけるような仕種をみせる。
その光景を見て、亜美は、もう、泣き出してしまいそうだった。
「亜美、お前、こんな所で、一体、なにをしているんだっ?!」
亜美の目の前に晃一が立ちはだかって、見上げている亜美の前で、ボロボロになった洋服や、ひどく殴られたであろう顔の輪郭を見て、亜美の瞳に涙が浮かび上がっていた。
「……お兄ちゃんが、悪いんだよ……。連絡なしに、勝手に消えるからぁ……」
ポタポタと、止められずに、亜美の瞳から大粒の涙が流れ落ちていく。
「亜美……」
晃一は亜美を抱き寄せて、しっかりと自分の腕の中で亜美を抱きしめていた。
「亜美、すまない。心配をかけて、本当に済まない……」
「お兄ちゃん……!」
亜美の両腕が晃一の腰に回され、しっかりと、亜美が晃一に抱きついていく。
その妹の体を感じながら、晃一もさらに強く亜美を抱き締める。
「亜美……、心配をかけてしまった。本当に、済まなかった……」
「お兄ちゃんの、ハンサムな顔……、台無しだよ……」
涙を流し、うっく、うっく……と、嗚咽を出しながら、亜美が晃一の腕の中で泣き崩れていく。
「男前に磨きがかかっただろう? 大丈夫さ、これくれい」
「そんなこと、全然、ないよ……。お兄ちゃんの、ハンサムな顔、台無しだもん……」
「亜美……」
まさか、こんなロシアの地まで、晃一を探し出す為に、大事に大事に育ててきた妹が、危険を犯して晃一に会いに来たとは、晃一だって夢にも思わなかった。
心配させまいと、亜美には晃一の副業のことを何一つ知らせていなかったのに、その事実を知らされて驚いているであるはずなのに、それでも、危険を省みず、兄の晃一を探しにきたのだ。
「感動の再開を邪魔するようだが」
二人の間に、淡々とジョンが割って入ってきた。
「時間がない」
晃一はまだ亜美をしっかりと抱き締めていながら、ジョンを見ていた。時間がないのは、晃一も理解しているのだ。
このままダラダラと、この地で、更に亜美を危険にさらすことはできないのだ。
「――移動は、どうするんだ?」
「二手に分かれる予定だったが、――どうやら、屋敷の混乱に乗じて、このまま国外に逃げ切れるだろう。ラディミル・ソロヴィノフは、自分の屋敷のことで精一杯だろうから」
亜美が口走ったことだからではないが、晃一を救出した際に、男達は撹乱と混乱目的で、屋敷の一角に火を放っていたのだ。
それで、晃一を担ぎ出しながら逃げ去りがてら、一角に放った火だったのに、ボワァ――と、それが一気に燃え上がって、果ては、止める暇もないほどに、本邸にまでも、一気にその炎の流れが屋敷を全焼させてしまっていたのだ。
数分もせずして、一気に、屋敷全体が豪火にみまわれたのである。
パアァっと、一気に周囲が明るくなって、晃一を担いでいる男達は、あまりにオープンな場で目だってしまった。
だが、屋敷全体が炎上し出して、その混乱が大混乱に変わっていき、結局、亜美の予想通りではないのだが、その大慌てしている混乱と喧騒に乗じて、男達は晃一を担いで、かなり楽にその場を抜けだすことができたのだ。
恐ろしいかな。
女子高生の助言で、テロリストの屋敷から仲間を救助することが、かなり楽になってしまったのだから。
全員がいる集合場所に、すぐに、さっきの大きなジープが寄せられた。
「アミ」
ジョンが亜美に向かって首を振る。
だが、亜美は晃一を放したくなかったのだ。手を離してしまったら、また会えなくなってしまう。
だから、晃一から離れたくなかったのだ。
「大丈夫だ、亜美。俺も一緒だから。ジープに乗るんだ」
ぽんぽんと、晃一が亜美の背中を優しく叩くようにして、亜美を腕から離していく。
亜美が、こくっと、頷いた。
晃一から離れた亜美が、ジープに駆け寄っていく。
マークが出した手に掴まるとすぐに、ひょいと、亜美はジープの後ろに引っ張り上げられていた。
続々と、男達もジープに乗り込んでくる。最後の一人が飛び乗ると動じに、タイヤのこすれる音を上げながら、ジープが一気に加速した。
後方では、あの屋敷が炎上して、周囲を煌々(こうこう)と照らしている。真っ黒な冬の寒空の下で、その一体だけが、ライトで照らし上げたかのように、あたり一面を派手に照らしていた。
闇夜に燃え盛る屋敷の炎が、真っ赤な色を空に反射して、不気味な色を残している。
その場を走り去っていくジープの黒い窓からも、遠くなっていく明かりが、もうすでに見えなくなっていた。
「お前は床だ」
「寒いんですけど」
「さっさとすれ」
淡々と命令されて、真ん中に空けられている場所に、晃一が横になり出した。
ジープのすぐ下の床に寝るのではなく、一応は、晃一の為にか、毛布が敷かれていた。
「お兄ちゃん……」
「大丈夫だ」
兄の晃一が少し笑ってみせ、覗き込んでいる亜美の手を、しっかりと、握り締める。
「お前は、これだ」
スポッと、亜美の頭から何かを被せられ、その感触がヘッドフォンのようだった。
「今から音楽を聞いていろ」
マークがそれを説明するや否や、亜美の耳に、かなりの音量で音楽が流れてきたのだ。
兄の晃一の横で、エージェントの一人が、晃一の着ているトップを切り裂き出していた。
亜美が心配そうに見やっている前で、男は手慣れた手つきで、晃一の傷の手当てをしていくようだった。
「お兄ちゃん……」
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Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)
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