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3.5:Vengeance - Epi60

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 腹が立った亜美は、背負っていたバックパックを地面に下ろしていた。

 すぐに、バックの中をあさりまくって、目的物を見つける。


「よしっ。覚えてなさいよ。このアミ様を怒らせるとどうなるか、今、見せてあげるから」


 いやいや。プラスチックの箱ごとき、亜美を怒らせたのではない。絡みついたワイヤーも、亜美を怒らせたのではない。


 でも、ぶつぶつと独り言と文句を吐きながら、亜美はアイスキューブのような四角い塊を、何個も取り出していたのだ。ガラスのキューブにしか見えず、中央に丸い玉が入っているようだった。


 そのキューブを、ワイヤーの束の中に無理矢理詰め込んで行き、亜美は最後の一つのキューブに針のようなものを差し込んでいた。


「少し離れててよ。ちょっと危ないから」


 マークは質問もせず、亜美の指示に疑問も抱かず、さっさと大股の一歩で後ろに下がっていた。


 細い針のような場所の後ろには、これまた細い銀色のワイヤーが繋がっているようだった。

 亜美は細い銀色のワイヤーを真っすぐ伸ばしていきながら、後ろに下がっていき、数メートル離れた場所で、銀色のワイヤーにライターで火をつけた。


 小さな火花が上がり、ワイヤーに着火した導火線がものすごい速さで燃えていき、プラスチックの箱のキューブに届いていた。


 ポップ、とキューブが破裂すると同時に、シューっと何かの煙が上がり出す。


「あれは何だ?」

「えーとね、“ピラニア溶液”を入れたキューブなの」

「ピラニア溶液? なんだ、それは」


「“ピラニア溶液”って、硫酸(りゅうさん)と過酸化水素の混合物なの。あのキューブの中に入っているのが、過酸化水素を固形化したやつなんだ。実際は、過酸化水素と過酸化ナトリウムを組み合わせた、過炭酸ナトリウムなんだけどね。硫酸と混ざることで、非常に強力な酸化反応を起こすことができるの。一気に、腐食を進めてくれわけ」


 専門用語ばかり羅列されて、マークだって頭痛がしてきそうである。


「そんな物騒なものを持ち歩いて、危険だろうが」

「お兄ちゃんが、市場テストで、何度も何度も安全性、効能性をテストしたって言ってたもん」

「だが、不意の事故で大惨事になることだってある」


「お兄ちゃんが、そんな大惨事を呼ぶような危ないものを私に持たせるはずはないもん。お兄ちゃんは、100も1000にも及ぶテストして、安全性を確認したから大丈夫だ、って言ってたもん」

「………………」


 そして、その兄の言葉を全く疑いもせずに、100%信じている亜美である。

 さすが、話に聞く通りに、ブラコンである。

 マークも、その点については、言葉なし。


「さっさとしろ。行くぞ」


 無駄な説教も、無駄な説明も、ただ無駄なだけなので、マークは勝手に動き出していた。


「あっ、待ってよ」


 自分の荷物を抱えて、亜美がマークを追う。


 それから、目的地の壁にやってきて、外の壁を破壊する亜美だ。


「屋敷の中の壁だって、ペラペラとした一枚板だったけど、外壁もずさんなのね。極寒なのに、なんで、ちゃんとした断熱剤を入れていないのかしら? これ、悲惨過ぎじゃない?」


 そして、またも、ぶつぶつと文句をこぼしている亜美の傍らで、完全無視を決めるマークだ。


 外側の壁を破壊した場所には、屋敷の中に設置されているであろう配電盤がある場所だ。

 ケーブルがごっちゃ混ぜになっているから、たぶん、配電盤のはずなのだ。

 それとも、ただ単に、ケーブルがごちゃ混ぜに固まっているだけなのか。


 最初の場所で、少しだけ時間が取ってしまったので、二個目の場所に到着した時は、あと数分も残っていないだけだった。


「うー……、間に合わないかも」

「時間が来たら、撤退だ」

「わかってるよ……」


 先程と同じように外壁を破壊して、必死に、その壁の周囲の邪魔な物体を取り外す。

 ワイヤーはごちゃ混ぜになっているが、先程のように、配電盤らしきものが見当たらない。


 もしかして、二個目の場所はハズレだったのだろうか?


 パっと、周囲で電気がつき始め、亜美が顔を上げていた。


「電気、消えてない……」

「そのようだな」


 がーん……と、ものすごいショックを受けている亜美だ。


「時間だ。撤退する」

「……あと、数分だけは?」

「ダメだ」


 即答である。

 非常に残念ではあるが、亜美は撤退を余儀なくされる。


 おまけに、ものすごい強気で意気込んだはいいが、結果は成功を見ずに終えてしまった。なんとも悲惨な勇み足になってしまった……。

 マークに腕を引っ張られ、亜美はやって来た道を戻って行く。


「敵に遭遇しないだけ有難いと思え」

「それは、そう、だけどさ……」


 亜美が屋敷の外壁やらをぶち壊しているのに、なぜかは知らないが、屋敷にいるガードや、テロリストの手下が襲い掛かってはこなかったのだ。


 まさか、“ラッキー”で片付けられるはずはない。



* * *



 亜美が配電盤探しで忙しい間、メインの攻撃部隊は、作戦通り表側からの直接攻撃である。


 停電中、暗闇を走り抜けていき、屋敷奥の目的地に素早く駆けていた。攻撃部隊も、サイレンサーの拳銃を携帯していて、庭に置いてある外灯、サイドドアから侵入した場所の電灯、廊下の電灯やシャンデリアとことごとく撃ち落としていた。


 その騒音を聞きつけて、暗闇の中を数人の男達がメイン部隊の男達の前に駆けつけてきた。



読んでいただきありがとうございました。

Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)


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