3.3:An Escape - Epi51
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「よれよりも、その拳銃返してくれない? 私のだから」
「子供のお遊びじゃないんだ」
「わかってるわよ。だから、プロに任せておけ、って言うんでしょう? プロに任せておくから、その拳銃は使わないと思うよ。でも、私のだから、返して。それに――万が一、っていうこともあるじゃない? その時には、必要になるかもしれないし」
「子連れで突入など、するはずもなし。あんたは、待機だ」
「うーん、それも、やっぱり、って気はしてたから、驚かないけど、印はどんなのか知らないでしょう?」
「印がなくても、あの部屋の位置は覚えている」
「そうかもね。でも、お兄ちゃんが連れて行かれた場所は、知らないでしょう?」
「右側だ」
「でも、右側に、たくさん建物があったじゃない」
それは確認していないから、返事ができないクインだ。
それで、満足そうに亜美が笑う。
「だから、待機していてもいいけど、連れて行った方が早いかもよ。さっき、数が少ないな、って文句言ってたじゃない。少人数で行動するなら、使えるものは使っておかないと、ダメじゃないの?」
「うるさいぞ」
「だって、他の人が怪我したりしたら、お兄ちゃんを助けることも、また難しくなってくるよ。だから、その拳銃、返してくれない?」
「素人が勝手に手を動かしまくって、チームの一員に被害が出たら、それこそ、救出は不可能だ」
ジョンに冷たく言いきられても、亜美は気にした様子はなく、ジョンにもちょっと向いて、
「だから、その部分はプロに任せるから、私が武器を持って戦う――なんてことはないと思うけど。でも、時間がないから、私の案内は必要になるよね。無駄なことして、時間を費やしたくなかったら」
「その分、素人のお守りで、攻撃態勢が手薄になるから、必要ない」
「心配してくれるのは嬉しいけど、もう、ここまで来たんだから、仕方がないよ。私はお兄ちゃんを見つけるまでは帰らないし、帰る気もないし、お兄ちゃんを見つけたから、連れて帰るまでは、家にも戻れないもんね」
「気絶させて欲しいのか?」
「でも、それしちゃったら、動けない私を運ぶので、足手まといが増えるだけだから、脅しはしても、実行はしないよね。足で歩いてもらってる方が、移動する時に楽でしょう? こんな――」
それを口にしながら、亜美が周囲をグルリと見渡してみる。
「どこかは知らないけど、僻地までやってきた少女を見殺しにすることもできないから、気絶させたら運ぶのが大変だもんね。チョッパーも呼べないし。行動の幅がせばまれちゃうじゃない?」
理屈を並びあげられて、屁理屈に――近いのだろうが、ジョンもいい顔をしない。
「まあ、時間がないんだから、私をあの男の屋敷に連れて行って、それで、面倒なことになったら、私を置いて逃げていってもいいのよ。私の我儘で、ついていくんだから」
信じられない話だが、こんな小娘に、ジョンまでも言いくるめられてしまうのである。
人手不足なのは事実で、極秘任務であるのも事実で、大騒ぎもできず、させず、限られた人数で、捕獲された晃一を救出しなければならないのである。
それも、深手を負って動けない大の男を、だ。
「やっぱり、その計算をしたら、私が動いている方がまだいいでしょう? それで、時間もないから、手短に部屋の場所を見つけられる案内人もいた方が、少しは楽になるでしょう?」
「足手まといになるだけだ」
クインが短く言い捨てていた。
「だ・か・ら、そこらはプロに任せるから、私は、邪魔はしないわよ」
どうするの?――と、亜美が首を倒してみせる。
「サトウの救出で命を失っても、保証はしないが」
「ああ、それは大丈夫。私が命を落とすようなことになったら、お兄ちゃんが、絶対に、敵討ちに行ってくれるから。あいつら全滅させたって、生かしておかないだろうし」
そんなことを飄々と言ってのける亜美に、ジョンも完全に脱力ものだった。
「聞きしに勝るシスコン振り。それを上回る、ブラコン振り――」
「それ、私のこと? お兄ちゃんがそう言ったの?」
嬉しそうに聞き返してくる亜美を見やりながら、ジョンは、はあ……と、溜息をこぼしていたのだった。
「まさか、本気で、こいつを連れて行くんじゃないだろうな」
クインも信じられなくて、その場で抗議する。
「彼女の噂は聞いている」
「それで?」
「現状では、仕方がないことだ」
「素人を使うなど、Opが台無しになる」
「それも判っているが、サトウの居場所の確認はできていない。サテライトの映像からも確認はできていない。素人――の判断と確認だけで動くことになった以上、この場で引き返すことも無理だろう」
「私が嘘ついてるとでも、思ってるの?」
「ウソでなくても、兄を探している妹の精神状態から、他に捕獲されている男を誤認した可能性はある」
「お兄ちゃんを見間違えるわけないでしょう」
「だが、確認したのは、その妹、ただ一人だ」
ふーん、と亜美はそんな相槌をして、クインにその目を向ける。
「そう思ってたの? それなのに、随分、大層なチームを呼び寄せたのね」
「ウソだとは、言っていない」
むしろ、確証が取れたから、クインだって、チームを呼び集めたのだ。
「だったらさ、私を脅して、怖がらせようとすることばっかりに時間を費やしてないで、お兄ちゃんの救出作戦の話を続けて? 私を脅して怖がらせたからって、一体、なんの利益があるのよ。素人を怖がらせて、自覚を持たせる――なんて、今、この状態でやってるんじゃないんでしょう? 怖かろうが、怖くなかろうが、お兄ちゃんは、あそこにいるの。だから、助けて」
お飾りもなく、その素直な言葉を亜美が出した。
ジョンは亜美を見返しながら、仕方なさそうに溜息をつき、
「サトウは仲間だ。仲間の救出は、必ずする」
「うん」
「だから――一人で突っ走ることは、決して許さない。指示通り、待機しろ、と言われたら、絶対に言うことを聞くことだ」
「うん、大丈夫。ちゃんと聞くから。ありがとう」
礼を言われても、そんな簡単な問題ではないのだ。はあ……と、ジョンがまたも溜息をこぼした。
「アミ・サトウ?」
「なに?」
「サトウは、口うるさい妹がいる、とは話さなかったが」
「お兄ちゃんには、口うるさくないもん」
にこっと笑った亜美には、完全にお手上げである。
「来たまえ。マッケンジーの横で、屋敷の説明をしてくれ」
ジョンが、スッと、また後ろの輪に戻りだした。
「みんな、名字で呼ぶの?」
クインはその亜美を無視して、歩き出した。
「でも、ジョンって、名前で言われたから、名字を呼べないよね」
そんなところで変な納得をみせる亜美は、軽やかに動き出していた。
溜息をつきたいのは、クインの方である。
全く、手に負えない娘を拾ったものである。
読んでいただきありがとうございました。
Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)
이 소설을 읽어 주셔서 감사합니다