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3.1:Kidnapping - Epi37

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「ふわぁ……っ!?」


 一歩、会場に足を進めた亜美は、今は秘密裏のスパイ活動(仮) の最中である事実もすっかり忘れてしまって、心から感動して呆けてしまっていた。


 今夜は、どこぞのお金持ちが主催するファッションショーのパーティーに参加するらしいのだ。


 亜美の変装道具の中には、イブニングドレスが含まれていたし、それに見合う宝石のアクセサリーや、ドレスに合わせたハイヒールもきちんと揃っていた。


 だから、今夜の為に、亜美は張り切ってドレスアップしたのだ。


 苦労して被っている金髪はそのまま、ドレスを前身ごろに合わせてみて、ドレスの丈も確認したし、色合いも確認した。


 それで、ブーチューブを検索しながら、パーティー用のメイク方法もしっかりと確認してみた。

 何度もビデオを止めては、細かいメイクの部分を確認し、一応、亜美も満足いけるメイクアップが仕上がった。


 ドレスも来てみて、ハイヒールも履いてみた。


 この真冬なのに、イブニングドレスと言えば、冬用の温かな布地や厚手のドレス……ということはない。男性なら、タキシードなどを着込み、随分、温かな格好になるのに、なぜか、女性のドレスアップは、冬でも寒い恰好となってしまう。


 ドレスの生地は滑らかなサテンで、一見、濃い赤色に見えるが、説明書には“バーガンディー色”と書いてあった。深いワインレッドらしい。


 スクープドネックの袖なしのトップ。その下のドレスも同じ色のサテンドレスで、A型のフレアが少し入っているような形だ。


 でも、ハイウエストの横の部分から、ドレスのスカートよりも長く、柔らなシフォンのレースがふんわりと下に流れ落ちている、お洒落なドレスだった。横のシフォンのレースが重なっているおかげで、亜美がドレスを着て歩いてみると、ドレスのスカートが、ふわふわ、ふわふわ、と踊って見えるような感じで、亜美と個人としても、とても素敵なドレスだと思っている。


 一張羅に整えて、バスルームから出て来た亜美は、じゃーんと、クインの前でお披露目をしてみる。


「ねえ、どう思う? 似合ってる? このドレスも、素敵よねぇ。私は、すごく素敵だと思うの」


 気分が乗っている亜美は、ドレスのスカートを少し持ち上げながら、ふわふわと裾を躍らせて見せる。


「………………」

「なに、その反応? まさか、似合ってない、とか失礼なこと言うんじゃないわよね」


 亜美としては、金髪の変装だって、お化粧だって、ドレスにちゃんと似合ってるとかなり自負している方なのに、クインの反応があまりに白けているので――せっかくの努力に反して、少し落ち込んでしまいそうになるではないか……。


「ねえ、似合ってるよ、くらい言えないの? その程度の社交辞令とかさ、せめて、お世辞だとしても、かける言葉くらいあるでしょう?」


 いちいち、口うるさい亜美だ。


「まあ、いいんじゃねー」

「ええ、それだけ?」


 なんて、つまらない反応なのだろうか。全然、誉め言葉にもなっていない。

 ぷぅっと、微かに口を尖らせたような亜美の反応は、絶対に、クインの言葉を満足としていない。


 だが、クインにとって、着飾った女を一々褒めてやるような“繊細な”機微など持ち合わせていないし、そういう性格でもない。


 亜美が地毛の黒髪の時は、特別、気にならなかったものだが、金髪になって、派手にお化粧を済ませた亜美を見ていると――クインの気のせいではないが、なにか……誰かに似ているような気がしてならない。


 真ん丸の瞳がキラキラと輝いて、真っ赤に塗った口紅が協調されて――絶対に、どこかで見たような気がしてならないクインだ。


 そして、気が付いたことがあった。



――――こいつ、バービー人形に似てるんじゃねーのか?



 そして、その結論に辿り着いたクインは、あまりにバカげている発想に、すぐ、自分の勘違いだと先程の考えを帳消しにする。


「その格好で行くのか?」

「この格好で行くって、ドレスだけ着ていくっていう意味?」

「そう」


「もちろん、コートを着ていくよ。こんな寒い真冬なのに、肩だしのドレスだけで外を歩くなんて、さすがに気が狂ってるとしか思えない行動じゃない」

「確かにな」


 外は、すでにマイナスの気温だ。コートもなしで、亜美に凍死でもすれ、と言っているのだろうか。


 亜美のドレス姿には、あまりに白けた反応だけしか見せなかったクインなのに、なぜか走らないが、じっと、クインが亜美の顔を眺めているようなのだ。――むしろ、目を凝らして、何かを確認しているような動作だ。


「なに?」

「その目、なんだ?」

「目? 私の瞳? なんで?」


 まさか……、完璧に済ませたメイクアップだと思っていたのに、もしかして、マスカラとかがはみ出てしまっていたのだろうか……?


 クインが、スタスタと亜美の真ん前にやって来て、亜美に確認も取らず、勝手に亜美の顎をその手が掴んでいた。


「あっ、ちょっと」


 文句を言う亜美を無視して、クインが勝手に亜美の顎を掴んだまま、亜美の顔の角度を変えさせる。


「それ、すごい失礼じゃない?」

「この目はなんだ?」


 そして、亜美の質問は無視され、自分の質問だけ押し付けてくるクインだ。

 亜美の目が微かに剣呑に細められ、


「なんのことよ」

「目が光ってる」

「光ってる? 私の目が?」

「そうだ。それも、片目だけだ」


 それを聞いて、ああと、亜美も思い出していた。



読んでいただきありがとうございました。

Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)


Mauruuru no to outou tai'oraa i teie buka aamu

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