2-3:Aftermath - Epi25
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(重い……)
この胸に伸し掛かってくるような重さは、一体、なんなのだろうか。
(重い、よ……)
息を吸うのにも、肺が押し潰されているような感じだ。この圧迫感は、なんなのだろう。
あまりに重すぎで、体が動かない。
「――重い……」
息を吐き出すのも、こんなに苦労することだとは、亜美も知らないことだった。
なぜ、こんなに、亜美の体が押し潰されるような重さがあるのだろう。
「……重、い……」
それに、苦しい……。
「――ん……わるい――」
亜美の上に乗っているクインは、寝ぼけながらに、一応、両腕を立ち上げるようにした。
身体の上から、ほんの少しだけ重みが消えて、はあぁ……と、亜美の体も一気に脱力しかかっていた。
その動きで、クインの肌に触れてくる感触が他人のもので、手を動かしてみたら、肌がすべすべとした女の体で、クインは、もう一度、頭を下げていた。
唇を当てた先は、すべすべとした柔らかな肌で、それで、クインは躊躇いもなく、下にある唇に自分の唇を押し付けていた。
またも重みが伸し掛かってきて、亜美は、まだ寝たまま、嫌そうに顔をしかめる。
「……んっ……!」
唇を割られ、寝ぼけながらに、なぜ、キスされているのかしら……とは、ふいに、頭に浮かんだものだが、眠っている亜美は夢でも見たのだろうか。
クインのもう片方の手が動き、亜美の体をさすりながら、その手の先に柔らかな丸みが触れてきて、そこでもまた、クインの手が躊躇いもなく亜美の胸を掴んでいた。
しっかりとした手の平が押さえつけられて、寝ぼけているとは言え、亜美の気のせいではなくて――その手の動きが、妙で、おまけに、何度も指が動いている。
パチッと、亜美の目がそこで開いていた。
目の前にあるのは、男の顔で、その男に亜美はキスされていて、そして、その手が――亜美の胸を揉んでいるのだ!
「――きゃあああぁぁぁぁっ!!」
地鳴りがするほどの悲鳴を上げて、亜美が張り裂けんばかりの声で叫んでいた。
パチッと、クインもそのうるさい悲鳴で目を開けた。
見下ろしている先で、強張ったように見開かれた亜美の瞳が、見るからに、
「信じられないっ!」
と叫んでいるほどの驚愕の色を映し、クインを見上げている。
だが、今の亜美の心境など、そんな顔の表情程度で理解できるような、そんな簡単な度合いではなかったのだ。
乙女の胸を触られた。
触られた。
触られた。
見知らぬ男に触られた!
おまけに、むぎゅぅっと、手の平一杯でしっかり触られた!
兄の晃一にでさえ、触らせたことはないのに(かなり論点から外れているが)。
「どこ触ってんのよっ!! エッチ! 変態! 痴漢っ!」
ショックを受けている思考回路で、思いつく限りの罵倒を吐き捨てて、亜美は凝固したように見開かれた目で、真上のクインを睨み付けた。
目を覚ますなり、キーンと、耳鳴りがするような叫びと怒鳴り声が飛んできて、クインもそこで一気に目が覚めていた。
「いつまで触ってるのよっ! 変態っ!」
キーンと、また、耳が張り裂けそうなほどの叫び声だった。
それをそのままに思っているのがもろ顔に出て、クインも嫌そうに顔をしかめていく。
亜美があまりにうるさいので、クインは亜美の胸を触っていた手をわざわざと避け、両腕をつきながら、少し体を起こすようにした。
亜美はまだ間近にあるクインの顔を見上げながら、更に、その顔がひどく強張っていく。
気のせいでもなんでもなくて、亜美の体は――裸である。
その亜美の体に触れているクインの体の感触も――裸である。
「きゃあぁぁぁぁ! 変態っ! 痴漢っ! 意識のない女を犯すなんて、どういうことよっ!」
亜美は声を限りに、その場で、また思いっきり悲鳴を上げていた。
キーンと、その声だけで、頭を殴られそうである。
「黙れよ」
「きゃあぁぁぁぁっ! なにが黙れよっ。信じられない! か弱い乙女の裸を触るなんて」
「ちょっと黙れっ!」
またもそのうるさい悲鳴攻撃を浴びて、クインが咄嗟に、その手で亜美の口を塞いでいた。
亜美の瞳が、カッと燃え上がっていた。クインを怖れて、怯えている目ではない。
むしろ、押さえつけられた体勢に、今にも、クインに食いつきそうな勢いである。
「黙れっ! 俺の説明を聞け」
ギロッと、亜美がクインを睨み付け、全くクインの話を聞く気がないようだった。
「雪崩の下敷きになった女を救出しても、全身ずぶ濡れ。意識もない。この極寒で着替えもしないで放っておいたら、あんたは、あの場で5分もしないで凍死してたはずだ。濡れてる着替えは全部脱ぎ捨て、体温が急激に下がる前に、あんたの体を温める必要があったんだ。当座は、人肌以外に使えるものがなかったんでね。いちいち、文句言うなっ」
亜美が更なる抵抗をして悲鳴を上げないように、クインが早口にそれを言い捨てた。
はた、と剣呑にクインを睨み付けていた亜美の瞳の力がおさまり、クインに口を塞がれたままでも、亜美がちょっと横を向くようにした。
多少は落ち着きを取り戻したようなので、クインも、そろそろと、押さえ込んでいた手を離してみる。
「ここどこ?」
「テントの中」
「テント?」
それで、亜美の瞳だけがまた動いて、見える範囲だけでも、きょろきょろと、辺りを見渡し出した亜美だった。
そして、その瞳が戻ってきて、クインをまた見上げ出す。なんだか、その顔がなんとも言えないようにしかめられている。
「――でも、胸を触ったじゃない」
「寝ぼけてたんだ」
読んでいただきありがとうございました。
Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)
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