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2-2:Black in White - Epi20

長らくお待たせいたしました。体調を少し崩してしまい、投稿が遅くなってしまいました。ここから、再開します。


ブックマーク・評価★・感想・レビューなどなど応援いただければ励みになります! どうぞよろしくお願いいたします。

 前を進んでいるクインから話しかけてくることなんて(絶対に) ないし、暇だからお喋りしようなんてことも、有り得ない。


 緊張している状況でも、さすがに、真っ白な真雪に覆われて、その中を突き進んでいるだけの亜美も、多少の退屈さを感じずにはいられなかった。


 それで、自分のバックパックから水筒を取り出して、手当たり次第、雪を水筒の中に突っ込むことにしたのだ。


 その繰り返しをすると、すぐに慣れてきて、手袋をはめたままの手で雪をすくって、そのままゴシッと水筒の入り口に押し込めればいいという、簡単な手作業を繰り返していた。


「おい、手袋を濡らすな」


 1時間は優に過ぎた頃、今まで一度も口を開かなかったクインが、初めて口を開いた。

 最初の第一声は、文句である。


 ジャケットの長い立ち襟で顔が隠れているのに、クインの言いつけは、きっちり、明瞭に、亜美の耳に届いていた。


「無駄なことをして手袋を濡らしたら、手が凍傷になる。凍死したいのか?」


 無駄じゃないもん――と亜美の無言の反論は、口に出されない。


「熱帯地に比べ、極寒では、傷やケガからの炎症や化膿は少なくなってくるが、それでも、凍傷してしまえば、その話は別になってくる」


 熱帯地などでは、気候も暑く、気温も高かっかたり、湿度も高かったりと、細菌の繁殖率が、普段の状態よりも数段高くなってしまうだろう。


 だから、傷やケガから炎症を起こしたり、化膿したりする可能性が高い理由は理解できるものだ。


「大丈夫。まだ、手袋は濡れてないよ」


 無言で、顔半分だけを亜美に向け、黒づくめで覆われた顔も見えないクインの顔が、しっかりと物語っている。



「だから、手袋を濡らすなと、言ってるんだろうがっ」



 顔の表情が見えなくても、まあ、なんて意思疎通が簡単にできるのかしら。

 さすがに、亜美の口端が皮肉気に少しだけ上がっている。


「どのくらいの距離を、歩く予定なの?」


 話題を勝手に逸らして、手袋の話題は避ける亜美だ。


「次の一時間程は軽く」

「――ということは、今日は野宿? やっぱり……、この大雪のど真ん中で?」

「テントはある」


 それだけで大丈夫だと言っているの?


 口まで出かかった疑問と文句だったが、返事が返ってくることなどないと理解している亜美だけに、はあぁぁぁ……と、あまりに嫌そうな溜息(ためいき)だけしか出てこない。


「道……迷ってないよね……?」

「迷ってない」


 そして、足並みも変えず、ただ前進して突き進むクインだ。

 クインはマップを持っていたり、方位磁石を持っているようにも見えないけど、それでも、亜美達は道に迷っていないらしい。


 その自信と確信している根拠はどこから来るんですか? ――と質問したい。


 もう、無性に、質問したい!

 疑問を吐き出したい!

 答えを聞きたい!

 普通の会話がしたい!


 100%無駄な行為だと、理解している亜美だけど。



* * *



 随分、山の奥なのか、上なのか――を登ってきた感じがする。


 顔がしっかりと隠れているおかげで、ちょっと風花が舞い散っても、頬には影響を受けていない。だから、頬が()り切れて、凍傷になる心配もない。


 “組織”という会社からの支給品は、結構、お役立ちだ。


 ずっと歩いていたから、亜美も凍えるほどの寒さを感じているのでもない。ジャケットの中は、まだ暖かい。


 結構な距離を歩いた気はするが、実際は、それほどの距離でもなかったのかもしれないし、距離だったのかもしれないが、亜美には判断の仕様がない。


 ただ、数時間はしっかり歩き切ったという、軽い疲労感と、微かな足のツッパリ加減ははっきりとしていた。


 今までは、雪だけの真白の世界を歩き、左右も上下も判断が鈍ってくる感覚で、妙に落ち着かず、気味が悪かったものだ。


 ただ、ここら辺は森に入ったのか、周囲はたくさんの大きな木々に囲まれて、その木々の枝の上には、山ほどの雪が覆いかぶさっている光景が目に入ってくる。


 突然、クインが足を止め、亜美に向き直った。


「ここから100mほど進んだ先に、キャビンがある」


 突然、状況説明もなしに、現状報告である。

 だが、亜美はクインの言葉で、一気に緊張していた。


「テロリストの場所?」


 クインはその質問には答えない。


「今から俺が確認しに行く。だから、その間、あんたをこの場所に残していく」

「えっ……? でも――」

「これは遊びじゃないんだ」


 亜美が反論しかけたのを、クインが冷たく遮っていた。

 それで、亜美が口籠る。


「俺が確認をしている間、絶対にここを動くな。身を潜め、どんな状況になろうとも、絶対に姿を出すな。俺が戻ってくるまで、絶対にこの場所を動くなよ」

「わかった……」


 その程度の返事では聞こえないかもしれないと、亜美だって、こくこくと、わざと首を動かしてみせる。


「でも……、クインは一人きりで、大丈夫なの……?」

「その程度は慣れている。仕事のうちだ」


 プロの……アンチ・テロリストのエージェントなんだとは、亜美だって説明されている。


 でも、テロリストが潜んでいるかもしれない場所に、一人きりで確認しに行く危険は計り知れないはずなのに……。


「もし、どうしても避けられない非常事態だと判断した場合、躊躇(ためら)わず、即座に、組織に連絡しろ」

「組織、って……。お兄ちゃんが教えてくれた、あの電話番号?」

「そうだ」


「でも――SOSの信号を送ろうが、救助隊なんてすぐにやって来られないじゃない。その場合、もう、手遅れじゃないの……?」

「今の所、その可能性は低いと判断されている。だから、素人のあんたを、こんな場所に連れてきているんだ」

「そう、かもしれない、けど……」


 でも、最悪の場合は、電話をしようが、ほとんど手助けにもならないじゃないかと、亜美だって考えてしまう。


 ネガティブな思考にはなりたくはないが、現状から言っても、手助けなんて、かなり無理な話だ。


「でも、もう、私の携帯なんて電波が届かなくて、電話なんてかけれないわよ」

「…………」


 嫌な沈黙が下りて、その一拍の間がきまずい雰囲気だ。


 はあぁぁぁぁ……と、(あまりに大袈裟に、あまりに疲れ切ったように) クインが長い溜息(ためいき)を吐き出していた。



読んでいただきありがとうございました。

Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)


ఈ నవల చదివినందుకు ధన్యవాదములు.

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