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2.1:To Alaska - 03

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* * *



 亜美達が乗ったシカゴからアラスカ行きの飛行機は、シアトルで一時トランジットを余儀なくされ、そこからアラスカ行きの次の飛行機に乗り換えである。


 そして、計9時間近くも飛行機に乗っているのに、同日、夜遅く(ほぼ深夜) に、亜美はアラスカ州アンカレッジ(Anchorage)に到着した。


 初めて来るアラスカ州に到着した感動やら、興奮やら、そんな浮かれた気分になれなくて、かなり残念な亜美は、ほとんど無言だけを継続しているクインの後について、パタパタと廊下を走っていた。


 クインと言えば、シカゴの空港でもそうだったが、自分の足の速さを全く止めず、止める気配も気もなく、亜美が後ろからついてこようがこまいが、さっさと自分一人だけで直進していく、なんとも腹の立つ男だ。


 亜美は、バックパッカーズがよく背負っている大きなバックパックを持って((かつ)いで) きたので、その荷物を回収に、ラゲージエリアで荷物待ちである。


 その間、クインは亜美の後ろに立っているだけで、話しかけてくる様子もない。亜美を監視しているだけで、一切、クイン自身から話しかけてくることはなかった。


 アラスカに到着した時間は深夜を過ぎている時間でも、シカゴの時間ではすでに朝方の3時ほどである。


 機内では、一応、睡眠をとってみたが、それでも、時間外に起きて行動しなければならないだけに、寝不足なのか、寝起きで頭が疲れているのか、そのどちらとも言えない亜美だった。


「今は夜中だけど、これからどこに行くの?」


 そして、亜美の質問には無言だけが返される。

 この態度、どうにかならないものか。腹が立つ!


「ねえ、無視し続けるのは構わないけど、自分一人だけが目的場所を知ってるからって、私が行き場所を知らなくて準備ができなければ、寝たり起きたりで、行動が鈍くなるじゃない。遅くなったりしても、無駄でしょう?」


 プンプンと、腹を立ててはいても、仕方なく、亜美は自分の怒りを発散していない。八つ当たりをしても、状況と問題解決にはならないから。


「ねえ、いい加減、その態度、改めたら? 護衛している人間を無闇矢鱈(むやみやたら)にあちこち連れ回しても、疲労させるだけで、ただ問題になるだけじゃない。予定を知っていたら、心構えもできるし、そういう準備だってできるじゃない。まさか――とは思うけど、私を疲労させるのが目的なんじゃないでしょうね」


 素人の亜美を連れ歩く羽目になったクインだけに、目的地に到着する前に、亜美を疲れさせて、役に立たなくしようだなんて……まさか、このクインは考えているのだろうか。


 くいっと、クインが首だけを後ろに回し、亜美をギロリと睨みつけた。ロボットでもあるまいに、くいっと、その音が簡単に想像できるほど正確に、首だけを回す芸当をする、クインもクインだろう。


「迎えが来る」

「迎え?」


「そう。それから、仮眠。朝に移動」

「朝って、一体、いつ起きればいいの?」


 それを聞かれて、クインが自分の腕時計に視線を落とした。


「3時間程。それから朝食で、次に列車。車。セスナ」


 全く説明になっていない予定だけを羅列して、クインはそれで終わりである。


 役に立つ情報なのかそうでないのか、亜美も閉口ものだ。


「セスナ……? ――っていうことは、車で運転できない場所か、歩いていける場所じゃないのね……」

「そう」

「そう……」


 まあ、テロリストらしき悪党がいる場所が、人込みの多い街中にいるのは不向きだろう。


 そうなると、人里離れた田舎か――果ては、アラスカなのだから、山の中……という現実が差し迫ってくる。


 なにしろ、アラスカと言えば、広大な大自然に恵まれた山麗地で有名だ。山がたくさん連なり、湖と川がたくさんある。


 真冬のアラスカ山脈の観光もできたら、どんなに素晴らしいことだろうか……。


 壮大な山脈を見渡し、大自然が広がる広大な大地に景色。雪が積もっているのなら、辺り一面が白銀と化し、それは、さぞ美しい景色が見られることだろうに。


 だが、今の亜美の目的は、自然観光をエンジョイすることではない。残念なことながら……。


 その簡潔な会話をしている間、パーキングを過ぎ去っていき、道路のコーナー付近で、4WDの黒い大きな車が停まっていた。その横に立っている一人の男。


 真っ黒で襟がしっかりとあるフード付きの長いジャケットを着込み、ただ、無言で亜美達の方を観察している。


 クインの視線がチラッとその男に向けられたが、特に警戒する様子も見せず、クインは真っすぐ車の前に向かう。


「ジャケットは後部座席に」

「それは、どうも」


 その短いやり取りだけで、他の会話もなし。説明もなし。


 クインは後部座席のドアを開けて、中からジャケットを取り出した。車の横で待っていたような男が着ているジャケットと同じ、真っ黒なジャケットだ。


 まさか、お揃い?


 なんて、そんな考えが、亜美の頭にも浮かんでくる。それとも、テロリストと戦う会社――“組織”からの支給品?


 聞きたいことも、質問したいこともたくさんある亜美なのに、新たに表れた男も、クインも、絶対に亜美の質問に答えてくれることなんてないな、とすでにその事実は亜美もはっきりと認識している。



読んでいただきありがとうございました。

Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)


Bu romanı okuduğunuz için teşekkür ederiz

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