実行された手段
「なるほど、そういうことだったんですか」
「そうなのよ。それで参ってて……」
「あの、この方は?」
「こいつは風見鶏太郎。気象と気球のスペシャリストじゃ」
「や、どうも」
「それで、何の用なのよ?」
「いや、皆さんから『化石燃料動力機関に頼らずに太平洋を横断できる何か良い方法はないか?』と電話で相談を受けましたので、季節風の調査をしていたのですが、やっと結果が出たのでご報告に上がりました」
「おお、それでどうだった?」
「この時期に季節風に乗れるだけの高度に浮上すれば北米大陸に到達できることが判明しました」
「おお!それで気球は出来上がっているんだろうな?」
「ええ。ご心配なく」
そう言って鶏太郎は、屋外試験場の一角にある車庫から、トレーラーを引っ張り出してきた。
後部車両は、キャンピングカーのコンテナを模して作っていた。
「こいつは……」
「そう、成層圏にも耐えうるキャンピング・コンテナです。もちろん、長期の滞在にも耐えうるよう各種装備も整えてます」
「なるほど、これで太平洋を越えてアメリカにたどり着ける、って訳ね」
いつの間にか立ち直った環境少女が言った。
「今、気嚢にヘリウムの充填終わりました」
「今、トレーラーからキャンピング・コンテナを切り離します」
「テイク・オフ!」
「おおー。見事に飛び立ったぞ」
会員一同が環境少女とマネージャーを乗せたキャンピング・コンテナを見上げる。
キャンピング・コンテナが東の空に消えたところで、自転車に乗った老人と子どもが会員一同の元にやってきた。
「ありゃ、代表と衛君」
"裏庭の科学者協会"代表、田中義人とその孫の衛だった。
「ふーん」
衛が会員一同から今までのいきさつを聞いて鶏太郎に尋ねた。
「それで、そのコンテナ、どうやって操縦するの?」
「あ゛」
コンテナをどうやって操縦するのかを考えてなかった鶏太郎は絶句してしまった。
環境少女とマネージャーがどうなったのか、誰も知らない。
(終わり)