提示された第四の手段
「……なるほど、話は分かった。要は凝りすぎた真似-と言って他の会員を一瞥した-をせんでもヨットを動かせれば良いのじゃろ!?」
「でも儂ら、ヨットの免許を持っている者などだれもおらんでのう……」
「あの、この方は?」
「あらあら、儂ともあろう者が自分を紹介するのを忘れておったわ。儂は摩周メイ。魔術師をやっとる」
「魔術師ぃ?」
「左様。"裏庭の科学者協会"随一の魔術師じゃ」
「それで、魔術師様が何故科学者団体に?」
「『科学は行き着くところまで言ったら魔法と大差なくなる』と言うSF作家のありがたーいお言葉があっての。それでここの会員として認められておるのじゃよ」
「あの、それでどうやってヨットを動かすのですか?」
マネージャーの問いに対して、
「太平洋をヨットを引っ張りつつ一泳ぎ出来る連中を呼んでくれば良いんじゃろ?簡単なことじゃて」
「そんな人間、ホントにいるんですか?」
「誰が『人間』と言うたか?」
マネージャーの問いに対してメイは奇妙な回答をし、試験場の一角に布を広げた。
それは漆黒地で、二重丸の中に色々な紋様が銀の糸で織られていた。
その二重丸の中心地に銀のゴブレットを置き彼女は跪いて「海水」と言うラベルが貼られたペットボトルからゴブレットに液体を注ぐ。
そして布から若干距離を置いて、口の中でもごもごと何事かをつぶやき始めた。
「我と契りを交わした海の同胞よ我が声を聞きてこの地に顕現したまえ……」
「おお、メイ婆さんが魔法を使うのなんて、儂は初めて見たぞ」
「儂は久しぶりに見たのじゃが、あの呪文は確か……」
会員たちがメイについて会話を交わす中、ゴブレットの海水が噴き上がり、噴煙を作り出した。
そしてその噴煙の中から、
魚に手足を付けて人型にしたような、いわゆる半魚人の集団がぞろぞろと現れた。
「こっ、これは一体」
「おう。儂と盟約を結んでいる海の住民達じゃ。こいつらだったらヨットを引っ張ったまま太平洋を一泳ぎなんて、軽いもんだわい」
「あのー、協力者としてTVに写さなければならないのですが……」
「何が面倒じゃ!堂々と写せば良いじゃろう!?」
「こんなバケもの、写せるわけないでしょう!?」
「……ったく、近頃の若いもんは。……って、あれお嬢ちゃんはどうした?」
「お嬢ちゃんだったら隅っこでいじけておるぞ」
「ヨクモソンナコトガイエルワネ、ヨクモソンナコトガイエルワネ、……」
少女は理解することを拒否して、実験場の片隅で膝を抱えてうずくまってつぶやいていた。
「あれ?みんなしてなにやってんすか?」
「ありゃ、鶏ちゃん?」