依頼内容
時は現代日本。
そのどこかにある地方都市、常奏市杏展町。
その住民集会場の和室で二人の老紳士がテレビを見ていた。
杏展町を拠点とする(自称)発明家集団"裏庭の科学者協会"のメンバー、江入灰人と国友突貫斉である。
テレビでは、東京先進国国際環境会議で北欧から来た少女が、オブザーバーとして演説したというニュースを流していた。
"私たちの未来のために放射能による恐怖と化石燃料の使用による温暖化の回避を!"
少女の台詞が字幕で流され、ニュースキャスターが一言二言付け加える。
「しっかしまぁ、あれだな。原子力と火力を封じられたら電力をどうやって確保すれば良いのやら……。水力とか、再生可能エネルギーとかじゃ到底賄い切れんじゃろうに。」
「と、なると……。確か打石さんの作った『ヴェルヌ・ノーチラス風海水採取式電源』あれはどうなったんだ?」
「ダメダメ、打石さんったらその過程で出る廃熱処理を誤って、試作品を水蒸気爆発でぶっ壊しちゃって行き詰まったんじゃないの」
『彼女はこの後、"化石燃料を使わずに移動できる"ヨットで太平洋を横断してアメリカで行われる全世界国際環境会議で演説をする予定です』
ニュースキャスターがそう述べてニュースを終えた。
直後、集会場玄関のチャイムが鳴った。
二人が玄関に出て「どうぞ」と声をかけると玄関のドアが開いて、一組の男女が立っていた。
一人は若い男。
もう一人は、ついさっきまでテレビのニュースになっていた少女だった。
灰人と突貫斉は二人を会議室に案内して、二人に座るように伝え、若い男-少女の通訳兼マネージャー-が少女に座るように勧め、少女が座るのを見届けた上で男も座った。そして"裏庭の科学者協会"の二人も座る。
四人が座り終えた時点で少女が早口にしゃべり出し、男がそれを翻訳するのに難渋しているようで言葉に詰まっていた。
老紳士達はやっと言葉を出そうとする男を手で押しとどめて、どこからともなくマイク付きヘッドフォンを取りだして装着した。
"裏庭の科学者協会"会員の一人、戸田夏夫が発明した「ゼロタイム翻訳機」である。
灰人と突貫斉は「準備よし」と言いたげにうなずき、少女は再び早口にしゃべり出した。