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東京タイクーン  作者: ゴルゴンゾーラ
5/18

田辺 佳代子の場合

宇宙人と戦わされる?!

そんなの、まっぴらごめんだよ!


今年の4月で72歳になる田辺佳代子は、サングラスの男たちから逃げ出した。


へっ!あたしゃ、足には自信があるんだ!

このまま逃げ切ってみせるわ。


佳代子のところにも政府の人間がやってきたのだ。


家でジイさんと二人、テレビのワイドショーを見ている最中だった。


「ジイさん、どのチャンネルもこの話題しかやってねえわ」

佳代子はチャンネルを次々と変えていた。

「そらそうだろ。地球の一大事だからなぁ」

ジイさんがのんびりした声で答える。


アメリカ襲来からちょうど20年後、人類が忘れた頃にアイツらは戻ってきた。


今回、宇宙船は渋谷の街に降り立った。

渋谷の大型スクリーンに宇宙人の姿が映し出される。


「今回は、我々は人間の姿をまとうことにしました」


髭をたくわえた60代くらいの男性の姿。

シルクハットを被り、タキシードを着ていた。

これが今回の宇宙人の姿だった。


「ゲームマスターというんでしょうか。今回そんなイメージですわ」

宇宙人両手を広げ、くるりと一周回転してみせて、自らの姿を説明する。


「前回と同じルールにしましょう。救世主5名の抽出は済んでいます。これが名簿。さぁさぁ、すぐに5人を集めて」


-------------------------


せんべいをボリボリと食べながら佳代子は言った。

「それにしても東京が選ばれるとはね。

今回は、救世主どんなやつらだろうねぇ。

あたしゃ20年前のとき、ジョナサンのファンだったなぁ」


ジイさんが答える。

「やっぱ、キャサリンだろ。金髪で可愛かった~。

まぁワシラもう老人だし、万が一、地球が滅びても構わんなぁ」


「そうだねぇ。子どももいなけりゃ、孫もいないしねぇ」


二人には子どもができなかった。

おまけに、人生の終りを迎えつつある年齢。

だから、守るべきものが何もない。


「ピンポーン」


「あれ、誰だろうねぇ。町内会の集金かも。ジイさんちょっと出ておくれよ~」


「わかったよぅ」

ジイさんは、ヨッコイショと言いながら、立ち上がる。

佳代子はワイドショーを観続けた。


コメンテーターが言う。

「政府はさっそく、名簿の5名を都内から探し出しています。5名の方、地球の未来がかかっています。どうか頑張って!」


小説家のコメンテーターが言う。

「最後まで生き残れば、億万長者間違いなしですしね!実際アメリカのマイケルがそうでしょう。選ばれた人が羨ましいくらいだわぁ」

などとしゃべっている。


(この作家、自分が選ばれたら本当にそんなこと言えるのか~)

佳代子は呆れていた。


「バ、バァさん」

ジイさんが、リビングの入口に立っていた。

「どうしたジイさん。集金だったか?」

「い、いや、バァさん大変だ。政府の連中がきやがった」


「えっ!?」


---------------------------


ジイさんが玄関の扉を開けると、そこにいたのは、中年男と数人のいかつい男たちだった。

「田辺佳代子さんはご在宅ですか」

「へっ。佳代子になんの御用で」

「このたび、佳代子さんが救世主に選ばれました」


(なに~~~~~っ!バアさんが救世主に)

ジイさんの思考は一瞬停止した。


だがすぐにジィさんは、機転を利かせたのだった。

「か、佳代子はいま、留守だわ~。スーパー行ったわ」


佳代子がいないというと、政府の中年男は言った。

「念のため、お部屋を調べさせていただきたいのですが」


「なん!ち、ちょっとまて、いま娘が遊びに来ておって、風呂上がりで素っ裸なんだわ。ちょい待っとって」


-----------------------------


「バァさん、逃げるんだ!そこの窓から、とりあえずこの金持って」

ジィさんは、町内会に渡すつもりだった千円の入った財布を投げた。


バアさんは空中で財布をキャッチすると、ジイさんの目をじっと見つめた。

(どうやら本当のようだね)


佳代子は瞬時にジイさんの言うことを理解した。

二人は連れ添って50年。

阿吽の呼吸で生きてきた。

深い絆を持つパートナーだったのだ。


「ジィさん、アディオス」

佳代子は、ジィさんに投げキッスを送ると、窓から飛び出した。

幸い二人の住む部屋は、マンションの1階だったので、簡単に逃げ出せたのだ。


------------------------------


「田辺さ~ん、まだですかぁ?」

政府の人間が玄関口で叫ぶ。

「は、まぁ~、今行きます」

ジイさんは、佳代子をなるべく遠くへ逃がすために、ノロノロと時間を稼いでいた。


「ま、まてよ」

黒服の一人が、タブレットをタップしながら言う。


「田辺夫妻には、子どもがいないはずだ!嘘だ!すぐ家の中を調べろ!」


黒服たちはアパートに踏み込み、部屋中を探す。

時すでに遅し。

佳代子は窓から逃げたのだった。


「おい!なぜ嘘をついた!」

黒服はジィさんを問い詰める。


「はて~?どちらさまでしたっけ?」

ジイさんは必死にボケたふりをする作戦を実行した。



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