萌絵と洋一
「救世主どうし、チームプレイが必要となってきます。まずは新橋さんと朝比奈さん。お互い、親睦を深めてください」
佐藤は、萌絵を、洋一のいるスイートルームに連れてきた。
「はじめまして。朝比奈萌絵といいます。物流倉庫で働いています」
萌絵は、洋一に向かって頭を下げた。
洋一は萌絵を見てかなりの衝撃を受けた。
(えっ!なに!?めっちゃ可愛い子、来たーっ)
「えっと、新橋洋一っていいます!洋一って呼んでください。電気屋の店員です」
洋一はドキドキしていた。
めちゃくちゃ、可愛い子じゃん!
目が大きくて髪の毛がサラサラで。
芸能人みたいだった。
こんな可愛い子と救世主同士として、一緒に戦うことになるのかぁ。
フッ
いい冥土の土産ができたってもんだな。
洋一は宇宙人に勝てると微塵も思っていなかった。
自分が選ばれたのは、都内「最弱男」だからに違いない。
宇宙人は自分たちに有利にするために、最弱男を選んだのだろうと考えていた。
「それで、佐藤さん。ほかの救世主は?」
萌絵が佐藤に聞く。
「一人は、もうすぐこのホテルに到着するはずです。内密なのですが、あなたがたには、話したほうがいいでしょう。もうすぐ到着する一人は、犯罪者です」
「えぇえ!?」
洋一が飛び上がる。
「人殺しですか!」
「新橋さん、殺人者だとはひとことも言ってない。
彼は、恐喝罪で捕まって刑務所にいた人間です」
「き、恐喝罪?」
「罪人なんですね。それで、わたしたちに用心するようにと?」
萌絵が落ち着いた声で言う。
「話が早い。そういうことです」
佐藤は萌絵のほうを感心したように見つめる。
「あとは超能力についても教えてほしいんですけど。
一体超能力ってなんなんですか?」
萌絵が尋ねると佐藤は、洋一にした時と同じ説明をした。
「この錠剤を飲めば、能力に目覚めます」
萌絵は錠剤の瓶をじっと見つめていた。
その目は不安そうに見えた。
そうだよな。
こんなの怖くて飲めないよな。
洋一は、萌絵の様子を見て「うんうん」と内心、頷いていた。
しかし
萌絵は瓶から一粒、錠剤を取り出すと、ぐいっと飲み込んだ。
(水無しで!?)
いやいや、驚くのはそこじゃねーわ。
「朝比奈さん、いま薬を飲んだの!?」
萌絵はキョトンとした顔で洋一を見返した。
「えっ?だっていずれ飲まなきゃいけないものでしょう?」
萌絵は、不思議そうに洋一の顔をみている。
「あっ、そうだ。私のことも萌絵って呼んでくれて大丈夫です」
萌絵は洋一に向かって、にっこり微笑んだ。
どうやら朝比奈萌絵は、可愛い顔をして度胸の据わった女のようだった。
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「それで、私はもう超能力者なんでしょうか」
萌絵は自分の両手を眺めながら言った。
「まったく、実感が無いのですが」
「アメリカからの情報によると、能力の目覚めには個人差があるそうです」
「戦いは3日後とおっしゃいましたよね?間に合うのかな」
萌絵は不安そうだった。
「お、俺も飲みます」
萌絵が飲んだのに、自分だけ逃げ続けるわけにはいかない。
萌絵が来たことで、急に洋一も戦いに前向きになり始めていた。
単純な男である。
洋一も、錠剤入りの瓶に手を伸ばす。
「薬飲みこむの苦手なんですよねー。
なんか、甘いジュースとか?ありませんかね」
傭兵の一人が販売機でオレンジジュースを買ってきてくれた。
(俺もとうとう、超能力者に。
どうしよう、スプーン曲げしかできなかったら)
洋一は錠剤を一粒口に入れると、オレンジジュースで飲み込んだ。
「ゲホッ、ゴホッ」
オレンジジュースが変なところに入りむせたが、なんとか錠剤を飲み込んだ。




