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東京タイクーン  作者: ゴルゴンゾーラ
10/18

桜田 海斗の場合

佐藤は洋一の見張りを、政府が雇った「傭兵」たちに任せて、ホテルリターンをあとにした。

ほかの救世主たちも急いで見つけなければならない。


宇宙人との戦いは刻一刻とせまっていた。


作戦本部に向かうため、専用車に乗り込んだ。


「作戦本部まで走ってくれ」

佐藤は運転手に伝える。


(それにしても)

佐藤は思った。

(20年前のアメリカでは、救世主たちはすんなり戦うことに同意し、勇敢だった。なぜ日本人はこうも臆病なのか。世界のためなのに)


---------------------


作戦本部。

街の各地にある監視カメラやモニターの映像が、壁面一杯のスクリーンに映し出されている。

救世主を顔認識し、検出するとアラームが鳴る仕組みになっている。


「佐藤さん!救世主の一人なんですが!」

「どうした?」

佐藤は渡されたタブレットに目を通す。


「なにっ?救世主の一人が刑務所にいる?」

佐藤は名簿を見て驚いた。


名簿によると救世主の一人、桜田 海斗(22歳)は刑務所に収容されていた。

「彼はなんの罪を犯したんだ?」

佐藤は、タブレットをタップして、桜田のさらなる詳細情報を呼び出した。


「恐喝罪か」

佐藤はタブレットを部下に見せる。

「佐藤さん、桜田は完全にヤクザですね。そんな人間が救世主だなんて」

部下は、タブレットを叩きながら目を見開いていた。


-------------------------


桜田海斗は、いわゆる破滅型の人間だった。

彼には、右頬と右腕に、火傷の跡があった。

幼い頃に、火事にあい両親を失っている。


中学で後輩に暴力を振るって少年院送りに。

その後はヤクザまっしぐらの人生を送っていた。


詐欺や恐喝もしてきた。

ひとを殴るのは日常茶飯事。

殺しだけはやったことはないが、兄貴や親父に命令されれば、なんなくこなせるだろう。

むしろ人を殺してみたいとさえ、思っていた。


人が破滅していくのは何度もみてきた。

借金まみれの女が体を売り薬漬けにされるのも、そんな母親を見て泣き叫ぶ子どももみてきた。


海斗は、破滅していく人間をみて「気の毒に」と思うことがなかった。

生まれつき共感能力が異常に低く、どんな残酷な場面をみても何とも思わない。


自分さえ良ければいい。

自分さえ無事ならばいい。

そういう思いが強い人間だった。


-----------------------


「極秘に。秘密裏にことを運ぶんだ」


佐藤は、今回、政府によって急遽つくられた「救世主管理委員会」の委員長をまかされていた。

内閣総理大臣より全権を委任され、救世主に関することはすべて佐藤の判断で行うことが出来る。



「救世主の桜田が受刑者であることは絶対に秘密だ。極秘裏にムショからホテルに移動させるんだ」


「しかしいずれ、マスコミが嗅ぎつけるのでは?」

部下の一人が最もなことを言う。


「あとのことはどうでもいい!とにかく桜田をホテルに連れてこい。一応、手錠は外すなよ」


救世主の一人が受刑者で、しかも刑務所から無条件で出されたとなれば、世間はさらなるパニックに陥るだろう。


だが、刑務所から出さずにいれば、4人の超能力者で戦うことになる。

一人でも欠ければ戦力が足りず、戦いは不利になる。


なにしろ、負ければ地球が滅びるのだ。

犯罪者の一人やふたり、逃したところで問題にもならない。

いや、むしろ、逃さずにいたほうが大問題だ。


佐藤の最優先事項は、5人すべての救世主の超能力を開花させ、戦いのスタート位置につけることだった。

戦いが始まったあとで、桜田が犯罪者とバレたところで、もう、どうとでもなれ。

そこまでのことは考えていなかった。


「桜田が見つかった。行方不明の救世主は、あと二人か」


これでいま現在、そろった救世主は「新橋 洋一(25)」「桜田 海斗(22)」「朝比奈 萌絵(20)」......ここまでほぼ20代の若者だが。


残るは「田辺 佳代子(72)」と「川田 守(32)」の二人を捕まえること。

そして、能力開花のための錠剤を飲ませることだ。



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