戦いのなかで
燃えさかる炎。
洋一は萌絵のほうに手を伸ばす。
「萌絵!こっちだ」
萌絵は洋一の手を必死でつかむ。
「一緒に逃げよう」
二人は手と手を取り合って、長い廊下を走り抜ける。
出口はもうすぐのはず。
はぁ、はぁ、はぁ。
「洋一、もう走れない。足首が痛む」
萌絵が立ち止まってしゃがみ込む。
「もう少し頑張って。あと少しだから」
「置いていって。洋一にまで死んで欲しくない」
萌絵は、涙をいっぱいためた目で、洋一を見上げた。
どうして、こんな立場で、こんな風に、俺たちは出会ってしまったんだろう。
普通に出会えていたら、どんなに幸せだったか。
「だめだ。死ぬなら一緒に死のう」
洋一は萌絵を立ち上がらせ、ぎゅっと抱きしめる。
「洋一」
「さぁ、俺がおぶっていくから」
洋一はしゃがみこみ、萌絵に背中を向けた。
「ほんとうにごめんなさい」
萌絵は、洋一の背中にしがみつく。
洋一は、ガリガリに痩せて非力だった。
だが歯を食いしばり、踏ん張る。
彼の両足は生まれたての子鹿のように震えていた。
しかし、なんとか立ち上がることができた。
とてもじゃないが、萌絵をおぶって走ることはできそうになかった。
彼はゆっくりと一歩ずつ、出口へ向かって歩みを進めた。




